第84話奥地

「一撃で斃せるなら斃しちまいな」


「はい」


 手加減している余裕などありません。

 相手は属性竜です。

 一瞬の油断や躊躇いが、自分ばかりではなく、仲間まで道ずれにします。

 身体強化に必要な経験を分けるために、斃せる時に属性竜を斃さずに味方が殺されることになったら、一生後悔してしまいます。


 その夜の私達は、ヨジップ殿下を大魔境の奥地に案内する前に、破竜隊だけで事前偵察をしていたのです。

 偵察なしに殿下を案内して、純血竜や古代竜と遭遇してしまい、殿下を死なせてしまうなど、絶対にあってはならない事なのです。

 だから、かなり奥まで広範囲に偵察したのです。


 結果は、純血竜や古代竜にこそ遭遇しませんでしたが、複数の属性竜と遭遇してしまうという、最悪に近い状況になってしまいました。

 一番いいのは即時撤退なのですが、属性竜の一頭に気配を察知されてしまい、いきなりブレスを吐かれてしまいました。

 今度の属性竜は、好戦的な性格のようです。


 こうなった以上、やるしかありません。

 属性竜が共同して人間と戦う可能性は低いですが、それぞれの判断で、同時に侵入者を攻撃する可能性はあります。

 最悪の想定は、この属性竜が家族という可能性です。

 発情期や子育て期で、共同している可能性もありえるのです。

 その最悪を想定して、私達の気配を察知した属性竜をできるだけ素早く狩る!


 そのための私の突出です。

 他の人達より頭一つ飛び抜けて強くなった私なら、単独で属性竜を狩れるかもしれませんし、最悪囮になって属性竜を奥地に誘導する事も可能です。

 ですが、今は誘導など考えません。

 単独で斃す事だけを考えます!


 こんな時のために、莫大な価格の属性竜牙骨真銀槍を複数用意しています。

 大貴族でも大商人でも、即金で手に入れるのは難しいくらい高価な武器ですが、最初から使い捨てにする覚悟で作らせています。

 身体強化された力を全て込めて、使い捨ての攻撃魔術を真銀に込めて、投擲して属性竜を狩るのです!


 属性竜の放った二発目のブレスを、余裕をもって避けることができました。

 ギリギリ投擲できる距離ですが、まだ回避に余裕があります。

 三発目のブレスを放てるようになるまで、まだ時間がかかるはずです。

 噛み付きも爪撃も尾撃も、まだ遠くて私をとらえることができません。

 もっと近くまで寄るのです。


 飛んだり跳ねたりはしません。

 しっかりと地面に足をつき、何時でも機動的に動けるように、短い歩幅を心掛けて、素早く駆けます。

 属性竜が想定外の速さでブレスを放ってきても、確実に避けられるように、無理な軌道をとらずに接近するのです。

 もう、必殺の間合いまで直ぐです!

 

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