3・12月15日_育まれるは夢物語

 いつも通りの週末が終わった。親にもチームの監督にも理不尽に怒られた。もう辛さなどない。だが、もとからどうでもいい。といういつもの感覚とは違うのだ。「週末さえ乗り切れば」という希望が僕の原動力となっていたのだ。「今日は死ぬ予定だったのにな…」呟いて青い空を見上げる。自分には眩しすぎる光。不意にイカロスを思い出す。僕もああして盲目的に輝きへと向かっていって灼かれてしまったりするのではないか?途端に目から光が消え、濁った感情が表に出てしまう。「切り替えろ自分。もう一人ではない。戻りたくはないだろう。明るく、陽気に物事をこなすだけ。彼女にこの姿がバレたのならどんな表情をするのだろうか。失望だろうか落胆なのだろうか。どちらでも同じだ、隠し切らなければ。」それは本心なのか?それは君のすべてを彼女に預けていることになるのかい?語りかけて来るもう一人の自分がいたが、気づかないふりをして学校への道を急いだ。学校に着き、2−2−の教室に入ると、宵坂さんが寄ってくる。ちょっともじもじして深呼吸をする彼女。「お、おっ…」「ん、どうした?」「お、おはよっ真田君。」彼女はおはようを言うためにこれ程緊張していたのか。無性に可愛いなと感じた。「うん。宵坂さん、おはよう。今日も一緒に帰る?」彼女はぱあっと目を輝かせ、「いいのっ?やったあ。…でも真田君、家が遠いんじゃ…」「僕なら全然大丈夫だよ。宵坂さんさえ良ければ。」「なら、お言葉に甘えて。よろしくね!」速歩きで去っていき、お馴染みの女子グループへと戻った。

 ひと通りの授業が終わり、下校する。生徒会も今日は集まりがなかったようだ。昇降口を出ると彼女が「真田君、こっちこっち!」呼ばれる声に向かって行く。そこには彼女の他に3組のカップルがいた。「真田君も知ってはいると思うけど、こちらのリア充3組を紹介します!まず1組目は、川島 亮太君&柴田 芽衣さん。清島君は硬式野球のシニアに所属してて、柴田さんは私と同じ吹奏楽部ね。次に山内 京吾君&永浜 恵さん。山内君はサッカー部部長で永浜さんは女子の中で最も可愛いって有名だからね。そして北条 雅也君&澤村 百合さん。北条君は同じ生徒会の会長だし、知ってるよね。澤村さんは2−3の学級委員長だよ。この二人のすごいところはね、今、えっと、何年間だったっけ…?」「4年目やね。」澤村が返す。「そうそう、4年やったね、失礼しました!百合ちゃん最後にこの私、宵坂こよみと、」「真田瑞穂です。まだ始まって4日目ですね。皆、いつも仲良くさせてもらっていますが、改めてよろしく。」「とのことでーす。私、宵坂は何か言ったほうがいい?まぁいっか。行きましょう!」カップル✕4で校門へと向かう。それぞれ部活のない日はカップル同士で集まって帰るらしい。そして上下関係というほどではないが、ある程度の序列はあって大御所の北条カップルは大体メインである。つまり付き合い始めて4日の僕たちが1番下であった。だから、今日は殆ど質問攻めだった。「どちらから告白したの?」「互いにどこが好きなの?」「いつから好きなの?」といった具合。彼女と僕は顔を赤らめながらも少しずつ答えていった。皆の食いつきようが凄くて押され気味となってしまった(苦笑)好きなポイントについては、「明るいけど知的で魅力的なところ」だと答えた。「もう、やめてよ!恥ずかしいなぁ。」軽くパシッと肩を叩かれる。心地よくて、この時間が続けばいいと思った。(あ、自分にMの素養はありません。)それにカップル同士の交流も意外にしつこくもなくていいと思った。まあ、みんな自分達のことに必死だからだろう。川島カップルが手を繋いで肩を寄せ合っている様子を見て思った。不意に柴田がこちらを振り向く。反応が遅れた自分は目を反らすことが出来なかった。「どうした、真田?あ、もしかして真田もこよみと手を繋ぎたい系男子か〜(笑)真田が手を繋ぎたいってよ、こよみ。」「なっ…真田君はそんなこと言ってないですよ!…っ自分は全然いいんですけど…」「だってよ、真田。繋げばいいじゃーん。」周りが急かしてくる。「真田君っ、繋ご…」手を差し出して、僕の右手を絡めとる。体中から汗が出るのがわかる。自分の拍動のみならず、彼女のものも伝わってくる。僕らはゆっくり目を合わせる。「悪くないでしょう?真田君。」「確かに。悪くないものだね。」再確認した僕らは互いに顔を赤らめながら指を絡ませる。俗にいう、恋人つなぎなるもの。ひやかしを気にも止めずに二人の世界へ。そう、確かに悪くない、むしろ心地良い。手繋ぎのみならずこの関係も。


ずっとこのまま続けばいい、今はそう思っていた。

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