4人目 滝川 彩子(たきがわ あやこ) 19歳 女

 彼女は、コンビニエンスストアでアルバイトをする大学生1年生だ。彼女の働いているコンビニには、毎日来る怪しい青年やみすぼらしい格好で荷台を引いたホームレス等、様々なお客がやって来る。そのホームレスは50台後半だろうか、犬を連れて週に1~2回ほど訪れていた。そして、お弁当を一つ買ってはそのお弁当を連れている犬と一緒に分け合い、食べていた。コンビニの駐車場の端で邪魔にならないようにしていつも食事をして帰っていた。


「なんだか可哀想…。」


 そんなホームレスを見てポロッと出た言葉だった。その彩子の言葉を聞いたこの店の店長が彩子に言った。


「そんな事、言うもんやないで。」


 コテコテの関西弁に強面な顔、とてもコンビニの店長とは思えない風貌だった。


「でも店長、いいんですか?毎回駐車場で…。」


「特に邪魔になってる訳じゃないし、ええよ。」


「それならいいんですけど…。」





 そして、後日。


「ん?あやちゃん、なんやこれ?」


 そこにはお弁当が2個置いてあった。


「破棄処分のお弁当です。」


「それは分かっとるけど、何でここにあるんや?」


「まだ食べられるし、この間のワンチャンの人にあげようかと思って。」


「あかん、あかん!そんな事したらあかんよ。」


「え?だめですか…?」


「破棄処分のお弁当は、食べたら駄目なルールなんや。それに破棄処分じゃなくても、お弁当恵んだりしたらあかんよ。」


「どうして、ですか?」


「どうしてもや。これは処分しとくで。」


「はい…。分かりました…。」


 彩子は怖い顔の割にいつも優しい店長だから、許可してもらえると思っていたが、思いもよらず冷たい店長に少しガッカリした。しかし、それにはちゃんと理由があったのだ。


 少し話は変わるが、コンビニの店長を悩ませる事の一つに万引きがある。その日は、コンビニ内をキョロキョロする1人の少年のお客がいた。


「あれは…やりよるな。」


 そう言った店長は少年の行動を監視していた。そして少年は彩子が別のお客対応でお弁当をレンジに入れようと後ろを向いた瞬間に、お菓子コーナーのチョコやガム類をポケットに入れた。そそくさとコンビニから出ようとする少年に店長が近づいて腕を掴んだ。


「にいちゃん、ちょっとポケットの中身見せてくれるか?」


 少年は手を振り払い逃げようとしたが、難なく捕まってしまった。


「違う!何もしてない…!」


 そう言って暴れる少年のポケットから盗んだお菓子がこぼれ落ちた。


「ちょっと奥の事務所で話聞こか?あやちゃん、ここお願いね。」


「あ、はい!」


 少年は奥の事務所へと連れていかれた。店長は少年に問いかけた。


「名前は?」


「……。」


「名前ないか?」


「……。」


「名前くらい言えんのか!」


 机を叩く音。ますます萎縮する少年。すると事務所のドアが開き彩子が顔を出した。


「店長…、もう少し静かにお願いします。お客様まで驚いてますよ?」


「すまん、すまん。」


 彩子は少年に。


「店長見た目は怖いけど優しいから安心して。でもちゃんと謝りなさいよ。」


 彩子はそう言うと店内へ戻って行った。


「見た目は怖いはよけいじゃ。」


 いない彩子につっこむ店長。それを聞いて少し萎縮が溶けたのか少年は名前を名乗った。


「あの…、ごめんなさい!名前は…野上祐也です……。」


「歳は?」


「13……。」


「何で万引きなんてしたんや?」


「……。」


「黙ってたら分からんやろ。」


「ほ、欲しかったから…。」


「欲しいからって人のもん取ったらあかんやろ?」


「は、はい。ごめんなさい…。」


 それから少年の家に連絡を取り、親に迎えに来てもらうことになった。来るまでの間に店長は少年と話をした。


「ここによく買い物に来る、ホームレスのオッサン、見たことあるか?」


 首を振る少年。


「汚い格好で来てな、たった一つの弁当買って犬と分け合って食ってくんやで。」


「……。」


「そんなオッサン、カッコイイと思うか?」


 再び首を振る少年。


「そうか……。俺はな、めっちゃカッコええと思うけどな。いや、めっちゃは言い過ぎやけどな。」


「え……?」


「少なくともな、今の君より全然格好ええで。あのおっさんはな、ちゃんと自分で空き缶集めて、鉄くず集めてお金に変えて、そのお金でお弁当買いに来とるんや。」


「……。」


「人のモン取って食ってない、自分でちゃんと稼いで食ってるんや。誰にも迷惑かけてないで。」


 何も言えない少年。


「それに比べて君はどうや?人のもん取って食おうとしたんやろ?それは最低やぞ。欲しいなら自分で稼いで買え。」


「でも……。」


「でもやない!もう中学生やろ、小遣いが貰えないなら新聞配達でもなんでもあるやろ。もう自分で考えて行動できる歳や。人のもん取ればいいなんて考え今のうちに捨てろ。このままやったら君は最低な人間になるぞ。」


「はい……。ごめんなさい…。」


「分かったらいいんや、もうすんなよ。」


「はい…。」


 事務所のドアが再び開いた。


「店長、その子のお母さんが見えましたよ。」


「そうか、ほな行こか。」


 少年は母親に連れられ、何度も謝りながら帰っていった。コンビニの入口で見送った2人は店内へ入った。


「店長、さっきのお弁当、すいませんでした。」


「なんや急に?」


「ホームレスのおじさんの話…聞こえてました。」


「ああ、あれか。」


「私がお弁当あげてたら、おじさんのプライド傷つけたかもしれないですね。」


「ちゃうちゃう!本社の命令で渡せないだけや。そんなええもんやないわ。」


 そう笑いながら事務所へ入っていった。


「店長…。なんだか、色々考えさせられる1日だったな…。」


「お願いします…!」


「あ!はい、すいません!」


 レジでいつもの青年が呼んでいた。彩子は仕事へと戻って行った。


 終わり


「人は様々な知識を得て成長していく。」


 次の人物『横井照男』

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