第284話 竹とユマラ
ルンベルクらに空から調査をお願いして、俺はジョウヨウ宮の離れを丸ごと使わせてもらえることになった。
広すぎて落ち着かないが、広い方が片付けの手間がないから都合がいいかあ。
扉口にはクレナイと彼の部下らしき騎士が立ち、右手の長机にはシャルロッテが、左手の長机にはイゼナが座る。
俺は扉口から見て正面に置かれた長机にいるのだが、机の上にはペンギンがパタパタしていてセコイアは俺の膝の上であった。
いつものスタイルである。
イゼナとの会談が終わってから一時間も経たないうちに離れが準備され、早くも第一陣が到着した。
「ジョウヨウ宮付近の野草と私どもが育てている作物をお持ちしました」
「は、早いですね。ではさっそく」
イゼナが中身をチェックしてから、俺に声をかけ恭しく礼をする。
みんなで中身を床に出して、さて、植物鑑定の開始だ。
忘れがちであるが、俺にはギフトという特殊能力がある。ギフトは生まれながら持つパターンが多いが、後天的に獲得する場合もあったりそのメカニズムは不明なんだよな。
人間のみが獲得する能力というわけでもなく、猫族であるアルルがギフトを持っていたりする。
ギフトは戦闘に役立つもの、知識を与えてくれるもの、ネイサンの浄化のようなもの……と効果のほどを数え上げればきりがない。
一体いくつくらいの種類があるんだろうか。連合国の研究機関に聞けば分かるのかな?
魔法の研究機関を整備した時にギフトの学術的な研究もとねじ込んだんだよね。政務が激し過ぎて作るだけ作ってその後の研究成果を聞いてなかった。
グラヌール辺りに頼んでまとめてもらおうかな。いや、彼も仕事量がなあ。研究機関に報告してもらうように依頼しようか。
シャルロッテに文をしたためてもらえば……やめておこう。自分でやった方がいい。
彼女の仕事量を心配しているわけじゃないんだ。
俺や研究機関に思っても見ない負荷がかかるかもしれないと懸念している。彼女のことだから、以下略。
知識欲に際限はない。そこでパタパタしているペンギンや俺の鑑定を待っている狐ほどじゃないけど、俺にだって知りたい欲求はある。
サボりたい欲求がそれ以上にあるだけだ。
ペンギンが待ちきれないとばかりにフリッパーを上にあげる。
「どれから調べるかね?」
「片っ端からいこうか」
最も近くにあったのは、俺もペンギンも良く知る植物だな。
細い緑の葉を持ち成長がとても早いことが特徴なあれだよ。あれ。
会談のクッションを見た時から自生しているんだろうなと思っていた。
竹だよ、竹。
良かった。虫とか亀じゃなくて。
『名前:
概要:竹の一種。高く成長する。地下茎から出る若芽「タケノコ」は食用になる。
育て方:温暖な沼地が至適。急激に成長する。
詳細:竹は加工がしやすく…………』
「竹だな」
「ほう。竹かね」
「俺たちの知る竹に近い。生育環境が異なるけど、ホウライだったら雨期で水浸しになったら生育するのかなあ」
「それは興味深いね!」
「タケノコは食べることができるみたい。竹じゃ食糧問題の解決にはならないな。田んぼみたいに水を張って植えたら育てることはできそう」
俺とペンギンの会話を聞いていたイゼナがネラックに竹を持って帰ってもいいと申し出てくれた。
ありがたく、竹を持って帰ることにしよう。竹細工は良い物だ。うんうん。
他に変わったことはないか詳細を流し読みしていたら、気になる一文があった。
――ユマラが好む。
「ユマラって何だろ……」
「ほう。ユマラか」
獣を統べる者らしいセコイアの狐耳がピクリと動く。
「ほう。知っているのかキバヤ……セコイア」
「ただの獣ではない。雷獣ほどではないのじゃが、知能が高く力も強い」
「へえ。竹を好むってことは雷獣みたいに草食ぽいな。イゼナさん」
「ユマラなる者のことでしょうか?」
ホウライの中でのことだから、イゼナに話を振ってみたのだけど首を傾け思案する様子。
護衛にあたるクレナイが彼女へ何か耳打ちする。
「クレナイは見たことがあるそうです。特に村や街に被害が出たという話はありません」
「なるほど。特に食害があったり、はないのですね」
「お、いいことを思いついたのじゃ。ユマラに農場を手伝わせればよいのじゃ」
頷くイゼナを遮り、セコイアがポンと手を叩く。
「牛のように使うってこと?」
「牛より力があるのじゃ。餌を用意できれば使役獣として有用じゃぞ」
「へええ。そいつは検討の余地ありだな」
「うむ」
腕を組みふふんと鼻を鳴らすセコイア。
牛より使える使役獣となれば、より手間のかかる農作業でも今までより短い時間でこなすことができる。
手間暇がかかり過ぎて作ることの出来なかった作物にも手が出せる。
お次は小麦か。これはネラックにもある作物だから調べなくてもよいかと思ったけど、せっかくだから植物鑑定を使う。
うん、品種も同じらしい。
詳細を流し読みしてみたが、こちらは特に変わったことが無かったな。
他にもアワ、キビ、カラスムギ、オオムギと連合国でもお馴染みの作物が続く。
変わったところではジュズタマ、コーリャン(モロコシ)があった。
「根を食べるタイプの作物はあるのかな?」
「根ですか。ニンジンを多少は」
イゼナの指す先には小さなニンジンが。色合いは大根みたいだけど、調べてみたら確かにニンジンだ。
塩害だというので、根っこを食べるタイプの食物で何とかならないのかな、なんてことも考えていたんだけど根っこのタイプの作物が少ない。
ジャガイモ、サツマイモ辺りは主力にも成り得るものなのだけど、ここにはない。
ジャガイモやサツマイモならキャッサバと違って連合国特産ってわけでもなし。育てることができるか試す価値はあるな。
他には葉物なら種類がかなりある。
水菜ぽいものとかホウレンソウみたいなものとか、様々だ。
「おお、米もあるんだ」
「陸稲かね」
「陸稲も、こっちは水稲だよ。ペンギンさん」
「おお。水稲もあるのかね」
イゼナ曰く、どちらも栽培しているわけではないとのこと。
陸稲は街の外に自生していて、水稲は雨期に生えてることがあるらしい。
ガマやハスの近くに並べられていたので、これらと共に自生していると思う。
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