第2話
桜庭葉子は小さい時に原因不明の病気にかかり、歩くことが難しい身体になってしまった。
今の医学では、治療法はおろか原因すら分からない状況である。
今でも体調をよく崩すが、手の施しようがないのならば、せめて少しでも普通の生活をさせてやりたいと、父である庄之助の希望で入院はせずに車椅子で学校にも通っている。
小学校5年生までは庄之助が学校の送り迎えを行っていた。6年生になったある日、幼なじみである正彦が送り迎えをすると言ってくれたのだ。
庄之助は初めは不安で断ろうとしたが、葉子の母親は、葉子が病気を発症する前に亡くなっており、庄之助は男手1人で葉子を育てていた。その事を知った正彦が学校への送り迎えを買って出てくれたのだ。庄之助は正彦を信じ、申し出に甘えることにした。
その日から正彦は毎日葉子の送り迎えをしてくれた。もちろん地域の大人達の協力もあったが、正彦はしっかりとその役割を担ってくれていた。
それは2人が中学生へ進学しても続いていた。3度目の春を迎えたある日……。
いつもと変わらぬ葉子の家の前、変わらぬ時間に訪れる正彦。
「おはようございます。」
いつもならすでに玄関先で待っている葉子の姿が無かった。代わりに庄之助が立っていた。
「正彦くん、おはよう。」
「葉子ちゃん、どうかしたんですか?」
「ああ、少し体調が悪くてな、今日は学校を休みたいそうだ。」
「分かりました、お大事にと伝えて下さい。」
そう言ってこの日は、正彦1人で学校へと向かった。そして次の日。
正彦はいつもと同じ時間に葉子の家に着いた。しかし、今日も葉子の姿は無かった。
「悪いな、今日も体調は良くないんだ。」
正彦は心配になり。
「大丈夫なんですか?」
「心配かけて悪いな。大丈夫だから、安心してくれ。」
庄之助は笑顔でそう答えた。正彦は「はい。」と答えて学校へと向かった。しかし次の日も、その次の日も葉子は学校を休んだ。1週間がたったある日。
「おはようございます、今日もだめですか?」
「ああ、悪いな毎日。」
「葉子ちゃん、本当に大丈夫なんですか?」
1週間も体調が良くならないのは大丈夫なはずが無い、庄之助は本当の事を話した。
「実はな……。」
葉子は1週間前から体調が悪いというのは嘘であった。あの日から急に葉子が学校へ行きたくないと言い出し、部屋から出てこないのだそうだ。庄之助が何度か説得してもダメだと言う。
それを聞いた正彦は。
「おじさん、上がってもいいですか?僕も話しをしたいです。」
「ああ、悪いな、お願いできるか?」
庄之助の承諾を得て、正彦は葉子の部屋へと向かった。そして、部屋のドア越しに葉子に話しかけた。
つづく
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