第244話 そういやそんな設定があったな
といっても、アスファルト舗装を施工するにはクリアすべき技術的な問題がいくつもある。
これまでのやり方と同様にチェックポイントを設けて順番に達成していき、ゴールを目指すことにしよう。
頼りになるペンギンもいることだしな。
「ヨシュアくん。魔法の力なくしてアスファルト舗装は難しい」
「ペンギンさんでも?」
「建材は専門外だよ。ヨシュアくんの知っていることとそう変わらない。科学技術だけでやろうと思えばできないことはないが……」
「試行錯誤で下手したら年単位で時間がかかる?」
「そうだね。時間がかかるだけじゃなく、コストもかかってしまうかもしれない。そうなるとコンクリート一択になる。更には完成しても改良を繰り返さないといけない。しかし、別に科学技術だけでやる必要なんてないんだよ。この世界にはこの世界なりのやり方がある。これまでもそうしてきたからね」
「だな! 魔素回路の技術も使えそうだし。既存の魔道具が優秀だ」
科学技術のみで現代日本のようなアスファルト舗装を完成させることは長い時間をかければいずれできるだろう。だけど、舗装するコストがかかっては意味がない。
俺たちには魔法という武器がある。高温を保つのだって燃焼石と専用の魔道具があればよい。ふ、ふふふ。
「楽しみじゃのお」
「セコイアにもいっぱい協力してもらうからな」
「任せておけい」
ふんと無い胸をそらし腰に両手をやるセコイアだったが、狐耳がピクリと動く。
何か思いついたのかな?
「ふむ。ルンベルクかの」
「足音もしないのに分かるの?」
動物的な勘の方だったらしい。ルンベルクだけじゃなく、アルルもエリーも足音を立てないから扉をコンコンとされるまで全く気が付かないんだよね。
俺はセコイアと違って野生センサーなんて持ち合わせていないから仕方ない。
「匂いやら空気やら、あやつと分かる要素はいくらでもある。熟練した技を持つことは確かじゃが、この妖狐の目は誤魔化せんのじゃー」
「あ、そういやあったな、そんな設定」
「設定ってなんじゃー」とお怒りのセコイアが飛びかかってくる。
ふ、ふふ。回避力を鍛えた俺の……ぐおっぷ。
久々にまともにぶち当たられた。転びそうになるが、彼女を抱き抱えるようにしてその場でとどまる。
お、押すな。押すなって。
ドシン。
尻餅をつき、ちょこんとセコイアが俺の膝の上に座る。
「失礼いたします」
「すまん、遊んでたわけじゃないのだけど」
間の悪いことにちょうどそこへルンベルクが顔を出し、優雅な礼をして姿勢を正す。
こっちはセコイアを膝の上からどかそうと押し問答中である。
遊んでいるようにしか見えないよな。実際そうなんだけど、つい、ルンベルクの前だからカッコつけちゃった。
それでも真面目な彼は眉一つ動かさず、会釈をする。
「重々承知しております。ヨシュア様のお耳に入れさせて頂きたいことがございます」
「何か連絡が?」
「はい。レーベンストックより書簡が届いております。お持ちしました」
「レーベンストックがか。交易の件は片付けたし。俺に直接はこないはず。何か不測の事態が発生したのか」
問いかけてもルンベルクは小さく首を振り、蝋印で封がされた書簡を掲げた。
ふむ。手紙が来ただけで彼は何もレーベンストック側から言伝を受けたわけじゃあないんだな。
書簡の封を切って中を改めた。
「え、ええと。レーベンストックで祭りをやるそうなので、是非、参加して欲しいってさ。祭りといっても収穫祭のようなものじゃあなくて、競技大会みたいなやつかな」
「競技大会と申されますと?」
背筋をビシッと伸ばしたまま問いかけてくるルンベルクに柔らかな笑顔を向ける。
「どうやら誘われたのは連合国だけじゃないらしい。各国で2組まで代表を出して競うんだって。メインはトーナメント式の
「公国と辺境国は別組で出場されますか?」
「騎士団から適当に派遣するか、やりたい人を募ってもいいけど。俺が俺がとなったら困るよな」
「騎士団からですか」
ルンベルクにしては珍しく含んだ言い方だな。彼は俺を気遣う時以外に言葉を濁すことなんてまずない。
きっと何か言いたいけど、俺を気遣って言えずにいるんだ。
あ、そうか。
「他の部門が気になっていたのかな。力自慢、的あて、変わったところだと早食いとかもある」
「ヨシュア様。無礼な願いでありますが、お話しだけでも聞いてくださいますでしょうか?」
「エリーのこと?」
「エリーゼのことではございません。以前からいずれお耳に入れようと愚考していたのですが、機会を逸し続けており申し訳ありません」
ん、エリーを力自慢部門に出場させてみてはどうか、って話じゃなかったの?
この前、小屋を持ち上げちゃっていたから、彼女のパワーは相当なもんだぞ。優勝を狙えるんじゃないだろうか。
でも、彼女は自分の筋力を忌避しているようなところがある。俺のためなら躊躇せず使ってくれてはいるけど……。
アルルの前で恥ずかしがっていたりしたものな。
女の子だし、力持ち過ぎるってのは大っぴらにしたくないって気持ちを持っているのだと思う。
ルンベルクに問いかけようと口を開きかけたところで、狐耳の邪魔が入る。
「ルンベルクの話の前に。ヨシュア。ボクも出るぞ」
「え、台覧試合に? 魔法は禁止って書いてないからまあ……出てもいいけど」
「ボクが総なめにしてもつまらんじゃろう。そうじゃの。早食いに出ようかの。どうじゃ?」
「その体だと一番最初にギブアップしそうだけど、セコイアが出たいならヨシュア権限で出場者に選ぶよ」
ひょっとしていろんな食べ物が用意されるとか思っちゃったか?
各国から集まった美味しい物を食べ放題……となると確かに魅力的かもしれん。俺が出ようかな?
いや、ダメだ。
涎を垂らすセコイアの物欲しそうな顔を想像するといたたまれない気持ちになって、彼女を選ばなければと使命感に苛まれる。
「それじゃあ。早食い部門はセコイアで」
「任せておくがよいぞ。ぬふふ」
涎、涎出てるぞ。
セコイアの意外な一面を見た。まさかの食いしん坊バンザイなところがあったなんて。
これまで彼女が食に拘りを見せる場面ってのは数えるほどしかなかった。彼女が惹かれる案件ってほぼカガク絡みだったもの。
「ヨシュアくん。セコイアくんと私は席を外すよ。ちょっとばかし、ルンベルクさんと会話をするのを待ってくれないか」
「ありがとう」
ペンギンがペタペタと扉口に向かう。途中でセコイアが後ろからペンギンを抱っこして部屋を出て行く。
一方でルンベルクは、出て行く二人に向け上品な会釈をしてから、こちらに向き直った。
「そこに座ってくれ。話そうと思って話せなかった、というのは俺を気遣ってのものだろう? もしくは俺が忙し過ぎたから少しでも休む時間と思ってとかその辺だろ?」
「お心遣い痛み入ります」
「だから、申し訳ないとか、思わないで欲しい」
「ヨシュア様……」
ルンベルクが感涙し、絹のハンカチを目元に当てる。
相変わらずの感動屋であった。
※こ、更新おくれました、、、。
二度目のワクチン接種で倒れておりました、、。
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