Bボーイング・ビート
シェンマオ
第1話
「あそれそれ、カチカチっ……と」
「おいライデン、早くしろ!」
焦る気持ちも分かるけどよ、ンなでかい声出す方が危ないと俺は思うがね。
っと、いけない。ピッキングしながらで悪いんだが忘れない内に自己紹介させてもらおうか
名はライデン、イケてる紳士だ。
歳は……えー、っと
「なぁパイソン、俺って今幾つだ?」
「はぁ!? 何の話してんだ急に……確か28か9じゃねーか」
らしい。まぁ、野郎の事なんて長々話すもんじゃないだろう。それよか、聞いてほしいのはこのうるさいの
「お前は?幾つだよ」
「ぁ?」
やたら声がデカいだけじゃなく、睨みもキツい。思わず寒イボが立った
名はパイソン、何年か前にゴミ捨て場で死にかけてるのを拾った女だ。
枝みたいなガキだったのに、気が付けばすっかり美人に育って、出るとこも出てきて目の保養にはピッタリときた。
口が悪いのがたまにキズだが、差し引いても充分「大当たり」と言える。
「ま、俺の鑑定眼は伊達じゃねぇって事だ」
「次々訳わかんない事言いやがって。っておい、足音だ。来やがったぞ」
「そう慌てんなって……よし、開いた」
ガチャリ、重い音と共に金庫の大門がゆっくり開いた。
ほぼそれと同タイミング、背後で複数の声がした。
「確かに居るんだな!?」
「えぇ、警報装置が破壊されているのを警備の一人が確認しました。その手口から見て「奴ら」で間違いないかと」
「おい、どうする?」
どうするったって、そりゃあもう。
俺とパイソンは金庫の中へ駆け込み、内側からその大門を閉めた。
この門は一度閉めれば再びロックがかかり、外側からでないと開かない仕組みになっている。事前チェック済みだ
「で、どうすんだよ。袋小路だぜ?」
「ドアは勝手に開く、そこから逃げるだけさ」
「意味わかんね」
相棒のハンドガンを取り出して門の脇に張り付いたパイソンを適当にいなし、取り敢えず金庫内の灯りをつけ、その嫌味なまでの景色を眺めた。
「金、金、金。趣味悪いねぇ〜」
「アンタは言えないでしょ、それ」
「うるせぇやい。さて、依頼の品はーっと」
金色の硬貨や、宝石。所狭しと色々飾られてはいるが、目当てのものは部屋の奥、分かりやすく派手な台座に置かれていた。
それは小さな指輪、一切の装飾も施されてない質素な銀の指輪。俺はそれをハンカチ越しに掴んで胸の内ポケットに収納し、門ら辺に居るパイソンの下へ向かった。
「よし。おいパイソン、パイソン?聞こえてんのか、返事しやがれ」
「うるせぇ聞こえてる……後、ギリタイムオーバーだ。来るぞ、構えろ!」
パイソンが叫ぶや否や、いつの間に集まったのか大量の警備と見知った制服の警察が大門を押し開けてなだれ込んできた。
「居たぞ!「怪盗」ライデンだ!」
「パイソンも居る!おい貴様ら、無駄な抵抗はやめて大人しくお縄につけ!」
「はいはいテンプレご苦労、どうだパイソン。勝手に開いたろ?」
しかし残念返事はなかった。見ればとっくに数多の敵と戦っているではないか。それも手にした銃じゃなく、蹴りと拳で
彼女曰く、「銃使わない奴相手には私も使わない、卑怯だもん」との事だ。
死んだら何にもならないのに律儀な事だと俺は毎度感心させられる。
はてさて、言ってる間に俺の元にも沢山の野郎どもが襲いかかってきた。
中にはここまで彼らを先導してきたのであろう見知った中年警察の姿も見える
「ライデン、今日こそ捕まえてやるぞ!」
「アンタも相当しつこいぜ、ベルベットのおっさん……よっと」
敵の手を幾つか潜り抜け、手に忍ばせておいた発煙筒を床に何個か投げる。
「ぬわっ!? 煙だ、逃げる気か。おい門を塞げ、逃げ道はアソコしか無いんだ!」
ちょいと改造しておいたこの特別性は一瞬でこの大部屋を白煙で満たす。
んでもって、霧散するのもまたあっという間だ。
ベルベットらその他大勢は、残念にも包囲網を潜り抜けられ、彼らが目にしたのは半開きの門に手をかける俺ら2人の姿だった。
「ま、待てライデン、パイソン!」
「ヤダねー」
「悪いが暫くそこに居てくれ、じゃ!」
慌てて門めがけて突進してくる彼らだったが、再三の努力虚しく間一髪の所で俺の手が門を締めきり、何重ものロックが掛かっていく音が響いた。
これにてミッションコンプリート、という訳だ。
「ライデン、そうもいかないらしいぜ」
パイソンに肩を叩かれ後ろを振り返って見れば、金庫を取り囲うような形で第二陣がこれまたわんさか構えているではないか。
「どうだライデン、コレは逃げられんだろう!」
なんて声が金庫の中から聞こえてくる。それには門を拳で叩く事で応戦しつつ、状況を確認する。
さて、不味い事に今度は敵全員が銃を構えている。それもハンドガンなんてちんまい物じゃない、どれもが軍に配備されてる小銃かそれ以上。まるで戦争帰りのような部隊が俺らの眉間に狙いを定めている。
パイソンもハンドガンを構えるが、とても捌ききれる数ではない。
「どれもこれもこのピンチも全部お前がセンサーに引っかかったから……!」
「はいはい、悪うござんした。ちょっと油断しちまったんだよ」
「そう、その油断が命取りだったのだ」
部隊の長らしき男がゆっくりと合図を出す。死ぬまで僅か1秒足らず
そうそう、忘れていた。こんな時になんだが俺にはもう一人……いや一体?まぁ、仲間が居るんだ。名前はラヴ
世界が認める完全自律型人工知能だ。
「撃て―――」男が指揮を出す、その寸前だった。地面が揺れるほどの轟音と共に鋼鉄で閉ざされた天井の一部にヒビが入った。
「セーフ」
一人の少女をモデルにプログラミングされた音声が未だ続く轟音と共に天井から聞こえてくる。
ポロポロと破片を落とす天井に、パイソンが何発が銃弾を打ち込むといとも容易く天井は崩れ、敵の真上に瓦礫を落とした。
ブロロロロロ…………という轟音、割れた天井から覗かせるその正体は
「へ、ヘリだと!?ここは地下2階だぞ、どうやって侵入してきた!!」
「ナ・イ・ショ」
ヘリから梯子が垂らされる、パイソンが一足先に飛び乗り、俺も後に続く。
呆気に取られていた奴らだったが、長の男がやっとこさハッと正気を取り戻し、撃て!と、全体に激を飛ばす。
しかしもう遅い、ラヴが操るヘリはあっという間に俺ら2人を引き上げていき、彼らの射程から姿を消した。
「お、覚えていろ! 次に会う時が貴様の命日だ!」
そんなテンプレな捨て台詞が、虚しく響いた。
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