第351話 競馬はどうかな?

「サッカーでも同様ですが、スケートボード競技もレギュレーションを二つに分けたいと考えております」

「確かに。基準が難しいですね」


 促すと壮年の男が代表して意見を述べる。

 彼は今回の集まりのリーダーを務めてもらっているんだ。

 いずれはスポーツ振興委員会的なものに出来ればと思っている。現状は来月の競技会実行委員会的なもので、一時的な組織だ。

 今後も定期的に競技会をやって行こうとか何とか理由をつけて恒久的な組織にしようともくろんでいる。

 さて、リーダーの言うことは中々難しい問題なんだよな。

 この世界はギフトや魔力ってものがあり、個人差が非常に大きい。

 魔法を禁止する、と宣言しても事前に身体能力強化魔法をかけてから挑んでも検査のしようがない。

 いくら体を鍛えてもエリーの馬鹿力の域に到達することはできないし、一秒先が見えるギフトなんてものがあったとしたらフェイントが意味をなさなくなる。

 スケートボード競技で高く飛び上がることが高評価になるとしよう。

 飛行能力のある種族ならいくらでも飛び上がることができるし、滞空時間勝負なら体力が尽きるまで浮いていることができるだろ。


 沈黙が流れ、言い辛いのかなと思ったので俺から言うことにした。


「正直順位を競うのは難しいと考えてます。インパクト重視にし、やってみたい、面白そうと思ってもらえる方向で行いたいです」

「私どももどうやって順位をつけるのか、は結論が出ませんでした」

「スケートボード競技は怪我をしないようにだけ注意し、観客の皆さんを楽しませることに軸足を置く方向にしましょう」

「承知しました」

「悩ませてしまい、私の指示が良くなかったです」

「いえ。とんでもございません!」


 ガタリ、と全員が立ち上がって恐縮してしまう。

 う。本件については俺に非がある。

 当初俺の頭の中でスケートボード競技と言えば、オリンピックのように金・銀・銅があってしかるべしのイメージだった。

 その考え方がそもそも不味かったんだよね。俺が余計な指示を出したばかりに彼らを悩ませてしまった。

 なので遠回しに「ごめんなさい」をしたのだけど、大公と言う立場も考え物だよな。

 やはり、何でもかんでも直接やるのは良くないことだよ。

 俺は回って来た書類を淡々とさばく……いや、決してサボりたいわけではないのだ。ほら、現場がさ。

 仕方ないじゃないか。

 邪な考えが顔に出ていたかもしれんと、ワザとらしく咳払いをしてスケートボードのレギュレーションについて議論を移す。


「スケートボードは特別製でも良し、現状販売を開始したものでも良し。とするのでどうでしょうか?」

「はい。順位付けするものでなければ、スケートボードとはこういうものです、という基準を設けるだけで良いかと愚考いたします」

「そうしましょう。コマが二つでスケートボードだ、となったらスケートボードではなくなります。スケートボードとは何かという基準をまとめておいていただけますか?」

「承知いたしました」


 その後も一時間近く議論が交わされ、だいたいまとまったところで終了となった。


「スポーツを根付かせるのは中々大変そうだね」

「身体能力の違いが地球と段違いだから、調整が難しい」

「ヨシュアくん。その点で一つ浮かんだのだが、いや、それでも差は出てしまうのかな」

「ん? せっかくだし聞かせて欲しい」


 屋敷に到着しようかというところで、サッカーのサンプルユニフォームを着たペンギンが何やら思いついた様子。

 俺と後ろに座るセコイアに挟まれる感じで何ともおまぬけなポジションにいるが、俺も彼も至って真剣なのが外から見るとシュールだよな。

 また、ペンギンだけじゃなくセコイアも別のデザインのサンプルユニフォームを着ている。

 二人ともサンプルを見て気にいったのか、着てみたいと言ってくれてさ。感激した店長からサンプルユニフォームを頂いてきたんだよ。

 大公だからと言って無償でもらうつもりはなく、むしろ、大公だからこそポンと相場以上のお金を渡すべきだと思っている。

 そんなわけで、アルルに謝礼を持って行ってもらうつもりだよ。

 

「身体能力に寄らないものであれば、競技として成立するかもしれない。そこで、乗り物レースならどうだろうか」

「なるほど。競馬的なものだよね。面白いかも」

「馬でもセコイアくんのように馬と意思疎通できる者とそうでない者で大きな差が出る気もするけどね」

「確かに。障害物じゃなく平地なら、そこまで差が出ないかもだよね。検討の余地はあるよ」

「本当は自動車レースができれば適していると思うが、自動車はまだまだ実現できそうにない」

「自動車かあ……パーツが複雑過ぎて……」


 魔石機車はレールの上を走ることと、大きな車体でも構わないことの二点があるから実現できた。

 自動車はブレーキ一つとっても今の工業精度では難しい。

 ペンギンが検討してくれたのだけど、可能性があるとすれば複数の魔道具を組み合わせる以外ないとのこと。

 他に優先して開発したいものが無くなったら、自動車に関する基礎研究を行ってもいいかもしれない。だけど、まだその時ではないかなってところ。

 

 喋っていたら屋敷に到着し、ペンギンを抱きかかえたセコイアがヒラリとジャンプして華麗に着地する。

 馬って結構な高さがあるんだけどな……。

 一方の俺はと言えば、鐙を頼りによたよたと馬から降りた。

 よろけてしまいそうになったのは秘密だぞ。


「のお。ヨシュア」

「ん。こけそうになんてなってないからな」

「もはや突っ込む気にもなれん。キミのバランス感覚は……」

「ほっといて……」

「ボクが喋りかけたのはそこではないのじゃ。馬との意思疎通について宗次郎と喋っておったじゃろ」

「うん。競馬場のことだよね」

「そうじゃ。馬と意思疎通ができれば疲労の状態やらつぶさに知ることができる。しかし、一概に有利になるとも言えん」

「そうなの?」

「うむ。ほれ。ヨシュアが少し走って弱音を吐くじゃろ。まだ走れるのに休みたいから言っておるのか、本当に限界なのか言葉だけじゃ判断がつかんじゃろ? 却って見誤ることもある」

「な、なるほど。セコイアから見て馬を走らせる競技は騎手側の能力の差が極端に出ないものなのかな?」

「それほど問題にならんじゃろ。むしろ、馬を走らせる技術がモノをいう」

「それなら願ったり叶ったりだ」


 競馬場案はいいかもしれない。

 ネラックに競馬場を作るとしても、競馬の中心地にはしたくないな。

 何もかも一か所に集中するのは好ましくない。

 競馬が人気競技になれば、馬産地も増えて来るだろうし、どこかで別の場所で競馬の祭典を行いたいところだなあ。

 

「競馬かね。面白そうだね」

「競走馬という概念がないから、まずはそこからかなあ。協力者も探さなきゃ」

「楽しみにしているよ」

「は、はは」


 言うは易く行うは難し……。

 手を出すと益々忙しくなってしまう。競馬は見たい。だがしかし、う、うーん。

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