異邦人

 不思議な匂いのする香水にうっとりとしながら、彼女のふとももに頭をあずけた。

「大丈夫かい、痛くはないかい」

「うん、だいじょうぶ」

 私はさっきに、つまらぬ身の上話を済ませたばかりだった。それで、顔向けできなくなって、なぜか、こういった体勢を取ることになんのはばかりもなかった。彼女はこちらを見下ろして、髪を撫でてくれた。

「どうして、また笑ってるの」

「面白いからさ。それに尽きる、……」

「ずっと笑っているのは、つらいからじゃない?」

「……そんなこと、ないよ」

「……ホダルチ……」

「なんだい?」

「うそつき。――そうやって、隠そうとするの、だめでしょ。わたし、彼女なのに」

「がっかりさせちゃ嫌だから、……こんなつまらない、昔のことでいちいち悲しんでられないよ」

 すると彼女は、むうっ、と頬を膨らまして、

「ばか、それとこれとは話がべつ。悲しんでるなら、助けてあげたいって思うでしょ、それはみんな同じ」

 ああ、と私は、思わずため息を吐いていた。

「――私のいじめられていた昔に、君が傍に居てくれたらだなんて、そんなくだらないたらればを、はるばる日本に来てくれた子に、言わせられてしまうなんてね、私は、本当におおばかものだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る