第18話
「……とにかく、過去へ飛ぶのは次で最後です。これ以上干渉するととんでもない事になるかも知れませんよ。」
「はい…。」
「いや…、もしかしたらすでに…。」
「え?」
「いえ、なんでもないです。そろそろ自室に戻り、力の回復に専念した方がいいですね。」
「はい、わかりました。」
「ゆっくり休んで下さい。」
「ありがとうございます、失礼します。」
ソードはよろよろと自室へ戻った。
過去の谷山正彦に未来の桜庭葉子が接触した。この事が過去にどの様な影響を与えるのか。スレイブには分からなかった。もう一度だけなら……。それはスレイブの考えが甘かった。過去は少しづつ変化しはじめていた。そして、ソードの力ももうほとんど残っていなかったのだ…。
翌日7月10日、葉子の病室。
部屋からは葉子と名津美の楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「葉子さん、ここ数日は別人みたいね。」
「そう?」
「以前はそんな笑顔見せてくれなかったもの。」
「そうだったかしら?」
院内放送が流れる。
「ごめんなさい葉子さん。私行かなきゃ。」
「ええ、忙しいのにありがとうございます。」
「また、後でね!」
「はい。」
名津美は急いで病室を出ていった。名津美と入れ替わる様にソードがやって来た。
「お待たせしました、葉子さん。」
「ソードさん!」
「早速行きましょうか。」
「身体は大丈夫なの?」
「心配には及びません。しかし、今回で本当に最後です。いいですね?」
「ええ……。」
「では、行きましょう。」
「まって…!一つ聞きたいんだけど。」
「なんでしょうか?」
「ソードさんは…どうしてここまでしてくれるの?」
「それは…、死ぬ前に貴女の願いを…。」
「それだけの為に?」
「……すいません、それは建前です。本当は自分の為なんです。」
「ソードさんの?」
「貴女を見てると…胸が締め付けられて苦しいんです。」
「え?」
「先輩には、私が貴女に恋をしていると言われました。」
「私に?」
「死神は恋などしないと言っておきながら、恥ずかしい話なんですが。…私は貴女が好きです。だから、貴女の願いを最後まで叶えてあげたいんです。」
「こんな私を…?でも私は…。」
「分かっています…。変な事を言ってすいません。それに私は死神、貴女は人間です。例え未来があろうと結ばれる事はないです。」
「ありがとう。」
「え…?」
「嬉しいわ。好きなんて言われたの初めてだもの。」
「…よかった、どんな顔されるか不安でしたから。勇気を出して伝えてよかったです。例え…報われないとわかっていても。」
「ソードさん…。」
「次は貴女の番です。」
「え?私の番…?」
「正彦君に伝えてみてはどうですか?貴女の気持ちを。」
「え…?そんな、駄目よ!だって…私は正彦くんにとってユウコだもの!葉子じゃないもの…。」
「本当の事を話してみては?貴女は昔から正彦君の事を好きだったんでしょう?」
「ソードさん、一体急にどうしたの…?」
ソードの目から暖かいものが流れていた。ソード自身はそれに気づいていない。
「葉子さんは昔いじめにあっていたんでしょう?歩けない、車椅子だと言うだけで。」
「どうして…?誰にも話してないのに…。」
「先輩が調べてくれました。正彦君の事も。」
「正彦君の事も…?」
「貴女はいじめを苦に不登校になり、そのまま入院しました。」
「ええ。」
「その後、学校では正彦君がいじめの対象になったのです。」
「正彦君に?!どうして…?!」
「貴女と仲が良かったから、ただそれだけで。」
「そんな…。」
「そして正彦君はいじめを苦に自殺していました。」
「嘘?!正彦君が自殺…?!」
「本当です。」
「そんな…?!だから、過去の正彦君に元気が無かったのね?!謝らなきゃ…、謝りに行きたい…!」
「過去へ行き、全てを話しましょう。」
「お願い…!」
「貴女の胸のつっかえを全て取り除いて欲しい。」
「ありがとう…。」
ソードは葉子の額に手をかざした。禁書が光輝き辺り一面をその光が包む。
つづく
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