第74話凱歌

 強く、とても強く死を意識しましたが、私は死にませんでした。

 ドウラさんが、遠距離から魔法書の回復魔法をとばしてくれたのです。

 イヴァンとダニエルまで左手に魔法書を持ち、回復魔法を飛ばしてくれています。

 貴男達は何をしているのですか?

 そんな余裕があるのなら、属性竜を追撃しなさい!


 私は二人の行動に怒りを感じましたが、そのお陰で死を免れたのも事実です。

 しかたく怒声を飲む込みました。

 まあ、今怒鳴れば吐血してしまうのですがね。

 私はまだ完治していない左腕を諦めて、槍を一旦魔法袋にしまい、属性竜素材の回復薬をがぶ飲みしました。


 王都に広大な屋敷が買えるような高価な回復薬です。

 騎士領の小城程度なら、簡単に買えるほどの金額でもあります。

 ですが、命には代えられません。

 いえ、属性竜の止めを刺せる機会を得るためなら、全財産を使っても構いません!

 その栄誉を目指して、ジョージ様とマルティン様が獅子奮迅の戦いをしています。

 私も負けてはいられません。


 さすがに属性竜素材の回復薬です。

 肺や肋骨が急速に回復していくのが分かります。

 ですが、強力な分、副作用も強いのが属性竜素材の回復薬です。

 治す場所もないのに飲んでしまうと、身体に負担がかかり死んでしまう事もあるのが、属性竜素材回復薬の恐ろしい所です。


 ですが、今はそんな事を言っている場合ではありません。

 半生タイプの丸薬を口に含んで戦線復帰です。

 この後無傷で斬り抜けられるなどと思ってはいません。

 死と隣り合わせの戦いを再開するのです!


 ジョージ様とマルティン様が血反吐を吐きながら跳ね飛ばされます。

 イヴァンとダニエルが慌てて回復魔法をとばします。

 エマとニカが再度シンクロ攻撃魔法を放ちます。

 今が最大のチャンスです。

 シンクロ攻撃魔法が属性竜の防御魔法を突破すれば、属性竜を狩れます。


 でも、属性竜が防ぎ切った時は、延々と戦いが続きます。

 人間の体力しかない私達の方が断然不利です。

 だから、味方撃ちなど恐れはしません!

 シンクロ攻撃魔法をこの身に受けることになっても、丸薬の効果で死ぬ事はないでしょう。


 私は、属性竜とシンクロ攻撃魔法が激突している瞬間に、属性竜の後頭部に再度近づき、渾身の一撃を叩き込みました。

 過剰攻撃になって多くの素材を失うことになろうと、ここで属性竜を斃すのです。

 狩るのではなく殺すだけとなっても、これで決着をつけるのです。

 長槍をダメにすることになろうと、最初から魔法書の攻撃魔法を長槍に付与して、後頸部から脳に槍を叩き込みました!


 勝利を、属性竜を斃した手応えと共に、属性竜が展開していた防御魔法が消失して、シンクロ攻撃魔法の余波が私を圧し包みました。

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