第一話 目覚める異能力《アナテマ》
「なんでも超能力のような力が自在に使えるらしい」
「それって例のアレだろ? なんとかってヤツ?」
「アナテマだよ。俺も急に目覚めねぇかな?」
今SNSでは
総府高等学校のとあるクラスで、男子二人からアナテマの話題が出ていたが、今や学校中で噂している。
曰く、風を操って竜巻を起こしたり。
曰く、電気を操って稲妻を発生させたり。
曰く、念力を使って、刀を自在に操ったり。
そんな漫画やアニメのように様々な能力に目覚めた人達がいるらしい。
アナテマが噂されたのも、目撃者がいて、実際に異能力を使っている所を目にしたという人が何人もSNSで発言している。証拠となる映像が存在しないため、かなり信憑性は薄い。
榎園豊はクラスで話題しているアナテマについて、色んなグループから聞き耳を立てていた。SNSで噂するくらいだし、とても興味あって談論したいとさえ思っているが、残念な事に豊には友達がいない。
この手のオカルトや都市伝説の話題は好物な豊だが、趣味を話せる相手がいないため、悲しいことに聞き耳を立てることくらいしかできなかった。
豊は基本的に人付き合いや集団行動が嫌いなタイプで、入学当時からそれらを避けてた。結果、孤立して、スクールカースト最底辺の陰キャでぼっちとなってしまう。自業自得とも言えるが、豊は一人でも気の合う友達を作ろうと思っていた。しかし、未だにその相手は現れず、今日も現れることはない。
自分で行動を起こす気も無く、現状維持のまま豊は一人、机に突っ伏して寝たふりをしながら周囲の会話から情報収集を続けていた。
冒頭の話に戻ると、
しかし、案外単純で、あまり名の知れない漫画などの設定から、誰かがSNSで面白おかしく脚色し、それが知らず知らずに噂が広がったと豊は推測していた。
「今朝さー、めっちゃ可愛い子に会ったんだけど。あの有名な霧女の制服着ててさー、マジでヤバかった!」
「なにその子? 会いてぇわ。てか、霧女って基本的にレベル高くない?」
豊が毛嫌いする陽キャグループの会話が耳に入った。基本的にどうでもいい話が多く、耳を傾けない事が多いが、霧葉女学園の話題に少しだけ興味が惹かれた。
豊にとって女子と会話する機会がなく、いつも一人でいることが多いからか、話しかけてくれる事も無い。オタクが三次元の女子に興味が無い、二次元の女子が嫁だと豪語する連中もいるが、豊は人並みに『可愛い女子』に興味ある。彼女が欲しいと思った事ももちろんある。ただ同級生の女子と会話する機会が全くないのに、霧葉女学園の生徒と会話するのも難しいだろう。
ちょっと羨ましく会話を聞いていると、昼休みが終わるチャイムが鳴った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
放課後、担任の先生が教室を出て行った瞬間に、周囲がざわつき始めた。
同じ部活に所属する生徒に声を掛けて一緒に出て行き、どこかへ遊びに行こうと友達に声を掛ける生徒、このまま教室に残ってダラダラと雑談する生徒など、人と絡んだり、予定があったりと放課後の過ごし方はそれぞれだ。
そして、一人だけ人と絡むこともなく、予定もない生徒もいる。
それは豊である。
席を立ち上がり、鞄を手にして誰かに声を掛けられることもなく、静かに教室を出て行った。ぼっちだからって別にイジメを受けているワケではない。
「・・・・・・今日も平和だったな」
特に変化のない今日一日の出来事を豊は一人呟いて、階段を降りる。
平和な事は良いことだが、代わり映えのない日常、退屈な日々。もっと学生らしく、青春の日々を謳歌する学生生活を送りたかったと切望する豊。
如何せん、人付き合いを嫌い、何も行動しなかった結果が今であるから、孤立、灰色の青春になるのは必然だろう。
「このまま何もないまま学生生活を終えるのも嫌だしな・・・・・・。青春を謳歌して、刺激的な事、誰か俺を導いてくれないかな」
結局自ら行動を起こす気もなく、他力本願で豊を導いてくれる人が現れるよう切望する。このまま、変化のない日々が続き、退屈な日々のまま学生生活を終えてしまうだろう。
昇降口まで来ると、豊は欠伸をしながら靴に履き替えて、校門へ向かう。
グラウンドから野球部の掛け声や陸上部が地を蹴る音などが響いてきた。豊は流し目に、彼、彼女らの青春の1ページが眩しく見えた。
豊は溜息を吐いて、校門を出ると、これからどうするか考えた。
とはいえ、選択肢は限られてくる。
家でゲームするか、漫画を読むか、それともネットサーフィンするか。寄り道する選択肢は、特に用がある場所はないので選択肢に入っていない。
「う~ん・・・・・・。意図的に寄り道という選択肢は入れてなかったが、今日は何となく寄り道でもしてみようか」
豊の家は渋谷区にあり、総府高等学校を入学したのも家から近いからという理由で選んだ。帰宅途中で寄り道すると言っても、ほぼ住宅地しかなく、寄る場所がない。駅前が逆側にあるため、帰り道から外れる事になる。
しかし、既に帰路に着いているため、駅前に行く選択肢は消えた。
どうしようか考えていると、豊はある違和感を覚えた。
右目が突然ズキズキと疼き始めて、豊は近くの公園へ駆け出した。ベンチまで来ると、やがて激痛が走って、立っていられずにその場に蹲った。
「ーーっ!? いっーー!、きゅ、急にな、にが、ーーっ!? いっ、だ!? いた、いいたいいたい!?」
今までに感じたことがない痛みに、右目を押さえて必死に痛みを堪える。呻き声が漏れて、何度も「痛い」と言葉にし、泣け叫びそうになる。口の端からツーっと涎が流れるが、それを気にする余裕もなかった。
至って健康的で、この痛みに豊は心当たりはなく、なぜ突然痛み出したのか不明である。
しばらくして、先ほど襲った痛みが嘘のように引いた。まだ息は荒く、動悸が収まらない。豊は一旦、ベンチに座って落ち着くために深呼吸を数回繰り返す。口の端の涎を拭って、自分の身に一体何が起きたのか、豊はスマホを手にして、鏡代わりに右目を確認した。
すると、右目に幾何学模様が映っており、淡く雪色に発光していた。
「な、なんだこれは・・・・・・?」
自分の身に何が起きているのか分からず、気味悪さを感じた。目に幾何学模様が浮かび、淡く発光する病気なんて聞いたことがない。
そして、もう一つ豊の身に気になる事があった。
それは記憶の中に、とある力の使い方についての記憶が刻まれていた。
「力ってどういうことだ・・・・・・? なぜ俺がそれを知ってーー? さっきま何も知らなかったはず・・・・・・」
右目の異常といい、力の使い方の記憶といい、気味の悪い異変に理解が追いつかない。しかし、こういう異変にも豊は適応力があり、一旦冷静に一つ一つ整理する。
まず何より一番気になる点が、記憶に刻まれた力の使い方。
身に覚えのない記憶だが、もし記憶通りであるなら、豊はその力を使える事になる。試しにその力を実践しようと、掌を前へ突き出した。これで何も起こらなかったら、豊が恥をさらすだけで済む。念のため周囲に人気が無いことを確認し、目の前に集中した。
記憶にある通り、豊は目の前に氷の塊を生成するイメージを作る。
その瞬間、豊の右目に幾何学模様がくっきりと浮かび出て、瞳が雪色に発光する。能力が発動し、目の前に豊がイメージした通りの氷の塊が現出した。
「本当に使えた? なんだよこの力は・・・・・・? って待てよ、これってもしかして噂の
豊が言うとおり、実際に能力を発動させたそれは、SNSで噂されている
都市伝説だった
「本物・・・・・・なんだよな、これ。でもどうして俺にその
なぜ豊に突然
考える事は多々ある。
豊は一旦情報を整理し、これからどう行動するか熟慮するため、帰宅しようとベンチから立ち上がる。
刹那、長細い物が回転しながら豊へ向かってくるのを視界の端に映った。
咄嗟の判断で、その場から地面へ飛び込んだ。視界がぐるりと回転し、膝を着いた豊は振り返った。
先ほど豊がいた場所には、ベンチが綺麗に真っ二つに切断され、地面には刀が突き刺さっていた。
冷たい手で心臓を鷲掴みにされた感覚に襲われ、豊は絶句し、全身が凍りついた。
もし判断に迷いが生じていたら、今頃豊の身体は真っ二つにされていた。そんな事を想像して、額から冷や汗がどっと噴き出した。
「だ、・・・・・・誰がこんなーー」
人の気配と地面に着地する音に、豊は公園の出入り口へ顔を向けた。そこには霧葉女学園の制服を身につけた一人の少女が立っていた。
腰まで伸びた銀髪、目鼻立ちが整って、スラリと伸びた傷一つ無い脚線美。その姿に一瞬目が奪われる程の美少女。
そして彼女の目は殺意に満ちていて、豊を冷たく突き刺していた。
周囲に人影はなく、豊とその少女の二人だけ。必然、豊を殺すつもりで襲撃したのは彼女しか存在しない。
なぜ攻撃されたのか、理由は全く思い至らない。
直ぐにこの場から逃げる算段を思考すると、ポケットからスマホが振動した。こんな時に誰か分からないが、後で確認しようと思っていると。
「あなたにもメッセージ来てるわよね?」
少女がスマホを見せて、声を掛けてきた。
メッセージと言われても心当たりがなかったが、さっき誰からかメッセージが来ていた。豊に友達が存在しないため、両親以外に連絡する相手はいない。少女を警戒しつつ、スマホの画面に視線を落としてメッセージを開いて内容を確認する。
『能力を授けたばかりで戸惑っているだろう。早く能力を使いたくてうずうずしている所、非情に残念な事だが、早速君には殺し合って貰う相手を用意した。目の前にいる相手は君と同じ能力を扱える。この世界ではアナテマと呼ぶらしいね。そのアナテマの扱いに慣れて貰うために用意した君の敵だよ。殺らなければ、殺られるよ? では健闘を祈るよ。榎園豊君』
送信主不明の相手からのメッセージ。立て続けに意味不明な出来事に遭遇して、驚きはしなかったが、その内容に眉を顰めた。
(殺し合い? 敵? 一体どういうことだ。意味が分からない)
「そういうことだから、恨まないでね?」
どういうことだよ、と会話する暇も与えられず、少女の右目に幾何学模様が浮かび上がり、紅藤色に発光した。
それが何を意味するのかすぐに理解した豊は、地面に突き刺さっていた刀へ視線を移す。
勝手に地面から抜いた刀が浮遊し、その場で回転し始めた。そして、間を置かずに豊の方へ真っ先に襲いかかってくる。
「ちょ、ちょっとまーー」
静止の声を上げた所で、回転する刀は止まらない。
反射神経には自身のある豊はその場をしゃがむと、頭上を通過し、空を斬る音が耳に入った。肝が冷える思いに、豊は必死に考えを巡らせて、刀が襲ってくる前に少女の反対側の出入り口へ駆け出して逃げた。
無我夢中になって、住宅地を走る豊は違和感を覚えたが、今は一刻も早く離れる事が先決。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・、こ、このままだと、ころ、される・・・・・・」
しばらく足を止めずに逃げていた豊だが、これ以上は休憩しないと走ることができず、一旦どこかで身を潜めて息を整えることにした。
豊は先ほど届いたメッセージを再確認する。少女にも同じメッセージが送られて、その送信主は豊と少女を殺し合わせるように仕向けている。このまま逃げ続けた所で、少女と再び出会ってしまったら、豊を殺すために襲いかかってくる。なら一体どうするべきか、豊の中で一つの選択肢が浮かび上がる。
「俺が・・・・・・彼女を・・・・・・?」
殺らなければ、殺られる。
メッセージには選択肢を一つに明示されており、解決策は一つしか無いと示唆されている。豊にその選択肢を選ぶよう誘導している。
おそらく少女にも不安を煽るメッセージを送り、一つの解決策を選択させようと誘導されたのだろう。
豊は送信主が示唆する選択肢を絶対に選ばず、二人が生き残る方を選択する。それには彼女を説得するために対話する必要がある。
しかし、彼女の様子から対話する意思はなさそうで難しい。
少しでも話を聞いてくれれば、こんな無意味な殺し合いをする必要はなくなる。
難易度は高いが、行動しなければ殺されるだけだ。
まずは一番肝心となる、少女からの攻撃をどう止めるか。
触れずに刀を自在に操る能力といえば、豊の中で思い浮かぶのは念動系。豊のアナテマで刀を封じる事は簡単だろうが、念動系は物を自在に操る力のため、刀を封じても周囲に操れる物があれば、攻撃を止めることはできないだろう。
「まるで漫画のような異能力バトルって感じだな」
まさか自分がそれを体験するとは思ってもなかった。豊の中で少しだけ高揚感が沸いている事に気付いていなかった。
いくらか落ち着いて、少女を止める作戦も立て終わった豊は、探しに行こうと決意する。もしかしたら命を落とすかも知れない。豊が殺されたって悲しむ友達はいないだろう。だが家族はきっと悲しむ。
それに母親のお腹の中には子供が身籠もっている。豊に弟か妹ができる。まだ死ぬわけにはいかない。
急にこんなワケのわからない事に巻き込まれ、本当は怖いし、逃げ出したい衝動に駆られている。しかし、巻き込まれた以上、豊のできる最善の行動をしようと決意を固める。
これからどうするべきか、考えたいことは多々あるが、今は直面している問題を解決する事が優先となる。
豊は身を潜めていた場所から出る前に、一度深呼吸してから出た。逃げてきた道を戻るため、今度は少女を探すために駆け出す。
しばらくして、豊は住宅地を歩いていると、最初に抱いた違和感の正体に気付いた。
それは、一人も人とすれ違っていない事。
夕方の時間、学校帰りや会社帰りなど、人通りはそこそこある道。それなのに、人を見かけない。
人の気配が全く感じられず、静寂な雰囲気はまるでゴーストタウンに迷ったような不気味さ。
「静かすぎるし、人の気配もないし・・・・・・どういうことだ?」
この状況についても気になるが、今はそれを気にする場合では無かった。
無意識に身体が何かに反応し、進んでいた足を止めて後ろに下がる。すると、目の前に刀が降ってきて、地面に刺さる。
恐怖心を無理矢理押さえ込んで、瞬時に掌を前へ突き出して、刀を凍りづけるために封じ込めた。
冷静に対応した豊。
「あとはあの少女を探すだけだが・・・・・・」
周囲を探すと、少女はあっさりと姿を現した。
そして、背後にある二本目の刀が視界に入り目を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 俺は君と戦う意思はない! 君と対話がしたいんだ!」
「そう言って油断を誘う相手を何度も見てきたけど? あなたも同じ手口を使うの? その手には乗らないよ。私に害する敵は容赦しない」
少女に対話する意思はなく、右目が紅藤色に発光する。
背後の刀が回転すると、豊の静止を無視して再び襲い掛かってくる。
豊の反射神経で刀を避け、扱い慣れてないアナテマを駆使しながら防御に徹する。刀をもう一本持ってる事は予想外だったが、幸いもう一本は封じてあると安心していた。
しかし、避けた刀が、凍りづけにしていたもう一本の刀の方へ衝突した。氷が砕けて、刀が自由となった。
二本の刀が浮遊し、その場に留まって回転する。
難易度がハードからベリーハードになった。
「こんなん無理ゲーだろーーっ!?」
豊は最悪な状況に焦りを見せ、必死に説得しようと言葉を投げる。
「お、俺は本当に君と戦わない! というかさっき能力に目覚めたばかりで、何も知らないんだよ!?」
「嘘。さっきのメッセージには、あなたは私を騙して殺そうとするって書いてあった」
「メッセージ・・・・・・?」
豊にも通知されていたメッセージの事だろうが、少女に書かれている内容は、豊とは異なる内容が書かれているようだ。
送信主は相当性格が悪く、二人を殺し合いをさせるために、策を弄しているのだろう。その送信主に怒りを覚えるが、今は目の前の問題に集中しなければならない。
少女が操る二本の刀が、真っ直ぐに豊へ襲い掛かってきた。
豊の右目が雪色に発光し、迫り来る刀を防ぐため、目の前に分厚い氷の壁を生成する。
一本目の刀が氷の壁に衝突し、氷に亀裂が走った。そして、二本目の刀が激突した瞬間に氷が砕け、眼前に刀が迫る。豊の脳裏は、首と身体が真っ二つになる最悪の未来が過ぎった。
ーー死。
「ーーっ!?」
死が迫る瞬間、豊は尻餅を着いて、間一髪で頭上を通り過ぎた。ひらりと数本の髪の毛が舞い降りてきた。
自分の首がくっついているか確認する前に、直感でその場にいるのは危険だと脳内で警鐘を鳴らした。
頭上には二本の刀が留まって、切っ先が豊に向けられていた。数秒早く、その場から必死になって地面を転がると、ザザッという音が耳に残った。
膝を着いた豊は目の前に二本の刀が刺さってるのを視認する。
一歩遅かったら、串刺しにされていた。
とっくに恐怖心は麻痺し、今できる最善の行動を起こす。
豊は咄嗟にアナテマを使い、地面に刺さってる刀を氷の中に封じた。
このチャンスを逃さず、立ち上がった豊は真っ直ぐに少女へ駆け出した。
少女が周囲に視線を巡らせるが。
「っ!? きゃ!?」
少女を地面に押し倒して、可愛い悲鳴を上げる少女を逃がさないように手首を押さえ、馬乗りになる。
「これで武器はなくなった! お願いだから話を聞いてくれ!」
端から見たら豊が少女を襲っているように見える構図で、事案案件になっていただろう。しかし、必死な豊は今どういう状態か気にする余裕はない。
「これで話を聞いてくれるよな?」
「くっ!? 私を辱める気!? あなた最低ね! これで私が何もできないなんて思ってるわけ?」
少女の右目が紅藤色に発光する。豊はそれを視認すると、豊の右目も雪色に発光する。
豊の周囲に石や標札など様々な物が浮遊し、襲いかかってくる。事前に予測していた豊は、二人を閉じ込めるように氷の壁を生成させた。少女の攻撃が氷の壁を打ち砕こうと何度も衝突してくる。打ち砕かれる前に説得しようと、少女へ視線を向けて必死に言葉を投げる。
「俺は本当に君と戦う意思はない! ただ君と出会ってからずっと気になっていたんだ!」
「あ、あなた何を言って・・・・・・?」
「俺達が戦う意味なんてない! むしろ君とは、これから俺との将来について語りたいんだ!」
「え、・・・・・・え?」
氷の壁に衝突する攻撃が止んでいた。
必死に説得する豊は、もはや自分がどんな言葉を紡いでいるか分かっていない。とにかく思いついた事を全て吐き出して、自分の気持ちを伝えようと必死だった。
「君とこれからのことを話したいんだ!」
「・・・・・・な、何を言って・・・・・・」
間近で言葉を受け止めている少女はというと、豊の真剣な目に合わすことができず、頬を朱に染めて目を逸らしている。
「急にこんなワケのわからない事に巻き込まれて、ワケのわからないメッセージとか、本当に俺はこの状況がわからないんだ。君と出会ったのは運命だとは思ってる。だから、一体これが何なのか、できれば君とのこれからも考えたい」
「・・・・・・あぅ」
「だからーー・・・・・・えっと? ん? ど、どうしたんだ?」
少女は豊を直視できず、顔を赤く染めてそっぽを向いている。
一旦落ち着いた豊は、どうして少女がそんな顔をしているのか、冷静に今の状況を考える。
少女の手首を押さえ、少女との顔の距離は近く、馬乗りになっている。ただこれだけが原因ではないが、何も知らない豊は慌てて少女から離れようとして後頭部に鈍い衝撃が襲った。
「いった!?」
現在氷の中にいることを忘れていた豊は、氷を解いて後頭部を押さえる。
簡単に解いてしまってよかったのか、今更考える豊だが、どうやら少女からは殺意は消えていた。一先ず難を逃れた豊は安堵の息を吐く。
「えっと、対話してくれるのか?」
「・・・・・・うん。あの、名前は?」
「そうだった。俺は
「私は・・・・・・
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