裏手の公園
わたしたちはまるで浮世から逃げるようにして、夜にふたりで裏手の公園まで歩いた。その中でもわたしは庭園の傍に建てられた四阿を一番に気に入っていた。石畳の上に、木製の支柱と、とんがりの屋根とがあって、灯はひとつもない。いや、少し向こうに背の高いのがひとつだけ……。
なんの話をしていたか、それは記すまでもないような他愛のないものだったはずだ。しかし何時間も何時間も、空腹を忘れて話し合った。いつしか疲れて、肩を寄せ合って笑いあっていた。それから境内を練り歩いて、コンビニのまばゆさに気取られながら、おにぎりでも買って、持ち合わせていたミルクティーを飲み切った。再び、四阿に戻った。
すると、雨垂れに芝生が鳴りはじめ、空気が冷え込んできた。真っ白の月明かりが冷たげな手先と頬とを濡らしていた。思わず手に取って、温めてやろうとした。しかし、彼女はおもむろに立ち上がって、ふふ、と笑みをこぼすと、傘を広げて雨の森を駆けていった。私の手は宙で萎んでいた。
あはは、と大きな笑い声が雨音に叩き落されて、私はそのまま彼女のもとまで飛び込んでいった。こちらに気付いた彼女は、天を仰ぎ、傘を投げ捨てた。傘はぐるりとひっくり返って、芝生に墜落した。
黒々と艶めきはじめた髪の毛に月光がじっとりと溶けこんだ頃、無我夢中に体を抱き寄せて、温かいのを感じた。吐息が一番に濡れていた。
「風邪をひいてしまうよ」
「でも、楽しいじゃん」
そうやって拗ねる彼女の手を引いて、石畳を黒く染め上げながら、雨宿りをした。
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