第24話 クレアと俺の戦闘力

これからどうするか決めるためにみんなと話をしようと、広間に行こうとしていたとき。


「ん?あれは……」


俺の視線の先には、模擬戦専用部屋。トレーニング部屋だ。


そこには、木剣を持って構えているクレアの姿があった。


「スゥゥゥ…………」


クレアは息を吸うと。


「ハアッッ!!」


目の前の人形に向けて斬り込んだ。


「おう、クレア。トレーニングか?」


少し落ち着いたところで、クレアに話しかける。


「あ、魔王さまですか。こんなところに一体どのような御用で?」


「いや、ちょっとみんなと話したいことがあってな」


ふと、クレアが練習用に使っていた人形を見てみると、一回しか斬っていないはずなのに5か所ほど傷が入っていた。


「あれ、なんで傷が5個もついてるんだ?」


「ああ、それですか?新しい剣術ですよ。一回しか斬り込んでないように見えて、実は五回斬り込むんです。今の私では同時に五回までしか無理ですね」


いや、同時に五回斬れるだけでも十分すごいだろ。


さすが、タレント『我流剣術』のおかげといったところか。


「さすがクレアだな。俺にはとても真似できないよ」


「いえいえ、私がどれだけ修行をしたところで、魔王さまには敵いませんよ」


「ははは、そうか。そういえば……」


「?どうかしましたか?」


「いや、この前リーンと言い争いしてただろ。どうなったのかなぁと」


「ああ、あれですか」


クレアはしゃべりながら人形を片付け始めた。


「んしょっ……。あそこまで怒るほどのことではないと思い直しまして、あのあとリーンには謝りました」


「ああ、そうなのか?」


「はい」


と、人形を運んでいたリーンが急に振り返った。


「で、ですが!リーンの言っていたことを認めたわけではありません!」


クレアは少し恥ずかしそうな表情をしていた。


「わ、私なんかがかわいいだなんて、そんなことありえません!」


クレアはまた人形を運び始めた。


「そんなことはないぞ」


俺がそう言うと、クレアの動きが止まった。


「お前はいつも、俺のために健気に尽くしてくれている。そんな健気なところはとてもかわいいと思うぞ」


「そ、そうですか……」


「リーンも言っていたが、お前にはかわいい服が絶対に似合うと思う」


「私には、そのようなものは似合わないと思いますが……」


「いいや、絶対に似合うぞ!クレアは美人でスタイルもいいし、絶対似合うって!」


「そ、そもそも、私は騎士ですッ!そのようなものを着ることなど、あってはならないのですッ!」


まずいな。


このままだと、クレアがただの鎧少女になってしまう。


見た目は美形なんだから、いろんな服が似合うはずなのに……。


女の子なのに、服を着る楽しみを知らないのはもったいない。


「頼むよ!一度でいいから、クレアのそういう姿が見てみたいんだ!」


俺は頭を下げて、クレアに頼んだ。


「なっ!?」


魔王の俺からの頼みだ、断れるわけがない。


一度でも着てくれれば、きっと服を着る楽しみを知ってくれるだろう。


「ま、魔王さまが……、私のかわいい姿を……ッ!?」


そして……。


「……ん?え、ちょっ、ま、待ってくれ!どこに行くんだよ!」


なぜか、クレアは両手で顔を覆いながら、部屋を出ていってしまった。


「な、何か気に障ったのか……?」





再び、広間に向かう。


すると、壁に鏡がかけられていることに気が付いた。


「こうしてみると、若いときの俺って案外イケてたんだな」


やっぱり、若いっていうのはいいね!


しずくに薬を作らせたかいがあった。


「……そうだ!」


俺はポケットから戦闘力はかるやつを取り出して、鏡に移る自分を見た。


「よし、俺の予想通りだ」


予想通り、戦闘力はかるやつには俺の情報が表示されていた。



レベル:999

戦闘力:20000



これが、俺の情報だ。


レベルに反して圧倒的に戦闘力が低い。


それもそのはず、俺のステータスは全てD評価なのだから。


ようは、ロイドと同じだ。


だが、俺が弱いことは俺の仲間は誰も知らない。


俺が秘密にしているからだ。


そして……。



タレント:魔物作成

いくつかのタグを入力して、そのタグに関連した魔物を生み出すことができる。知能を持つ種族の魔物は、多く生み出すことはできない。このタレントによって生み出された魔物は、同じ種族の魔物が経験値を得たとき、同じ量の経験値を得る。また、このタレント持つ者も同じ量の経験値を得る。



これが、俺のタレント『魔物作成』の説明文だ。


要約すると、同じ種族の魔物なら全員同じ量の経験値を得て、俺も同じ量の経験値を得る。


だから、俺は経験値をガッポガッポ手に入れ、レベルは999になった。


だがしかし、それでも生まれつきの低いステータスはどうにもならない。


俺もあいつらのように、一人で戦えるほどの力が欲しい。


そう思いながら、俺はまた広間に向けて歩き始めた。







~~~~~その頃 クレアは~~~~~


「ハアッ……、ハアッ……」


な、なんなんだ、これは……?


む、胸がとても苦しい……。


ま、まさか、魔王さまがあんなことをおっしゃるとは……。


『お前のそういう姿が見たいんだ!』


なぜだろうか。


今まで、自分はあんなに女らしく振る舞うことが嫌だったはずなのに。


「とても嬉しい……」


ハッ!私は何を言っているんだ!


そんなはずがないだろう!


落ち着け、冷静になるんだ。


私は、大きく深呼吸をした。


『俺はお前の……』


だが、先ほどの魔王さまの言葉が頭から離れない。


私は、一体どうしてしまったのだろうか。


こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ。


苦しいのに、それが嬉しい。


「今度、服、買いに行ってみようかな……」


私が、かわいい服を着たら、魔王さまは喜んでくれるのだろうか。


もし、そうなら、明日にでも町の洋裁店に行ってみよう。


そう思いながら、魔王さまがみんなと話すと言っていたことを思い出し、私は鎧を着けるのだった。

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