第27話憧れ
「ラナさん、宜しくお願いします」
「今日は私の側から離れない事。
投擲も私の指示があるまでしない。
常に盾を構えて敵の奇襲に備える事。
いいね」
「はい!」
新人少女の憧憬の籠った眼差しが痛いです。
私はそんな眼で見て貰えるような優秀な冒険者ではないのです。
未だに尻に殻のついたヒヨッコでしかありません。
ドウラさんに助けられなければ、白金級の魔獣も斃せないのです。
そんな眼で見られると穴を掘って入りたくなります。
「他の者達は自分の役目を果たしてくれ。
今日は新人が入っているから、見られる緊張で連携が乱れるのが普通だ。
だがそれは恥でも何でもない。
周りに気配りができてきた証拠だ。
自分の力を冷静に見つめられてきた証拠だ。
フォローは私がやる。
一つの失敗でパニックを起こすんじゃないよ」
イヴァンとダニエルが今の言葉を聞いていたら、吹きだすでしょうね。
丸々ドウラさんに言ってもらった言葉をパクっています。
表情は変えないようにしていますが、内心は苦笑いです。
今はまだ自分の言葉で話せません。
やり方もかける言葉も誰かの借りものです。
いつか、自分の経験と言葉で語れるようになれるのでしょうか?
ドウラさんも若い頃には、今の私のような経験をされたのでしょうか?
頭では理解しているのです。
ドウラさんにも若い駆け出しの頃があったと。
何度も死線を超えて今のドウラさんになられたのだと。
今私に試練を与えられているのも、ドウラさんの経験による親心なのだと。
これを乗り越えたら、また一歩ドウラさんに近づけると。
でも心は逃げ出したい一心です。
自分一人の命を賭けて冒険者をしていた時とは桁外れの、身震いするような緊張と、血を吐きそうにな精神的負担です。
ドウラさんは、こんな緊張と精神的負担を背負って、ド素人の私達を三人も同時に受け入れてくださったのですね。
いえ、今のドウラさんだからできたことでしょうね。
全ては一歩一歩積み重ねられて、実力と経験を養われた結果ですよね。
私も、今その一歩を踏み出しているのです。
表情に怯えも躊躇いも浮かべてはいけません。
どれほど不安であろうと、震えてはいけません。
預かっている者の命が重くても、膝をつくわけにはいかないのです。
回数を重ねるほど重くのしかかる命の重みに、恐れおののいているのを、パーティーメンバーに気づかれてはいけないのです!
重圧に押しつぶされるわけにはいかないのです
私はドウラさんの直弟子なのです。
私の評判はドウラさんの評判につながるのです!
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