1・12月13日_始まり
12月13日(金)
この日は最後の学校だった。教育相談とやらで、四時間授業で日程が終わる。ちょうど今日は僕の面談日だ。帰りのHRの直前クラスメイトの女子が話しかけてきた。その女子の名は「宵坂 こよみ」という。「教育相談が終わったら少し下で待っててくれない?」自分は取り敢えず縦に首を振った。一回隣の席になったくらいで、あまり接点という接点はなかったので、なんの話なのか見当もつかなかった。
教育相談は予定より二十分も伸びた。進路について熱く担任に語られた。自分にはもう関係ないのにね。呆れながら昇降口へ向かう。上靴を通学鞄にしまい、しゃがんで外履きに履き替える。靴を履き終え顔を上げたその瞬間、宵坂の姿が目の前にあった。すっかり忘れていた。瞬時に私は学校生活用の「人付き合いの上手い優等生モード」に意識を切り替える。笑顔を造り、彼女に問う。「宵坂さん、待たせたね。どうしたの?」彼女は少しうつむく。そのまま震える声でもじもじしながら喋りだした。「っ…。あのね、真田君のことがずっと好きだったの。だからっ、貴方といたいなって、付き合ってくれたら嬉しいなって…」その言葉を聞いた瞬間、心が震えた。何で自分にそんな言葉を掛けるんだ。折角ここまで計画を立てていたのに。己を落ち着かせる。これは僕の応答次第だ。極力柔らかく断ろうかな。自分は笑顔を崩さず言う。「僕は生徒会書記なもんで放課後も学校に残ることがしばしばだし、水・金は塾もあるし、土・日はソフトボールの練習があって、吹奏楽部部長の宵坂さんとは遊びの予定が立てられない感じだし、他の人の方が楽しめると思うんだよ。」しかし彼女は「そんなこと承知の上です。それでも良い。貴方がいいの、一緒にいたいの」普通、中学生なんかの恋愛は遊戯に等しいはず。恋愛経験があるという称号がほしいだけで、適当な感情に身を任せるものである。口から出任せなのではないか?人をよく観察する私にはささやかな特技があり、人の思うことの大体は目を見れば読み取れる。それでも彼女の目は本気であった。彼女は普通の人とは違う。本気で僕を、僕自身を求めてくれている。僕を必要とする人は皆僕の能力、人望を頼るために寄ってくる。初めてだ、僕自身を求めてくれたのは。彼女ならば僕を救ってくれるのか?真っ黒に塗りたぐられた様に希望の無い荒れ果てた僕の世界を鮮やかに染めてくれるのか?僕の全てを彼女に預けても悪くはない。少し計画を延ばすだけだ。「貴女が、良いと言うのであれば。」
このとき彼女が「僕」を変えてくれる「女神」となるなんて知る由もなかった。
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