第28話

    ――――〈緊急イベント到来!!!〉――――


 目の前が赤く染まる。ステージ中が赤い光に照らされ、警報が鳴り響く。


「緊急イベント!緊急イベント!《炎は水とワルツを踊る》、開催!」


 聞き覚えのある声。それは最初に出てきたドラゴン、ダンクの声だ。


「大海ステージ『忘れ去られた孤島』にて、緊急イベント発生!制限時間は6時間。イベントメダル獲得のチャンス!『忘れ去られた孤島』に向かうには、水泳スキルや飛行ユニットを使う必要があるよ!以上!頑張ってね!」


 赤い光や鳴り響いていた警報は消え、今まで通りの穏やかな海が戻ってきた。


 ドラスレ始まって以来初のゲリライベント。

 イベントメダルとは、先日のランキングの上位者にも配られた、様々なアイテムに交換出来るメダルのことだ。このメダル交換限定のアイテムも存在するため、プレイヤーはこぞって狙いに行くだろう。


 しかし、ダンクが言うには水泳スキルが必要だとか。習得にはそれなりに時間がかかるため、観光気分で買い物を楽しんでいた者や、のんびりと釣りを楽しんでいたプレイヤーは行くことができない。


 運良く水泳スキルを取ったばかりのローズには、スキルを実践できるいい機会だ。


「うーん。アリサも誘いたかったけど、ご機嫌ナナメだからなぁ。しょうがない。一人で行くしかないかなぁ」


 制限時間が設けられており、それはあまり長くはない。どんなイベントかも確認できていないため、アリサの機嫌が直るのを待つ時間はない。


 ローズはマップで『忘れ去られた孤島』の位置を確認。丁度、ローズのいるマップ中央から三時の方角だ。


 水泳スキルはもう習得済み。そのまま街の端まで走り、勢いよく海に飛び込んだ。












 冷たい水が肌にしみる。底のあるプールとは違い、真っ暗で波のある海は恐怖を覚えた。

 恐る恐る目を開けると、そこには美しい世界が広がっていた。


 色とりどりのサンゴ礁。大小様々な大きさの魚が大海原を我が物顔で泳ぎ回っている。

 街から見下ろした海は吸い込まれそうなほど暗く、底が見えなかったが、水の中から見る海はまた違った。

 遠くで大きなドラゴンの群れも泳いでいる。


 予想とは裏腹に美しい光景に見とれてしまい、しばらく子供のように目を輝かせながら目の前の世界を楽しんでいた。


「いけない!時間が無いんだった!」


 ローズより後にきたプレイヤーも、どんどん差を広げて進んでいる。ローズも負けじと泳ぎ出した。「うーん、まだかなぁ」


 水面を進んでいたが、島らしきものは見つからず少し疲労が溜まってきていた。

 かなり深いところまで沖にきてしまい、先程までいた街も、随分と小さく見える。

 既に水深も深く、鮮やかに輝いていたサンゴ礁も今になっては見えない。暗く、不気味な海底がどこまでも続いているようだ。


 『忘れ去られた孤島』の位置を、マップでかくにんする。そこには、出発時に確かに右側にあった矢印が、いまではマップの左端にあるのだ。


「えっ!どういうこと?もう孤島は過ぎちゃったのかな?」


 今まで泳いできた道には、島らしきものはひとつも見つからなかった。いくら孤島といえど、見落とすほどの小さな岩でもない限り見つかるはずだ。


「マップ見ながら戻るしかないかなぁ。けどあの人たちは気付かないでもっと沖の方行ってるし。教えてあげようかな」


 大きく手を振り、声を出そうと息を吸い込む。

 次の瞬間、ローズの今いる地点の真下から、『何か』が上がってくる振動を感じた。


「えっ……」


 真っ暗な海底から、なにか青白い巨大な『何か』がどんどん上昇してくる。


――――まずい、激突する。


 そう感じたときにはもう遅かった。その巨大な青白い『何か』は、大きな口を開けてすぐ真下まで迫ってくる。


「逃げてぇぇぇぇぇぇ!!!」


 大声で遠くのプレイヤーに呼びかける。その声が届く頃、ローズの姿はそこに無かった。


 姿がはっきりと見えた頃には、逃げる道もなく、あっさりと大きな口に吸い込まれていく。


 ローズが呼びかけたプレイヤー達が振り返るのと、大波が迫ってきたのはほぼ同時だった。


 プレイヤー達が見たものは、天高く舞う巨大なサメ『メガロドン』の姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る