第10話

 7月8日、葉子の病室。


 ソードはいつもの様に葉子の病室へと訪れた。すでに看護師の山岸が葉子の病室へ来ていた。


「それじゃ、何かあったらナースコール押してね。」


「はい。」


 病室を出ようとする山岸に葉子が問いかける。


「名津美さん。」


「はい、どうかしました?」


「そこに誰かいますか?」


 葉子は部屋の隅を指さした。


「そこって、部屋の隅?」


 名津美はソードの目の前まで行き。


「誰もいないわよ?嫌だ!やめてよ!もしかして何か見えるの?私そういうの弱いのよ。」


「いないですよね、やっぱり私の気のせいでした。」


「もう、驚かせないでよ。」


「ごめんなさい。」


「じゃ、私は行くわね。」


「はい、ありがとうございます。」


 山岸名津美はもう一度部屋の隅を確認し、葉子の顔をみて苦笑いすると、急ぎ足で病室を出た。


「私以外には、本当に見えないのね。」


 部屋の隅に立っているソードに葉子が話しかけた。


「はい、私達死神は死期の近づいた人間にしか見えません。」


「そっか、私は本当に死んでしまうのね。」


「はい。」


 葉子は冷たいソードの態度に、わざと困らせる様に続けた。


「あーあ、結局病気は治らずか。なんだったのかな?私の人生って。」


 ソードは黙ったままだ。


「人生の大半はベッドの上か……。」


 葉子は自分で言葉にして、複雑な気持ちになった。するとソードが急に。


「怖いですか?」


「え?」


「死ぬのはやはり怖いものですか?」


 葉子は少し考えて答えた。


「いいえ」


「怖くないですか?」


「ええ、もう覚悟はできていたもの。」


 葉子は窓から遠くを見つめた。


「覚悟とは、自殺することですか?」


「え?どうして?」


「先程言いましたが、死期の近づいた人間にしか私達の姿が見えないと。」


「ええ。」


「しかし、貴方が亡くなるまでにはまだ時間があります。今私が見えるのはおかしいのです。」


「どういう事?」


「貴方はいま、いつ死んでもおかしくない状態にあるという事です。」


「それが自殺?」


「ええ、違いますか?」


 少しの沈黙の後。


「違わないわ。」


「まだ自殺するつもりでいますか?」


「分からないの。気持ちは早く楽になりたいと思ってる。でも……、私には死ぬ事さえ出来ないの、窓まで行く事も1人では出来ない。」


「葉子さん。」


「でも残りの時間って、もうあまり無いのよね。」


「はい、あと14日です。」


 葉子はうつむき考えた。


「病気で死ぬか、自殺で死ぬか、どちらが綺麗に死ねるかしら。」


「私は死に綺麗などないと思います。」


 葉子は微笑みながら。


「つめたいのね。」


「でも、自殺してしまうと生まれ変わる事ができなくなってしまいます。」


「生まれ変わりか……、もし生まれ変われたら今度は病気に侵されず、元気な普通の女の子として生きられるかしら?」


「それは、保証できません。」


「そこは嘘でもできるって言って欲しかったな。」


「すみません。」


 二人は顔を合わせて軽く笑った。


 つづく

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