第9話 変態という名の義賊

 魔王たちが寝静まったころ、とある国の領主の屋敷が騒ぎになっていた。


「だ、誰か! ワシを助けてくれ!」


 領主の男が息も絶え絶えになりながら助けを求める。

 その表情は、まるで悪魔にでもあったかのような、恐怖におびえた表情だった。


「どうされましたか、ご主人様!? そんなに慌てて、いったい何があったんですか?」


 その声を聞きつけて、使用人たちが集まってくる。


ぞくが現れてワシの金貨を盗んでいったのだ!」


「ぞ、賊ですか!? しかし、ご主人様はかなり腕の立つ者たちを警備に当てていたはずでは?」


 そんな使用人の質問に対して、その領主は激昂げっこうして、


「あんな奴らは知らん! たった一人の賊にやられる役立たずどもなどいらんわ! 全員クビだ! そんなことより、早く警察を呼べ!」


「か、かしこまりました」


 使用人たちは急いで屋敷の外に向かった―――――。






 ―――――翌日。屋敷の近くの署で。


「すみません。もう一度最初から説明してもらってもよろしいですか?」


 事情聴取をする警察官がそう言うと、


「なんだと!? このワシにもう一度言えだと!? 話しを聞いておらんかったのか!」


 その男はよほど腹が立ったのか、顔を真っ赤にして叫んだ。


「いえ、話しは聞いていたのですが、上手く話しの流れがつかめなくてですね。申し訳ありませんが、もう一度説明してもらえると……」


「ふざけるな! ワシにはお前みたいなただの警察官にく時間はないんだ! 一刻も早くワシの金を取り戻さなければならないんだ!」


「もちろん分かってますよ。我々も現在捜査を進めています。だから、一回落ち着いてください」


 警察官がなんとかなだめようとするが、領主の男が止まる様子はない。


「いいか、200億、200億だぞ! ワシの金庫の中身の4分の1も持ってかれたのだぞ? たった一人に! お前なんぞが一生働いても百分の一も稼げない額だ!」


「分かりましたから、とりあえず話を聞かせてください。話していただけないと、帰ってくるものも帰ってきませんよ」


「む、むぅ……確かにそうだな」


 男は落ち着いたのか、また警察官に事情を話し始めた。




※※※※※※※※


~~~~~昨夜 領主の屋敷にて~~~~~


 昨日の夜、領主の屋敷の金庫にその男は現れた。


『はえー、こりゃスゲェな。金貨が山積みになってやがる。一体どうやったらこんなに高く積めるんだよ。てか、この金庫広すぎだろ。何坪なんつぼあるんだよ』



 最初に異変に気が付いたのは、金庫の外にいる見張り番だった。


「なぁ、なんか中から変な音がしないか?」


「お前もか。実は俺もさっきから気になってたんだけどさ……」


「……一回開けて確認してみるか?」


「ああ、そうしよう。じゃあ、まずは鍵を持っている領主様か執事長さんに報告をして――――――」


『ガチャリ』


 と、鍵が開いた音が鳴る。


「……おい、今日俺たち誰か中に人、入れたか?」


「いいや、俺今日の昼からここにいるけど誰もここには入れてないぞ。午前中の担当してた奴も誰も入れてないって」


「……まさか、賊とか……?」


「ああ、そのまさかかもな……」


 金庫の扉が勝手に開いていく。

 そして、中からその男が現れた。


「「動くな!」」


見張りの兵士の一人が男に向けて剣を構える。


「おおっと、見つかっちゃったか」


「なんだお前は、どこから入ってきた!」


 その男は、見た目は普通のシャツに普通のズボンをはいているただの一般人だった。

 唯一ゆいいつ、顔をマスクとゴーグルで隠していることを除いて。

 どう見ても、屋敷の人間ではない。


「まぁ、お前が泥棒だってことは分かったよ。お前、明らかに怪しいもんな」


「でも残念だったな。見張り番が俺たちで」


 見張りの男はそういうと、自分の鎧の胸部にある紋章を指さした。


「俺たちは2級の騎士だ。そんじょそこらの雑魚とは違うぜ」


「へぇ、そりゃすごいね。あんたらそんなに強いのか」


「ああ、そうだよ。おとなしくしといた方が身のためだぜ?」


 見張りたちが男に向かって警告をする。


「…………フフッ」


 だが、男はそれを鼻で笑った。


「何が可笑おかしい?」


「いや? あんたらが俺に許しをう姿が見えてな。思わず笑っちまった」


「……ほう? それは俺たちに喧嘩を売ってるということか?」


「だったらどうする?」


「そうだなぁ……」


 兵士は剣を抜くと――――――。


「こうするんだよ!!」


 ―――――男に向けて振りかぶった。




「次の金庫の見張りって俺たちの番だっけ?」


「そうだよ、めんどくせぇなぁ」


 ちょうどそのころ、金庫には次のシフトの見張り番が向かっていた。


「おーい、お前たち、そろそろ交代だ……ぞ……」


 廊下を曲がった先にはいつもの同僚が立っているはずだ。

 しかし、男たちが見たものは、壁にめり込んだ同僚の姿だった。




※※※※※※※※


「侵入者だ! 賊が金庫から金を盗んで屋敷内を逃げているそうだ!」


「もうすでに2級の騎士が二人やられたらしいぞ!」


「急げ! 早く捕らえるんだ!」


 屋敷内を兵士たちが駆け回る中、


「み、見つけたぞ! 賊め!」


「あれ? もう見つかっちゃったの? このまま逃げきるつもりだったのに」


 兵士たちを引き連れた領主が、男を追い詰めていた。


「ふざけるな! ワシの金を返せ!」


「何言ってんの? あんな金、全部あんたが領民から搾り取った金だろ? あんたが使うよりもっと使うべき人たちがいるだろ」


「ええい、黙れ! 貴様のような奴の言うことなんぞ聞いてたまるか! とっとと奴を捕まえろ!」


 領主が兵士たちに命令する。



「ぐあっ!?」


 だが次の瞬間、兵士の一人が急にその場に倒れこんだ。


「その男は気絶させただけだ。だが、もし俺を襲ってきたなら、気絶じゃすまないぞ」


 その言葉に、兵士たちがざわつく。


「……か、構わん、やれ!」


 だが領主が兵士たちに2度目の命令をすると、戸惑いながらも兵士たちは一斉に襲い掛かった。


「がッ!?」


 先頭にいた兵士が吹っ飛ばされて壁にめり込む。

 後続の兵士がその隙に男に切りかかるが、男はそれを難なくかわし、


「おごッ!!」


 そして、兵士はそのまま床に倒れた。


「うがあああああッッ!?」


 別の兵士も領主の後ろまで吹っ飛んでいく。


「う、うわああああああああッ!!」


 中には、吹っ飛んだ勢いで窓を突き破り、落ちていく兵士も。




「あ……ああ……」


 領主が命令をしてから30秒ほどたったころ。

 戦える者はもうそこには誰もいなかった。


「じゃあな、おっさん」


 そう言うと、男は領主の横を走り去っていった。





※※※※※※※※


「……で、犯人が使っていたと思われる武器がこれですか」


「ああ、その現場に落ちていたものだ」


 警察官が机に置かれたを見る。


「……領主様、もう一度言わせていただきますね」


 警察官は大きな声でこう言う。


「ふざけてんのかあんた! どこの世界にこんなもんを武器にする賊がいるって言うんだよ!?」


 そこに置いてあったものは、バ○ブとディ○ドだった。




※※※※※※※※




「さて、次はどこを狙いますかねぇ」


 その男は、とある酒場にいた。


「そういや、魔王っていうのが新しく現れたらしいな」


 そして、男はにやけて、


「次は魔王のところに侵入するのもありかもな。金持ってそうだし」


 腰からバ○ブをぶら下げながら、そんなことをつぶやくのだった。

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