第19話養嗣子
「イヴァン様、どうでしょうか?
イヴァン様にも、決して悪い話ではないと思うのです。
今迄冒険で蓄えられたお金はイヴァン様のものです。
当家のために使って頂く必要はありません。
イヴァン様には、準男爵家の当主として騎士団に入って頂ければ、それだけでいいのです。
どうか、どうか、我が家を助けてください」
「助けてやれよ、イヴァン。
それに領民三千人の準男爵様になれるんだ。
成り上がり騎士でしかない親父や兄貴より大出世だぜ」
急な話ですが、イヴァンに某準男爵家から養嗣子の話が来ました。
準男爵家の当主としては、最低限の基準を満たしているだけの当主ですが、それでも当主が騎士団にいて初めて家を保てます。
厄竜が現れるまでは、どれほど無能でも家督を継げましたし、無役も許されましたが、今は厄竜に備えるために、無能に領地を与えたり給料を払ったりする余裕はありません。
情けない話ですが、某準男爵家の三人の息子は惰弱で、家督継承に必要な最低限の基準も満たせないようです。
そこで白羽の矢が立ったのがイヴァンです。
某男爵家としても、どれほど強くても、平民上がりの冒険者を養嗣子にはしたくないのです。
私にも、その気持ちも理解でします。
準男爵といえば士族の最上位です。
士族には下から我が家の徒士家、ゲイツ家の騎士家ときて、その上に士爵家、そして最上位に準男爵家があり、その上は貴族と呼ばれる男爵家です。
準男爵家は、何か手柄を立てれば貴族になれる位置にいるのです。
できれば貴族家から、それが無理なら士族家から養嗣子を迎えたいのです。
普通に考えれば迷う必要などありません。
素直に受けるのが普通です。
いえ、喜び勇んで王都に向かうのが普通の男でしょう。
なぜ迷うのか分かりませんし、ダニエルがニタニタと笑いながら揶揄う意味もわかりません。
「だったらお前が受けろ、ダニエル。
お前は俺には少し劣るが、準男爵家を継ぐための実力は十分だろ。
使者殿、悪いが俺には心に決めた女性がいる。
彼女と結婚するつもりだ。
身分など堅苦しいだけで興味はない。
だからこの話は断らせてもらう」
「なんだと、イヴァン!
俺はお前より強い!
いや、そんなことより心に決めた女性と結婚するだと?
なにを夢見てやがる。
お前が結婚できるわけがないだろ。
彼女は俺と結婚するんだ!」
やれ、やれ、兄弟喧嘩ですか。
それも同じ女性を取りあってだなんて、野蛮極まりないですね。
そもそも相手の女性も気持ちはどうなんですか?
女性は男も持ち物ではないのですよ。
「あの、その。
イヴァン様。
ダニエル様。
我が家としては、養嗣子に来て頂けるなら御兄弟のどちらでも……」
「「断る!」」
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