第7話
朝、目が覚めたマコトはぼーっとする頭のまま辺りを見回す。
木造の質素な部屋。
見慣れない光景に脳が覚醒する。
「俺、異世界に来たんだよな。」
暫し虚空を見つめた後、顔を洗う為にベッドから降りると、全身に鋭い痛みがはしった。
思わずよろけて再びベッドに座ってしまう。
マコトは激しい筋肉痛に顔を顰める。
ベッドの上で痛みに耐えながらストレッチをすると、ゆっくり歩ける程度には回復した。
洗面所に行くのさえ辛い、いっそのこと洗面所までテレポートしてやろうかと考えたマコトは自らに天眼を使った。
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名称:マコト・カガミ
異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽
容量:97/100
魔法:ビルドアップ 20/20
テレポート 10/10
リカバリー 30/30
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「テレポートは1日に10回使えるのか…………ん、何だこれ?」
マコトは見慣れない魔法をいつの間にか覚えている事に気付いた。
新たに覚えたリカバリーという魔法を天眼で視る。
どうやら一定時間、自らの身体を常時回復させる効果を持つようだ。
「いつの間にこんな魔法を…………まさか……?」
マコトは、この魔法はクレイグが使ったものではないかと考えた。
昨日あれだけしごかれたマコトだが、運動不足を自認するマコトが、半強制的にとは言えあれだけ動き続けられた事に、疑問を抱いていたのだ。
昨日は必死に言われた事をこなすので精一杯だった為に気付かなかったが、普段のマコトであれば途中でダウンしているのは間違いなかった。
クレイグがこっそりとこの魔法を使って回復してくれていたのではないか、と考えたのだ。
実際、この推測は当たっていた。
しかしそれは、クレイグが優しいからではなく、マコトが最後まで動き続けられるようにする為である。
彼はどこまでもスパルタであった。
理由はどうあれ、便利な魔法を覚えられた事にマコトは心中で感謝する。
早速リカバリーを発動すると、身体の中が優しい熱を帯びるのを感じた。
これを使えば今日一日でかなり回復するだろう、とマコトはご機嫌で朝食を取る為に一階の食堂へ向かった。
その日は不足している日用品や衣類などを買い、あとは本屋で買った迷宮に関する本を読みながら身体を休めていた。
リカバリーは一度の行使で一時間効果が続いた為、マコトは一日中発動していられた。
お陰で翌朝起きた時には、全快と言って良いほど身体の調子は良かった。
マコトは気合いを入れてギルドへ向かった。
受付にはレイラがいた。
「あ、マコトさん!こんにちは!」
「ええ、こんにちは、レイラさん。今日もクレイグさんに指導していただきたいのですが。」
「えっ、本当ですか?本当に良いんですか?無理矢理来させられたんじゃ……?」
「いえいえ、私の意思ですよ。お願いできますか?」
「は、はい、勿論構いませんが………お身体の方は大丈夫なんですか?」
「ええ、問題ありませんよ?私の身体は回復力が少し高いみたいです。」
「少しどころで治るような状態ではなかったように思いますが………マコトさんが仰るのでしたら止めませんが、無理はしないで下さいね?何かあったら私に言って下さい!父の横暴は許しませんので!」
真剣な表情で言ってくれたレイラにマコトは苦笑する。
「その時は宜しくお願いします。では、練習場をお借りしますね。」
「わかりました。すぐに向かわせますので、お待ち下さい。」
練習場に向かって待機する。
ただ待機するのも暇だった為、マコトは二日前の指導を思い出しながら素振りをして待つ事にした。
30回ほどの素振りを終えて剣を一度降ろすと、すぐ近くにクレイグが来ていることに驚いて、慌てて挨拶をした。
「く、クレイグさん!すみません、気付かなくて……本日もご指導、宜しくお願いします!」
「いや、気にすることはねぇ。なかなか良く集中してたじゃねぇか。素振りも悪くなかった。やっぱりお前は才能あるぜ。」
「ありがとうございます。」
天眼のお陰だと思いつつも、誉められて悪い気はしないマコトであった。
「んじゃ、今日も気合い入れていくぞ!見たところ身体は大丈夫みてぇだからな。」
「はい!」
こうして今日も、厳しい鍛練が始まった。
ーーーマコトが異世界に来て一ヶ月が経過した。
探索者として登録したマコトだが、未だに迷宮に一度も入っていない。
マコトは準備を万全に揃えてから臨みたかったし、指導者であるクレイグは水を吸い込む真綿のように自らの技術を吸収していくマコトに気を良くして、この一ヶ月間あらゆる指導を行った。
指導の度に身体を極限まで虐め、次の日に魔法を活用して回復させる、という生活を繰り返している内に、マコトの身体は様変わりしていた。
肥満というほどではないがたるんでいた腹部は見事なシックスパックを誇り、腕や足の太さは一回りほど大きくなっていた。
おまけに身長まで伸びており、日本人としては平均的であった身長は平均よりやや上となっていた。
相変わらず周りの人間よりは少しだけ幼い容姿ではあるが、鋭い目付きと精悍な顔立ちを見て、彼が新人であると感じる者は少ないだろう。
たった一ヶ月でこれだけの変貌を遂げる程、クレイグの指導は厳しく辛いものであった。
また、クレイグのスパルタ訓練を逃げず隠れずに一ヶ月間受けている新人がいるという事で、ギルド内でマコトはちょっとした有名人となっていた。
特にクレイグの指導から逃げた事のある者やベテランの探索者などは尊敬すらしており、マコトが一流の探索者になると考えて友好な関係を築こうとするようになった。
その為、マコトがギルドに入ると毎度のように何人もの探索者から話しかけられるようになったのだが、それを気に入らない者もいるようだった。
そういった者はマコトにちょっかいをかける機会を伺っていたが、クレイグにバレたら大変な事になるのではないか、と怯えて実行に移してはいない。
自分に友好的でない視線を向ける者達がいる事を感じながらも無視して通い続けていたマコトだが、そろそろ迷宮の探索をしなければ金が底を尽きると思い、ついに迷宮に潜る事を決心していた。
いつものように受付に向かうマコトに顔見知りの探索者が話しかけてくる。
彼らと挨拶を交わし、適度に会話しながら受付に行くと、すっかり専属のようになったレイラが笑顔で出迎えた。
「こんにちは、マコトさん!今日も指導をご希望ですか?」
「いえ、今日は迷宮に行ってみようかと思いまして。」
「なるほど、ついにですか。……その旨、父には伝えていますか?」
「いえ、今日行くとは言っていませんが、近々予定しているとは伝えています。けど今日は訓練できそうにないので、一応伝えておこうかと思いまして。」
「畏まりました。それでは呼んできますので、少々お待ち下さい。」
一礼したレイラが裏へ向かう。
数分後、レイラがクレイグを連れてやってきた。
「おうマコト、迷宮に行くんだってな?」
「はい、そろそろ稼がないときつくなりそうなので。」
「そうか………まぁ、お前なら大丈夫だろ。今のお前なら、一人前以上には戦えるはずだ。だが、油断するなよ。」
「はい、わかりました。……この一ヶ月間、ありがとうございました。」
「おう。自分で言うのもなんだが、新人の身でよくあの訓練に食らいついてきたもんだ。自信を持て。お前はやれる人間だ。」
「ありがとうございます。」
マコトは深く頭を下げた。
辛く厳しかった一ヶ月間の努力が報われたような気がして、思わず涙腺が弛みかけるが何とか堪える。
「これまでみたいに定期的に来るってのは無理だろうが、また鍛えたくなったら来い。怠るんじゃねぇぞ。」
「はい、勿論です。」
「マコトさん、気を付けて下さいね。くれぐれも無理はしないように。」
レイラが心配そうに瞳を揺らす。
「心配して下さってありがとうございます。無理せず頑張って来ます。」
そう言った後、マコトは再度二人に頭を下げて、ギルドを後にした。
ここ数日で迷宮探索の計画を立て、準備を終えていたマコトはそのまま迷宮へ向かう事にした。
迷宮へ向かいながら自らを天眼で視る。
この一ヶ月で魔法の数もかなり増えた。
下級の迷宮に出る魔物くらいならば、大丈夫だろうと自信を持って言える程、彼は強くなっていた。
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名称:マコト・カガミ
異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽
容量:90/100
魔法:ビルドアップ 20/20
テレポート 10/10
リカバリー 30/30
クリーンアップ 30/30
ファイアボール 30/30
ヒール 20/20
ウィンドカッター 30/30
ウォーターショット 30/30
クリアウォーター 40/40
ストーンアロー 30/30
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マコトが使える魔法は10個になっていた。
この時点で既に超人的なのだが、彼の場合は全ての魔法の制限回数が倍になっている。
魔神の加護がいかに反則的な効果を持っているのか、マコトは決して他人に話してはいけないなと心底思うようになった。
ちなみに、ほとんどの魔法は自分に友好的な探索者にお願いして見せてもらったものだ。
どういった魔法があるのか、興味があると言えば自慢したがりな探索者達は簡単に見せてくれた。
罪悪感を忘れる為に、見せてくれた探索者達には酒を奢ったりしていると、更に仲良くなる事ができた。
それぞれの魔法を説明すると、以下のようになる。
クリーンアップ:物体の汚れやちょっとした錆びなどを消す事ができる。マコトの場合小さめの部屋くらいなら全体にかける事ができる。
ファイアボール:バスケットボール程度の火の弾を打ち出す。マコトの場合はバランスボール程度の火の弾になる。
ヒール:切り傷や打撲を治す事ができる。マコトの場合は骨折していても治す事ができる。
ウィンドカッター:革鎧に切り傷をつける程度の風の刃を打ち出す。マコトの場合は金属鎧に切り傷をつけられる。
ウォーターショット:高速で水を打ち出す。直接的なダメージを与えるというよりは目潰しなどに使われる。マコトの場合は子どもくらいなら吹き飛ばすほどの勢いが出る。
クリアウォーター:清潔な飲料水を生成する。マコトの場合はミネラル豊富な美味しい水が生成される。
ストーンアロー:革鎧に刺さる程度の速度と硬度の石矢を発射する。マコトの場合は金属鎧に刺さる程度の速度と硬度を持つ。
これ以上に強力な魔法ともなると簡単には見つからないらしい。
しかし、それでも魔法とは強力なものであるのに違いはない。
ましてやマコトの場合は魔神の加護で強化されているのだ。
魔物にどの程度通用するのかわからないが、全く効かないという事はないだろう、とマコトは考えていた。
だが、この時マコトは知らなかった。
否、予想外だったのだ。
この世界における魔法というものが、どれほど強大な力を持っているのか。
更に強化されたマコトの魔法が、どれほど反則的なものなのか。
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