持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。

克全

冒険者偏

第1話婚約解消

「ニコラ様、単刀直入に申し上げます。

 私との婚約を解消してください」


「いきなり何を言いだすんだ、ラナ殿。

 私たちは親同士が決めた婚約者ではないか。

 それに私はラナ殿を心から愛している。

 ラナ殿も私を愛してくれていたのではないのか?」


「確かにニコラ様と私は親同士が決めた婚約者です。

 私もニコラ様と結婚するつもりでした。

 ですが駄目なのです。

 恥を忍んで正直に申しますが、持参金を用意できないのです。

 嫁入り道具も用意できないのです」


「そんな事は気にする事じゃない。

 同じ徒士家じゃないか。

 貧乏なのは分かっている。

 身一つで嫁いできてくれればいいんだよ」


「そうはいきません。

 ニコラ様のラル家も、持参金を当てにしているのではありませんか?

 私の持参金を借金返済にあてる予定ではないのですか?

 商家から嫁をもらえば、多くの持参金が見込めるのではありませんか?」


「それは……」


「持参金も嫁入り道具も用意できないのでは、私も肩身が狭すぎます。

 それくらいなら、売春宿に身を売って家の借金の返済をします」


「駄目だ!

 幾ら何でも売春宿に身を売るなんて駄目だ!」


「大丈夫です。

 ようやく別の方法を思いつきましたから。

 得意の槍術を生かして冒険者として生きていく道です。

 だからニコラ様と結婚するわけにはいかないのです。

 私のため、レイ家のため、ここは笑って婚約を解消してください」


 私はニコラ様を説得して婚約を解消しました。

 これで心置きなく冒険者として生きる事ができます。

 ですがまだ問題があります。

 それは私が女だという事です。

 女がひとりで冒険者をやるというのは、とても危険なのです。

 

 女冒険者は、獣や魔獣だけでなく、男の獣欲からも身を守らなければいけません。

 一番スキが生まれる、就寝時や所用時に見守ってくれる者が必要です。

 同じ女冒険者でパーティーを組むことができたとしても、安全ではありません。

 冒険者同士の抗争、狩った素材を奪おうとする悪質な冒険者もいるのです。

 昔はともかく、今はソロで冒険者がやれる時代ではないのです。

 後ろ盾になってくれるクランの存在は不可欠なのです。


 幸いな事に、私には後ろ盾になってくれるクランにあてがあります。

 昔、実父や義父が冒険者をしていた時に所属していたクランです。

 王都では槍術道場を開いておられます。

 私自身も門弟として今も通っています。

 当代当主のジョージ様にご相談して、パーティーを紹介してもらえれば、実力以外の心配事がなくなります。

 なんの後ろ盾もなく魔都に行っても、なにも得ることなく屍をさらすだけです。

 自然と道場に向かう足が速くなりました。

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