イヤーローブ
晩ご飯のとき、父が、
「開けない方がよかったなあ、それ。ピアス」
と言ったものだから、ご飯が、急に不味くなった。
「お前さんはかしこいから、俺の言うことが、わかると思う」
こうやって、家族で食卓を囲むのは、三か月ぶりだった。
「理系の学校で、成果主義で、校則が緩くて、そういった感覚が鈍っているんだと思う」
そこまでわかっていて、こうして口をはさむのは、せめてもの親心だろうか。
「だが、お前を判断するのは、周りの人間だ。だから、お前がどれだけ否定しても、周りがそう思ったのなら、そういうふうに思われるんだ。いいか?」
「わかってるよ。――だけど、今開けなかったら、いつ開けるの。こうやって、髪を伸ばすのだって。せっかくそういうことをするのなら、自分が格好良い時にやりたい。歳取ってからやると痛いじゃん」
「それはそうだけど。まあ、いいか、わかっただろう、お前はかしこいから、俺がなにを言いたかったか」
「もちろん。大丈夫だから。その分、頑張ればいいだけだ」
〇
「そのピアス格好いい!」
留学生の女の子にそう言われて、少なくとも、これだけで、ピアスを開けて良かったと思いました。私は肌が白いほうなので、シルバーアクセサリーが得意で、リングとも合わせていました。髪も、肩ぐらいまであるので、後ろでひとつに束ねておりました。
「君もそのピアスが素敵だね。リングとも、ネックレスともぴったりだ」
彼女の耳朶には大きなフープピアスが煌めいていて、私は羨ましくなりました。
「そういうピアスは、開けてからどれぐらいでつけられるの」
「えと、わからないな。六歳の頃から開けたから」
「六歳! それはすごいね。私はまだ三か月しか経ってないのに」
「じゃあ、全然取り外せないんだ」
「そうそう。前に半日ぐらい外してたら、全然入らなくなってて……塞がるのが早くて困るよ」
「え、すごい」
「まあでも、外さなくていいと思ったら、楽でいいし、なにより、格好良いって言ってもらえるなら開けた甲斐があったよ」
「うん、格好いい!」
〇
「我々は多細胞生物だからね。つまり、こうして開けた穴が塞がるのは、あくまで自然なんだ。ずっと長い時間が経って安定して来れば、そういったのは少なくなるけれど、まだまだ生傷となんにも変わらない。だからきっと、外さなきゃいけない理由がたくさん並べば、しかたないとは思うけれど、外している時間が長くなると、穴はきっと勝手に閉ざされてしまうのだろうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます