第80話 お客様がお帰りだ
「マナの流れとセコイアから聞いた魔法の構築回路を総合するに、雷獣の毛に魔法の構築回路が刻まれている、で合っているか?」
「その通りじゃ。キミのその割切りは嫌いじゃあない。そうじゃの。何もキミが魔法の深淵を理解せずとも『何をしているのか』が分かれば判断がつくといわけじゃの」
「うん。魔法の回路を紐解き、構造を逆向きにすることで電気がマナに変換されると考えていた。それで魔法について尋ねたわけなんだけど」
「ふむ。一朝一夕では理解できぬと悟ったというわけかの?」
「その通り。餅は餅屋にだ。魔法の構築回路を空想することで魔法が発動する。だけど、雷獣の場合は体に刻まれているんだったよな」
「うむ。雷獣の毛に魔法術式が描かれておる」
「それって、物理的なものなのか? 例えば、とある物質を組み合わせて……とか」
細胞単位でとある並びになっているとか。構築回路を構成する物質があって、それが立体図形を描いているのか。
魔術的で視覚できない「マナ」とかでなく、物理的な物質であれば科学的に解析もできなくない。
科学は生物の構造を調べ、バイオルミネセンスの仕組みを解明した。他にも蜂の巣が何故強靭なのか、クマバチはあの小さな翅で何故飛べるのか?
などなどあげればきりがないほど、生物の仕組みを解明しそれを工業製品に組み込み活用してきた。
物理的に分析できるものであれば、科学的アプローチが可能だ。
「物質……というのは概念が分からぬが、『見える』のじゃよ。キミも見ただろうて、マナの動きを」
「セコイアだと俺やペンギンより遥かに微細な動きまで見えるから、構築回路(立体図形)も読み解けるってことかな?」
「うむ。カガクで魔法を読み解く。非常に興味深い。いずれキミと共に研究したい。じゃが、今ではないのだろう?」
「それってどういう意味だ?」
「一つ、キミやペンギンは戦いに長けた者ではない故に気が付かぬことがある。ガルーガやバルトロ辺りなら真っ先に考えることじゃがの」
ん、んん。
戦いの心得……じゃあないな、モンスターに対する時に考慮する必要がある事柄ってことか。
話が飛躍しているけど、セコイアのことだ。何か意味があって問いかけているに違いない。
「出会ったら逃げる。もしくはセコイアガード。それ以外にモンスターや猛獣に対処することなんて考えたことがないな」
「……迂遠な聞き方じゃったな。一つ言っておくと、ヨシュアは逃げることを考えん方がよい」
「え、ならどうしろと」
「ボクの後ろに隠れる以外はモンスターの餌じゃな」
どんくさいから逃げる前に掴まってガブリで終了とはハッキリと言ってくれるじゃねえか。
うん、その通りだから仕方ない。逃げることができるのは、逃げる実力がある者だけだ。
は、ははは。
乾いた笑いが漏れた。
対するセコイアは「うわあ」とあからさまに嫌そうな顔をしつつも、切りかえて説明を続ける。
「モンスターというものは、得手不得手があるのじゃ。炎竜は氷に弱く火に強いとかの」
「ふむ。雷獣は稲妻に強いとかか」
「そうじゃ。例えばじゃ、フレイムビーストのように体から炎があがっているモンスターだとどうなる?」
「水をかければダメージを与えれそうだ。ん、待てよ。なるほど、フレイムビーストとやらは知らないけど、わざわざ火で例えてくれたんだな」
「うむ。冒険者なら気にするが、ヨシュアにとって弱点はどうでもよい」
一言多いんだからもう。
俺にとってモンスターを討伐するための手助けになる情報なんて意味がない。
本命は「火に強い」という部分……つまり耐性だ。
鉄をも溶かす高温に包まれたモンスターが、いくら自分が出した炎とはいえ普通なら体が耐えられるわけがない。
ひょっとしたら鉄が溶ける温度でもビクともしない物質で体が構成されているかもしれないけど、その線はまず無いだろう。
体が運動をするには適性な温度ってのがある。トカゲなんか分かりやすい。
昼間は活動的で冷える夜になると体の動きが鈍くなる。
高温が最適なモンスターは、少しでも体温が落ちる、ましてや常温になったら全く動けないどころか冷えて死んでしまうんじゃないか。
寝ている時も高温を発していたら、食事もままならない。食糧が燃えてしまうからな。
なら、炎で包まれた内側の部分は水の沸点よりは低い温度だろうと予想される。
じゃあ、どうやって体の温度を保っているのだろう? と紐解いていくと答えは「耐性」があるからと推測できる。
つまり、体の温度を保つために、毛に触れた炎はもしくは熱そのものをマナに変換しているんじゃないかって。
言い方を変えれば、炎を発する逆向きの回路が発動しているってことだ。
「理解した。つまり雷獣の毛は稲妻をマナに。マナを稲妻に。どちらもできるってことだよな?」
「うむ。魔法の術式を解明する必要がないことは分かったかの?」
「それならそうと、最初から……」
「ヨシュアがいつもボクにしてくれていることをしたまでじゃ。自ら『気づく』ことで生かすことができるのじゃろ?」
「そっか。ありがとう。セコイア」
「褒めるなら頭を撫でるがよい」
わしゃわしゃ。
言われた通り素直にセコイアの頭とついでに狐耳を撫でまわす。
しかし、狐耳を撫でるのはすぐにやめた。変な声出すから……。
言われるがままに彼女の頭を撫でるのは、心から称賛したいと思ったからに他ならない。
単に撫でろと言われても、絶対に撫でたりなんかしないのだ。
「言い換えれば、周囲が電気で満たされていればマナに変換できるってことだな。なるほど、バッテリーの仕組みに似ている」
「ほう。カガクと魔法の術式が似ているとは興味深い」
「魔法の構築回路の考え方は、カガクと似ていると思う。雷獣の協力一日目で良い収穫だったな。ありがとう、セコイア」
「褒めるなら……むぐう」
「さっきもう撫でただろ」
セコイアの口を塞ぎ、その先を言わせないようにした。
雷獣の毛は電気が過密だと電気をマナに。電気のないところにマナを通すと電気に変換される、と考えればよい。
厳密には気になるところがいくつかあるけど、今確かめるべきことは電気がマナに変換されるところのみ。
どうやってマナを流せば電気になるのか、雷獣がやったように圧倒的な放電をするんだったら放電したらすぐに電気が過密になってマナになるんじゃないのか、
なんてことは考慮しない。
他のことを考慮するのは、バッテリーに雷獣の毛を入れてみてマナに変換できなかった時だ。
バッテリーは電気を流すと充電し、電気がなければ放電する。
「よし、今日のところは解散だな」
「一緒に寝てもよいのじゃぞ」
「分かった分かった。エリー! お客様がお帰りだ」
扉の向こうに向け叫ぶと、すぐに自室の扉が開く。
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