第25話 魔王の信念

俺は広間にみんなを呼び集め、話し合いを始めた。


「というわけで、魔王軍幹部について対策を講じたいと思う!なにか、その魔王軍幹部について知っているやつはいないか?」


しかし、誰も答えない。


「あの、我々はそもそも、魔王さまのほかに別の魔王が存在しているということを知りませんでした。ですので、おそらくここにいる者は誰もその魔王軍幹部については知らないかと……」


と、アトラスが言う。


なるほど、たしかにそうだ。


そもそも、俺もルートから聞くまでは別の魔王の存在なんて知らなかったからな。


こいつらが知らなくても、別におかしくはない。


「まぁそれなら仕方がない。魔王軍幹部についてはまたどこかで情報収集するとしよう」


「かしこまりました」


「じゃあ、どうやったらその魔王軍幹部を倒せるのかについて考えよう」


「どうやったら……ですか?」


「ああ、その幹部はどうやらスライム系統の種族らしくてな。そこで、お前たちにスライムの倒し方を教えてもらいたいんだ」


「なるほど、スライムですか……」


と、アロマが手を上げた。


「はいはーい!」


「はい、アロマさん!なんですか?」


「スライムっていうことは、単純な物理攻撃は効かないわよね?」


「そう、そこが問題だ。スライムには単純な物理攻撃は効かず、すぐに回復されてしまうんだ」


「だから、魔法での攻撃が有効なのよね」


「そう。そうなんだが、ここからが話の本題だ」


「本題?」


「ああ、スライムを倒せる方法は魔法以外になにかないかと思ってな」


「つまり、魔王さまは魔法を使わなくてもスライムを倒す方法が知りたいというわけですか?」


「そうだ、アトラス」


もちろん、理由がある。


俺は生まれつき魔力も少なく、覚えている魔法もそこまで強いものではない。


だから、正直言って俺がそのスライムの幹部を倒せる気がしないのだ。


だが、もしも魔法でなくともスライムに有効な攻撃があるのだとしたら、俺でもその幹部に立ち向かえるかもしれないと思ったからだ。


「アトラス、クレア。お前たちは剣が得意だけど、スライム相手にはいつもどうしてるんだ?」


「そうですね……、私の場合は『黒炎の剣バーニング・ストライク』や『水龍の剣ドラゴメア・スプラッシュ』などの、魔力を使う攻撃をします」


「私も、アトラス殿と同じく、『閃光剣シャイニング・ソード』などの魔力を使う剣技を使います」


なるほど、魔力を使う物理攻撃は効くということか。


「俺のスキルの『斬撃』って魔力を使うスキルなのか?」


もし、そうだとしたら、俺もスライムの幹部に対抗できるということになる。


「はい、私もそのスキルは持っていますが、魔力を消費します」


よし!


これで、俺もスライムを倒せることが分かった。


「じゃあ、この話はいったん終わるとして……、次はその魔王軍幹部の情報収集だ」


情報を集めないことには、相手の対策ができない。


まずは、情報を手に入れることだ。


「みんな、このあたりの町とかに行って、その魔王軍幹部について聞いて回ってきてくれないか」


「「「「「「「「はい、わかりました」」」」」」」」


こうして、数日ほど仲間たちに聞き込みをさせた。





そして、3日後……。


「どうだ?何かわかったか?」


俺はアトラスを呼び出し、聞き込みの結果を聞いた。


「はい、聞き込みをしたところ、その魔王軍幹部はどうやら女の姿をしているらしいです」


「なるほど、普段はその姿で過ごしてるってわけか」


「はい、身体を液状にして操る女の姿が色々なところで目撃されているため、それではないかと」


「たしかに、その女の正体がスライムっていうのなら、身体を液状化できるのにも合点がいくな」


「そこで、その女について聞いてみたのですが、なぜかその女についての情報が人によって違っていまして……」


「どういうことだ?」


「はい。ある者は、その女は高身長で肌は黒かったと言い、またある者は、その女はまるで子供のようで肌は白かったなどと、みな違うことを言うのです」


「つまり……」


「はい。何らかの方法で姿を変えることができるのではないかと……」


「それは厄介だな……」


もし、それが本当なら、たとえ、その魔王軍幹部を見つけたとしても、逃げられてしまえばそこで終わり。


その幹部はまた姿を変え、見つけることが困難になる。


その幹部の見た目の情報を得たとしても、姿を変えている可能性が高いから、そもそも最初に見つけること自体が困難だろう。


「それと、これは冒険者から聞いた情報なのですが……」


「どんな情報だ?」


「それが……、どうやらその幹部は物理攻撃だけでなく、魔法攻撃にも強い耐性があるみたいで……」


「マジかよ!?」


ただでさえ、物理は効かないっていうのに、魔法まで効かないのかよ!?


さすが魔王軍幹部、というべきだろうか……。


「けど、そんなのどうやって勝つんだよ?物理は効かない、魔法も効かないって、強すぎだろ」


「いえ、あくまで耐性があるだけであって、魔法を無効にするわけではありません。なので、高威力の魔法や魔力での攻撃をすれば倒せるのではないかと」


「なるほど……、それなら、相手が、アロマやアトラスの高火力の攻撃で倒せるな」


……ん?


今の発言って、死亡フラグってやつじゃ……。


……ま、まあ、アロマの戦闘力は2300万もあるし?


アトラスに至っては7900万だからな。


そうそう簡単に2人よりも強いやつなんて現れないだろ。


「他にはなんかあるか?」


「あとは、再生能力が異常に高いという話を聞いています」


「再生能力?」


「はい。どこかの町で、一度S級冒険者がその幹部と戦ったそうですが、どんなに攻撃をしても、すぐに傷が修復してしまうそうです」


「S級冒険者の攻撃を受けても、すぐに回復するのか?」


冒険者にはランク分けがあり、S級冒険者は冒険者のなかで一番ランクが高い。


だが、そんなS級冒険者の攻撃を受けても、すぐに回復する再生能力があるとは……。


おそらく、対策は二つ。


回復しきる前に、間髪入れずに攻撃し続けるか、一撃で倒してしまうかのどちらかだろう。


どちらもそこまで難しいことはないだろう。


なぜなら、俺の仲間たちはバカみたいに強いからだ。


だが、もし相手も同じように強かったら、倒すのは不可能に近いかもしれない。


物理攻撃無効、高い魔法への耐性に、高い再生能力とまできた。


相手の戦闘力次第で、勝敗が決まる。


……だが、俺は勝たなくてはいけない。


「俺が、童貞を捨てるために!」




~~~~~時は、まだ主人公がルートリアの屋敷にいたところまでさかのぼる~~~~~


『なんだって!?それは本当か!?』


『ああ、俺が直々に国王に頼んでおいた』


『まさか、俺のこの呪いが解けるかもしれないなんて……!』


そう、ルートリアが言うには、遠く離れた町に凄腕の呪術師がいるという。


そして、その呪術師なら主人公の呪いを解くことができるかもしれないというのだ。


『ああ、実際その呪術師によって呪いを解いてもらったっていう勇者の話を聞いたんだ』


『マジかよ!?』


『ああ、今度その呪術師にこの王都に来てもらおうと思っているんだが……、呼ぶには一つ条件がある』


『な、なんだよ……、その条件って……』


『そうだな……、お前が魔王軍幹部を倒したら、国王に頼んで呼び出してもらうよ』


『なッ!?や、やるやる!!魔王軍幹部なんて、俺が簡単に倒してきてやる!!そ、その代わり、絶対にその呪術師を呼べよ!!』


『分かってるよ。いやー、これで安心したよ。お前があのエロ同人4冊では不満だ、とか言い出して幹部の討伐をやめるんじゃないかとヒヤヒヤしてたからな』


『何言ってるんだ、そんなことしないさ!童貞を捨てられるのなら、俺は何でもするさ!』




そう、この男、フォート・アレイス。


『昔の仲間の頼みなんだ、受けて当然だろ!』


『仲間の頼みを断るわけがないだろ』


そう、この男、あんなに仲間のためとか言っていたのにもかかわらず、結局は自分の童貞を捨てるためだけに魔王軍幹部を倒そうとしている。


そう、この男、エロ本4冊で買収されるどころか、童貞を捨てられるかもしれないとわかった瞬間、手のひらを反すように魔王軍幹部を倒すと言っているのである。


今まで、ここまでエロに忠実な勇者、いや魔王がいただろうか。


そう、この男、童貞を捨てるためであれば文字通り何でもする男なのだ。


『愛とか友情などはどうでもいい、童貞さえ捨てられれば!』それがこの男の信念なのである。


「よし、次は……」


そして、フォート・アレイスは今日もまた、童貞を捨てるために魔王軍幹部を倒そうと、動くのであった。

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