6人目 野上祐也(のがみ ゆうや) 17歳 男 ①


彼の名は野上祐也、高校3年生の普通の学生である。祐也には好きな人がいる、その女性と出会ったのは高校に入学して間もない頃、部活を何にしようか考えながら校内をウロウロしていた時だった。


美術室の前を通りかかった祐也は中に人の気配を感じて覗き込んだ。そこには花瓶に入った花達を優しい表情でキャンバスに書き込んで行く美しい女性の姿が目に入った。


どれくらい見とれていただろうか?祐也の後ろを大きな声で笑いながら通過する女生徒の声に驚きその場を走り去った。


祐也は次の日、廊下であの美術室の女性とすれ違った。彼女は彼の通う高校の美術担当の教師だった。名前は渡辺未歩、彼女は美術部の顧問でもあった。祐也はその日のうちに美術部へ入部した。


未歩は顧問だが、常に部室にいる訳では無かった。たまに覗きに来て絵を見てまわる。はじめはガッカリしたが書いた絵を褒められた時は飛び上がるほど嬉しかった。


絵に興味など無かった祐也が美術室に毎日顔を出し絵を書いていた。親友は驚いていたが、理由を説明すると真剣に相談に乗ってくれた。教師に恋など他の誰にも話せない、親友にのみ打ち明けた悩みだった。


「祐也が本気なら俺は応援するよ。」


親友はいつも彼の話しを親身になって聞いてくれた、そして必ず味方でいてくれた。中学時代に自分が侵した過ちも1番に相談した、その時も。


「馬鹿だな!でも、いい経験になったな。悪いことは絶対駄目なんだぞ。」


そう励ましてくれた、何でも話せる関係こいつが友達で本当によかった、祐也は強くそう思った。


そして、高校2年の夏休み前日。祐也は思い切って未歩の携帯番号を聞いた。


「先生!携帯の番号教えてもらえませんか?」


「え?急にどうして?」


「いや…、あの…。その…夏休み中に写生のアドバイスとか聞きたくて。」


苦しい言い訳だった……。未歩は何かを書きながら。


「ごめんなさい、個人情報は教えられないの。」


「そうですか……。」


去ろうとする祐也に未歩はこっそり紙を渡した。そこには電話番号と一言『素敵な景色があったら教えてね、他の子や先生達には内緒よ。』


祐也は興奮でその夜まったく眠れなかった。何度も登録した未歩の番号を出しては眺めていた。


しかし、夏休みが中間に差し掛かろうとしてもビビって1度も連絡できなかった。


次の日、彼は勇気を出し電話する事にした。しかし、何を話せば良いのか思い浮かばず、友人に相談すると。


「お前なんて言って番号聞いたんだっけ?」


「え?アドバイスとか聞きたいって。」


「それだよ、アドバイス聞く為にかければいいんじゃねぇか?」


「いや、いま別に困ってないし。」


「真面目か!じゃ、ホントに絵でも描きに出かければ?何か1つくらい聞きたいことでるんじゃね?」


「……!そうだそうするよ!ありがとう!」


祐也は急いで画材を準備をして家を飛び出した。目的地は学校の裏にある小山だった。到着した祐也はすぐに小山を登り街を見下ろしていた。


「この辺りでいいかな?」


画材を広げると早速自分の住む街並みを描き始めたる。


どれくらいたっただろうか?祐也は当初の目的を思い出した。絵は半分ほど描き進んでいた。


「そうだ、先生に電話するつもりだったんだ…。」


祐也は携帯を取り出した、画面には教えてもらった先生の番号。勇気を出して電話をかけた。


トルルル…、ガチャ!


「はい。」


「あ…、あの。」


「どちら様ですか?」


「ぼ、僕は…。」


「あ!もしかして野上君?」


「は、はい!いまお忙しいですか?絵の事でちょっと。」


「いいわよ、もしかして今描いてるの?」


「はい、学校の裏庭からの景色を。」


「あら、私も今学校にいるのよ。電話じゃなんだから見に行ってもいいかしら?」


「はい!もちろんです!」


「じゃぁ、用事を片付けたらすぐに行くわね。」


「お願いします!」


未歩は電話を切った。


「やった!夏休みに先生に会えるなんて!」


祐也は飛び跳ねて喜んだ。数分後に未歩がやって来た。


「おっ、やってるわね。よく描けてるじゃない。」


「あ、はい!ありがとうございます!」


「素敵な気色ね、学校の裏にこんなところがあったなんて知らなかったわ。」


山からの景色は自然はほとんど無かったが、人工的な美しさが広がっていた。


「あそこの家の大きな木、あれは桜の木かしら?」


「そうですよ。春には満開に花を咲かせますよ。」


「そうなんだ、私はいつも反対方向の駅に向かうからこっち側は全然知らなかったわ。」


「僕の家は向こうだから、ここにはよくきてたんです。」


「そうなんだ、本当に素敵。今度私もスケッチしようかしら。」


「だったら是非一緒に!」


「え?……ふふ、そうねいいわよ。ビシビシ教えてあげるわ。」


「え?あはは…、はい。お願いします!」


思っていたのと少し違ったが夏休み中何度も裏山で未歩と会うことができた祐也。未歩への想いは募るばかりであった…。


つづく

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