スノーウィオウルズ

凉菜琉騎

第一章 異能力《アナテマ》の開花と絶望

プロローグ

 退屈な日々を過ごしていた『神』は暇を持て余していた。退屈で刺激が欲しいと求めて、『神』は退屈しのぎに人間に力を与えた。

 力を手に入れた人間は、最初驚愕し、その能力に戸惑いを見せていたが、ある程度使い方を熟知すると、私生活にその力を使い始めた。その人間は私生活以外で能力を使用することはなかった。


 つまらない。


 私生活のために『神』は能力を与えたワケじゃなく、そのつまらない使い方をされて不満を覚える。

 能力を使用して『神』を楽しませる事をしてくれないかと、別の人間にも与えてみた。今度は複数の人間に能力を与えて、実験を始める。

 すると、ある人間が能力を持たない人間を襲い始めた。その様子を視ていた『神』だが、それでは物足りないと思った。そして、今度は能力者同士で殺し合いが始まる。

 その光景を視ていた『神』は食い入るように二人の殺し合う様子を視て、高揚していた。

 『神』は退屈を潰す最悪な事を思いついてしまった。これでしばらくは退屈せずに済むとニタニタと嗤った。

 まずは何百人という人間に能力を与え、『神』が自ら干渉し、舞台を用意して能力者同士で殺し合いをさせるように誘導する。人数を絞り込んで、その中から強者を選別し、いずれその者には特別な招待を送ろうと着想して胸が躍る思いをする。

 有言実行した『神』は、何人か気になる人間を目に付けた。

 そして、『神』はとある人間の少年に胸をざわつかせるような、何らかの予感を知らせていた。他の人間とは少し異色で、『神』は目が離せなかった。誰か一人を贔屓するつもりはなく、全員平等と考えていた『神』だが、彼にだけは特別な試練を課そうと考えた。

 もし試練に乗り越えなかった場合は、そこまでの人間ということになる。

 せいぜい最初の試練で躓かないで欲しいと『神』は期待を膨らませた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それは突然起こった。

 榎園豊は突如右目に激痛が走り、とある公園のベンチに蹲って痛みを堪えていた。幸いと言うべきか、周囲に人気はなく、右目を押さえる豊は口の端に涎を流しながら声を上げていた。

 それが数秒続くと、次第に痛みが引いていき、押さえていた手を離す。ゆっくり瞼を開くと、右目に幾何学模様が浮かび出て、淡く雪色に明滅していた。

 一体自分の身に何が起きたのか理解できず、狼狽する豊は口の端を袖で拭って、ベンチに座って頭を抱えて訝しんだ。

 豊はどこで覚えたのか知らない基本的な能力の扱い方・・・・・・・・・・という記憶が刻まれていた。

 気味が悪いと思いつつも、本当に記憶通り能力を使えるのか試しに発動させてみた。

 すると右目が雪色に発光すると、目の前に氷の塊が一瞬にして生成された。しばらくして氷の塊は自由落下し、地面に衝突すると粉々に砕け散った。

 本当に能力を扱えた事に目を疑った。さっき氷を生成したのは、基本的な使い方の一つで、他には地面や物を凍らせたりもできる。

 なぜ突如豊に能力が開花したのか、他にも豊のように能力を扱える人が存在するのか、一度冷静になって、一から情報整理をしようと考えた豊のポケットにスマホが振動した。メッセージが通知されていたらしく、しかも登録した覚えのない人物からのメッセージだった。その内容に目を通した豊は疑問符しか浮かばなかった。

 そして豊は視界の端に回転する物体が迫ってきているのに気づき、咄嗟にその場から離れて地面を転がって回避する。


「い、一体なにがーー!?」


 さっき自分が座っていた場所へ目を向けた豊は、顔を青ざめた。

 そこには、一本の刀が地面に突き刺さっていた。

 もし一歩遅かったら豊の身体は二つに分かれていたと想像して、背筋がゾッとした。

 今度は誰かの足音を耳にして、素早く反応した豊の視線はその人物へ向けた。そこに立っていたのは、有名な霧葉女学園の制服を着た少女。

 豊に向ける視線は冷たく、敵意むき出しの少女だった。

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