第18話 豊穣祭、そして勇者たち
それからも、俺たちは街の中をぶらついたりして豊穣祭の日が来るまでのんびりと過ごしていた。
特に何が起こるわけでもなく、平和な日々を過ごしていた。
そして、待ちに待った豊穣祭の日。
『らっしゃいらっしゃい!豊穣祭名物カエルの丸焼きだよ!焼きたて熱々だよ!』
『美味しいお菓子はいかがですかー?本日限定の物もありますよー!』
『金魚すくい、金魚すくいやらんかねー』
街は大勢の客でにぎわっていた。
出店もとても多く、普段はあまり見かけないようなものを売っている店もある。
「すみません、かき氷2つ」
「あいよ!蜜の味は?」
「両方ともイチゴ味で」
「はい、イチゴね!」
店の人からかき氷を受け取り、代金を支払う。
「まいどありー」
かき氷を、アロマのいるところまで持って行く。
「おーいアロマ。かき氷買ってきたぞ」
「ありがとう、魔王さま!」
二人でベンチに座り、食べ始める。
「それにしても、すごい人の数ね」
「ああ、この豊穣祭のために遠くの町からでも人が来るらしいからな。それくらい、この祭りが人々にとって大事なものなんだろうな」
「ふーん、みんな豊穣祭なんかでわざわざ王都に来るの?」
「そりゃ当たり前だろう。豊穣祭っていうのは、多くの作物を取ることができた年にそれを祝い、次の年も豊かになれるように祈るために開かれる祭りだ。ようは、国全体で祝うんだよ。祝い事って楽しいだろ?だから遠くからも、色々な目的で大勢の人が集まってくる」
「なるほど……!たしかに、みんなでワイワイ騒ぐのは楽しいものね」
別に豊穣祭はそこまで騒ぐ祭りじゃないが。
「だが、俺たちには別の目的があるだろう?」
そう、俺たちはただ豊穣祭を楽しむために来たんじゃない。
勇者に会うため、勇者の情報を得るために王都に来たんだ。
「え?別の目的?楽しむために来たんじゃなくて?」
「は?まさかお前……、ただの観光のために来たと思ってたのか!?」
「うん」
思わず、はぁ……とため息をつく。
「じゃあ、もう一度説明しておく。俺たちは、勇者の情報を手に入れるために来たんだ」
「え?じゃあなんで今まで何もしてこなかったの?ここに来たその日から情報をかき集めようとしてなかったじゃない」
「それは、これで勇者を見れば一発で相手の情報が手に入るからだよ」
そう言って、俺はバッグから戦闘力はかるやつを取り出した。
「あ、それがアトラスの言っていた『アトラスもどき』っていう魔道具?」
「『アトラスもどき』て……。これは『戦闘力はかるやつ』といってな、見ただけで相手のレベル・タレント・総合的な戦闘力を知ることができるんだよ。しずくに作ってもらったんだ」
「へぇー、さすがしずくちゃんね!私、胸の大きさと魔法の上手さ以外ではあの子に勝てる気がしないわ」
「試しに、お前を見てみるか」
俺は戦闘力はかるやつを着け、アロマのほうを見た。
レベル:850
戦闘力:23000000
えっと……?いち、じゅう、ひゃく……、にっ、2300万!?
おいおいおい!たしかしずくが255万、触手たちが50万とかだったよな!?
つ、強すぎんか……?
タレントの欄を見てみる。
タレント:
種族上使えない属性を除き、全ての属性の魔法を使うことができる。
アロマはリッチーであるため、聖魔法や回復魔法を使うことはできない。
だが、このタレントのおかげで、それ以外ならどんな属性の魔法も使うことができる。
しかも、リッチーは生まれつき持っている魔力は非常に多い。
リッチーのアロマには、ぴったりのタレントだ。
「ねぇねぇ、一体何が見えているの?教えてよ」
「ああ、お前が頭おかしいやつということが分かった」
頭がおかしいくらい強いという意味だ。
「な……、なによそれ!いくらなんでもそんなこと言わなくてもいいでしょ!」
途端にアロマが怒りだす。
ああ、もう。本当にこいつはいつもめんどくさいな……。
色々な店を回り、そろそろ腹も膨れてきたころ。
突然、街中にラッパの音が鳴り響いた。
すると、人々が急に騒ぎだした。
「おお、ついに始まるか!」
俺たちの近くにあった出店の店員がそう言った。
「始まるって、何がだ?」
店員に聞いてみる。
「凱旋が始まるんだよ。勇者たちが集まるらしいぞ」
なるほど、勇者たちが凱旋を……。
……って、それなら早くいかなきゃ!
「おいアロマ!凱旋を見に行くぞ!」
俺たちは急いでラッパの音が鳴ったほうに向かった。
俺たちが到着したころ、道の端で人々が列になって集っていた。
その間を、大勢の楽器を持った人たち、音楽隊が行進している様子が見える。
「どこだ?勇者はどこにいるんだ?」
俺は戦闘力はかるやつを着け、フードをかぶりこんだ。
そのまま着けておくだけだと、戦闘民族に見えてしまう。
ようするに、怪しいということだ。
だから、フードで戦闘力はかるやつを隠してしまう。
「おっ、あいつが1人目の勇者か」
早速、音楽隊の後ろから鎧を着た男がやってきた。
「あれ、あいつどっかで……」
……思い出した。
俺の城に一番最初にやってきた勇者だ。
生き返っていたのか。
早速、戦闘力はかるやつを使う。
レベル:150
戦闘力:100000
やはり弱い。
触手の5分の1しかないじゃないか
そりゃあ、城に入って瞬殺されるだけはある。
タレントは『怪力』といういたってシンプルなものだった。
次に来たのは、これまた顔見知りのあのビキニ幼女だった。
レベル:200
戦闘力:250000
先ほどの勇者よりは強いものの、やはり触手には勝てないようだ。
タレント:慈愛の信者
全ての回復魔法を使うことができる。
へぇ?てっきりガンガン攻めていくタレントかと思ったのに、後方支援系のタレント持ちだったんだな、あの子。
ここまでは、普通の勇者だった。
問題は、その次に現れた勇者だった、
最初見たときの印象は、その男はめちゃくちゃイケメンだった。
周りの女性から『はあぁぁ……』とうっとりしたような声が聞こえてきたくらいだ。
あと、メチャクチャ背が高い。185くらいはありそうだ。
見た目も完璧なのに、戦闘力はかるやつに映し出された情報はもっとすごいものだった。
レベル:300
戦闘力:4000000
いきなり戦闘力がさきほどの2人よりも大きく跳ね上がったのだ。
その数値、なんと400万。
レベル600のしずくよりも強いことになる。
肝心のタレントはというと……。
タレント:絶対切断
光の刃を飛ばすことができる。その刃はどんなものも切り裂くことができる。刃は魔力での攻撃で消滅しない。刃が飛んでいく方向も操ることができる。
……という、とんでもないタレントだった。
ここに書いてある文章を要約すると、だれにも止めることのできない、どんなものでも切れる刃を持っていて、場合によってはその刃にホーミング機能を持たせることができると。
……勝てるビジョンが見えないんだが。
どんなものでも切れるのなら、相手の防御力に関係なく切ることができるし、避けようと思っても永遠に追いかけ続けてくるわけだ。
俺の仲間はもちろん全滅、俺の回避スキルも通用しない。
どうあがいてもジェノサイドというやつではないだろうか?
「……いや、なんとかできる」
きっと、どうにかできるだろう……。
また次の勇者がやってきた。
「……なんだあれ?」
俺の目線の先には、仮面をつけ、ムチを振り回す男の姿があった。
その男は、自分で歩いているわけではなく、ブリーフ一丁のおっさんたちの上に乗っていた。
「おらっ、もっと早く歩けこの豚ども!」
男の持つムチが、おっさんたちの体をたたく。
「「「「んほおおおおおおおおおっっ♡ありがとうございますううううううううううっっ♡」」」」
おっさんたちが歓喜の叫び声を上げた。
見てはいけないものを見ている気がするが、あの男が勇者であるのなら情報は得ておかないと……。
レベル:300
戦闘力:1000000
戦闘力は、触手2体分ぐらいということが分かった。
さっきの勇者とは違って、対処できそうだ。
タレントは……。
タレント:属性ムチ
ムチにあらゆる属性を付与することができる。
なるほど、あのムチが主な武器なのか。
やはり、さっきの勇者と比べるとそこまで強くはないが、それでも十分強いタレントだ。
ようはアロマのタレントのムチ版だからな。弱いわけがない。
そんなことを考えていると、どうやら行進が終わったらしく、後続に人はいなかった。
「えっ?たったの4人しか勇者いないの?」
そんなわけがない。
最低10人ほどはいるはずだ。
「あのー……、勇者ってあの4人しかいないんですか?」
近くの人に聞いてみる。
「ん?なんだあんた知らないのか?勇者の中にはかなり遠いところにいて豊穣祭までに王都に行けないからっていう理由で来ない勇者も何人かいるんだよ」
なるほど、そういうことか。
つまり、本当はまだ何人かいると。
「なるほど、ありがとうございました」
俺がそう言った直後。
「ねえ、待ってよ!」
そんな声が聞こえてきた。
声のしたほうを向くと、先ほど勇者たちが歩いてきた道を、誰かが走ってやってきた。
「やっばい!まさか今日に限って寝坊するなんて!」
走ってきたのは、どこかで見たことのある女性だった。
(あれ?あの人どっかで……?)
……そうだ、あのレストランで蜂の子サラダを食べていた人だ!
まさか、あの人が勇者だっていうのか?
少し信じがたいが、戦闘力はかるやつを使ってみる。
すると、とんでもないものが表示された。
レベル:550
戦闘力:30000000
まさかの3000万。
その圧倒的な数字を前に、俺は息ができなくなる。
なんと、アロマよりも強いことになる。
アロマは、俺の仲間たちの中で2番目ぐらいには強い。
そのアロマよりも強いというのなら、少なくともアロマよりも弱い俺の仲間たちは一瞬で消されてしまう。
その光景を想像してしまい、俺の顔から一気に血の気が引いた。
「た、タレントは……?」
タレントを確認する。
タレント:自重なき成長
得られる経験値が常時10倍になる。すべてのステータスが常時10倍になる。ステータスの成長限界がなくなる。
その文を読んで、俺は足が震え始めた。
経験値が10倍ということは、常人の10倍の速さで成長するということだ。
さらに常時ステータスが10倍、どんなにレベルアップしても成長限界がないからステータスがカンストすることがない。
よっぽど強いタレントでも持っていない限り、圧倒的な力にねじ伏せられて終わりだ。
たとえ彼女より強くても、彼女は猛スピードで成長する。
いつかは追い越されるだろう。
……勝てるわけがない
「……魔王さま?大丈夫?」
「えっ?」
突然アロマに肩をたたかれた。
「すごくつらそうな顔してたわよ?大丈夫?」
「あ、ああ……」
どうやら、表情にも表れてしまっていたらしい。
アロマが声をかけてくれたおかげで、少し冷静になれた。
……だが、一体どうするんだ?
2人ほど、攻略が圧倒的に難しい者がいた。
このまま何も準備をしなければ、俺たちは負ける。
どうにかしないと……。
そう思いながら、彼女が他の勇者を追いかけていくのを、俺は眺めていた。
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