行方は遠とし歩けよヲトメ

西順

第1話 街を歩く。

 私は良く歩く。


 田舎出身だったからだろう。子供の頃の通学路は2kmあって、子供の足では1時間以上掛かった。


 会社の同僚にこの話をすると、いつも驚かれる。今では私を紹介する時の名刺代わりに使われている。


 だからだと言う訳ではないが、私は良く歩く。2駅くらいなら歩いて移動する。


 田舎の駅なんて、電車は30分に一本で、次の駅までそれに乗って30分は普通だったのに、この街に越してきて、電車が次から次にやって来るのに驚いた。


 そして次の駅が近い。5分と掛からす次の駅に到着するのだ。私の常識として、電車は遠くに行くものだったのに、それは越してきた初日に壊された。


 常識は壊されたが、習慣は残っている。次駅まで歩いて30分程だから、だったらと私は歩く。


 2駅で1時間。同僚はうへぇとしかめっ面をするが、私にとっては苦では無い。


 何が楽しいの? と同僚は聞いてくるが、苦では無いだけで楽しい訳ではない。


 なら電車に乗った方が得じゃない? と言われて、確かに! となって1度電車に乗って移動してみたが、乗った時間帯が悪かった。


 思い出した。満員電車は辛い。これに乗るなら歩いた方がマシだ。だが田舎に帰る時などは満員電車に乗る事になるのだが。


 1度電車に乗ってみて、私は歩く方が好きなのだと再確認した。それからはつまらないと思っていた街の風景も、変わって見えるようになった。


 街でも四季が散見される。


 春には梅や桜が見かけられ、それを目当てに人々が散策をしている。


 夏は空が真っ青で、蒸し暑い夏も、日陰で休むと風が吹き抜けて気持ちいい。


 秋には銀杏いちょうかえでがねずみ色の街に色を差し、とても色気がある。


 冬は空もねずみ色に変わるが、街色が一色になるかと思えば、各所でイルミネーションが飾られ、1年で1番華やかになる。


 街にも歴史がある。


 寺社仏閣が散見され、それらは現代建築が建ち並ぶ街に異質に点在し、しかし不思議と街に溶け込んでいる。


 寺社巡りを趣味にしている人も良く見かけ、御守りやおみくじ、御朱印を貰っているのを見かける。


 また街は一本路地を入ると、違った景色を見せてくれた。


 江戸、明治、大正、昭和、平成、令和、長い時の変遷が見受けられる。


 それは坂や橋の名前に残っていたり、老舗として地元の人々に愛されていたり、いつまでも続く工事だったり、街の移ろいの残り香が至る所に見られる。


 たった2駅の往復だが、街は私に色んなものをくれていた。


 田舎の地元も大好きだ。がいつの間にかこの街も好きになっていた自分に気付く。


 田畑を耕し、その向こうに青々とした山々が広がる田舎の風景。


 電車、バス、車、人々に囲まれ、歴史の上にビルが林立する街並。


 それが同じ空の下で繋がっている不思議。


 歩みは色々な事に気付かせてくれる。そして世界がもっと好きになれる。


 私はこれからも歩き続けるのだろう。

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