第77話皇子の正妃

「ラナ殿。

 私の妻になってくれないだろうか。

 それが一番、皇国のためにも、ホセイ城伯家のためにも、いいと思うのだ。

 後はラナ殿の気持ちになるのだが、どうであろうか?」


 晴天の霹靂です!

 ヨジップ第三皇子殿下が私にプロポーズされたのです。

 今でこそ城伯家の女当主ですが、元々の身分は士族でも最低の徒士家です。

 とても皇子の妻に成れるような身分ではありません。

 まあ、どうせ愛妾のたぐいにするつもりでしょう。


 私にも選ぶ権利というモノがあります。

 あれほど困窮していたレイ徒士家時代でも、身体を売って金を作るのではなく、冒険者となって金を稼ぐ道を選んだ私です。

 例え相手が皇子であろうと、今さら身体を売るような結婚をする気はありません。

 物語のような恋をしたいとまでは言いませんが、正室に迎えてもらうくらいの夢は、見てもいいはずです。


「お断りいたします。

 妾になるために、今日まで命懸けで戦ってきたわけではありません。

 これほどの辱めを受けて、皇国に残る必要などありません。

 本日只今、爵位を返上させていただきます。

 私は別の大陸を探す旅に出させていただきます」


 自分で思っていた以上に、腹が立っていたようです。

 言うつもりがなかった事まで、口走ってしまいました。

 自分では穏やかな性格だと思っていましたが、意外と気が強いようです。

 口に出してしまった以上、行くところまで行くしかありませんね。

 今さら後悔してもしかたないのですから。


「違う、違う、違うのだラナ殿。

 私にも皇室にも、ラナ殿を愚弄するつもりなど微塵もない。

 ラナ殿の武勇も、誇り高い生きざまも、高く評価しているのだ。

 だからラナ殿には、私の正室になってもらいたのだ。

 正直に話すと、、最初皇室は、ラナ殿をレオンの正室に迎えるつもりだった。

 正室の決まっていないレオンなら、問題がないと考えていたのだ。

 だが、あのような卑怯者では、ラナ殿の夫にはふさわしくないという事になった。

 そこで私が夫候補になったのだが、申し訳ないが、私には既に正室がいる。

 彼女を側室に落とすのは忍びない。

 そこで正室を二人にすることになったのだ。

 これが精一杯の皇室の誠意だと理解してもらいたい」


 頭が痛いです。

 あまりに長く重大な告白に、頭が拒絶反応を示しています。

 頭も心も理解したくないと訴えています。

 本当に、本当に、本当に困りました。

 皇室のような権力者なら、当然考える政略結婚です。

 新興貴族、城伯家の女当主となった私には、最高の条件でしょうし、相手です。

 でも、それでも、乙女心が疼くのです。

 

 

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