第104話 真★無礼講
「テメー!このガキャー!!!よくも肥前のどんづまりに追いやってくれやがったなぁー!!!!」
べろんべろんに酔っぱらったごろつきがこちらに向かってきて叫ぶ。
「領主様!おやめくだされ!!!殿中!殿中にございまするぞ!!!!」
「あん?なーにが殿中だ!!!この、ボケが!!!こちとら争いの渦中にたたき込まれて死ぬ思いだったんじゃぞ!!!このクソガキ…そう、このクソガキのせいで…」
そう言うと泣き出した。
8月のクソイベントを改良して、先ほどまで和気藹々とした宴だったのに、なぜこのようになったのかを思い出していた。
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「乾杯!!!」
温泉に入った後の領主たちに俺は料理を振る舞っていた。
温泉とくれば、冷えた水に冷酒。刺身に揚げたてのポテトや肉などのつまみが最高においしいだろう。
本当ならビールが欲しいが、製造が間に合わなかった。『トリアエズナマ』が恋しい…。
「これは、南蛮から伝わった調理法で天ぷらと言う」
と将来の大分名物 とり天を中心に、タロ芋の揚げ物を振る舞う。
とり肉は取れたての地鶏に味付けをしたてんぷら粉を薄くつけて、からっと揚げたもの。油もおろしたての新品である。
これに塩、醤油、天つゆ、すだち(大分名産かぼすは中国からまだ輸入されてなかった)などをつけて食べてもらう。
芋もスティックタイプとポテトチップのような薄い平型のふた通り。
マヨネーズやケチャップも用意した。
「これは…すごく旨いですな」
体が資本の領主たち。塩マシマシ油料理が旨くないわけがない。
食べ過ぎると油で胃がもたれることを説明しながらもご飯のおかずとしてモリモリ食べる。
「いやあ、塩に苦みもないし、この油も良い香り。おまけに酒も旨い。ここはまるで天国ですな」
と、筑後領主の問注所が言う。
この家は日田に近いという地理的条件はあるものの1580年に凋落した大友家に最後まで味方してくれた忠義に厚い家である。(ただし分家は裏切る)
「そう言ってもらえるとありがたい。ささやかではあるが、部下たちにも振舞えるよう土産に持って帰ると良い」
そう言いながら、未来への礼としてみやげ用の酒を手配する。
「よろしいのですか?」
「遠い所をわざわざ来てくれたのじゃ。これくらいの礼はさせてもらおう」
トップがケチでは舐められるというのもあるが、こうした贅沢品が広く広まり量産されるようになってほしいという願いも込めて、一部にばらまくことにした。
米や金は略奪で奪えるが技術は奪えないしな。
他の領主にも同様に酒などを手配させる。
「おお!これは豪気!ありがとうございます」
「大友家万歳!五郎様に栄光あれ!!!」
酒が回っているのか、上機嫌で叫ぶ筑後領主たち。
でも、こいつら負けそうになったら裏切るんだろうなぁ…(※将来の話です)
そんな一歩冷めた目で見ているところで、この酔っぱらいに絡まれたのである。
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「テメー!このガキャー!!!よくも肥前のどんづまりに追いやってくれやがったなぁー!!!!」
べろんべろんに酔っぱらったごろつきが向かってきた。
「領主様!おやめくだされ!!!殿中!殿中にございまするぞ!!!!」
忠信蔵かよ。
「あん?なーにが殿中だ!!!この、ボケが!!!こちとら争いの渦中にたたき込まれて死ぬ思いだったんじゃぞ!!!」
松の廊下と違って帯刀は許可していなかったので切り殺されることはなかったが、殴り殺されそうだ。
「ええと、どちら様でしたっけ?」
その言葉に、一瞬毒気を抜かれたように黙ると
「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!!」
とわめいた。
「おまえが!!!!おまえが送り込んだんだぞ!!!!あの毎日陰謀と裏切りの肥前に!テメェとんでもねぇ所に送ってくれやがったな!!!」
肥前という言葉に合点がいき、名前を思い出した。
「ああ、一万田か。えらく老けたなぁ…」
史実だと来年裏切る予定の男、一万田だった。
黒々としていた髪は白髪が混じり、だいぶやせてしわが目立つ。苦労したんだな。
「だれのせいだとおもっとンじゃぁぁぁぁ!!!!」
泣きながら首を絞めてくる。あ、これかなり殺意籠ってるな。
「おお、おお。そんなに肥前は大変であったか?」
「大変なんてもんじゃねぇ!あいつら人の言うことは聞かねえで肉親同士で足を引っ張りあうし、どこかに味方すれば勝手に敵扱いしやがるし、恒例行事だから全員参加と言っておるのに誰も参加しようとせぬ。もうやっとれんわ!あんな国!!!」
うん。まあ、そんな引っ張りあいを来年やるんだけどね。
大名というのがどれだけ人間関係が大変か実感してくれたようでなによりだ。
そのまま俺の胃の健康のため犠牲になってくれ。(切実)
そう言いたかったが、人相が変わるまで苦労した顔をみてさすがに可哀そうになった。
「うむ。よくがんばった。お前は偉い。酔いが醒めたら、良いように取りはからう故、今日は愚痴を吐き出してからゆっくり休め」
「本当だな?絶対本当だな?」
何度も念押しして一通り叫んだ後に一万田はそのまま寝てしまった。
「殿、大丈夫でございますか?」
「ああ、大事ない。一万田の器量なら肥前半国は治められると思ったが、少し荷が重かったようじゃな。悪いことをした」
そう言って「少し服が乱れた。すぐ戻る故、皆はそのまま楽しんでくれ」と、部屋を出た。
「どうなるかと思ったが、五郎様は寛大じゃな」
「年上からあそこまで詰め寄られても、眉一つ動かさぬとは肝が据わっておられる」
「大将というのは、あのように堂々とされるかたなのじゃな」
との賞賛の言葉を後にしながら
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「……殺されるかと思った」
根性で我慢していた足のふるえがどっと出た。
覚悟していたとは言え、現場監督時代でもあそこまで酒グセの悪いおっさんはいなかったぞ。
命がかかっている仕事だとストレスも半端ないんだな。
来年の反乱防止のため、給仕に少し強めの酒を一万田に出すように言ってワザと酔わせたが、ここまでストレスが貯まっていたとは想定外だった。
「まあ、あれで反乱の旗印にはならないでしょうね」
と、さねえもんが全く無関係なツラで言う。
「……ああ、一万田自身が、なりたがらんだろうな」
大友家で反乱を起こす領主はこれからたくさんいるが、府内で反乱を起こして宗麟の命の危機に陥れたのは一万田と1556年の小原くらいだ。
『あんな若造が当主になれるなら、自分だってなれるだろう』
と思っていたのかもしれないが、今回の件で思いとどまってくれたら良いなと思う。
まあ、1551年に陶が大内を倒したり、1554年にその陶を毛利が倒すという戦国時代のジャイアントキリング・下克上を見て「ワンチャンあるかも」と思った可能性もあるのだが、可能性は潰すに越したことはない。
「ところで、一万田を変えるとして、誰を守護代にすえますか?」
「そこなんだよなぁ」
長崎を治められた人間というのは鍋島家がいるが、あれの祖先は龍造寺の部下となっているし、島原の乱とか刀狩りなどのイベントをこなした上での事である。
「菊池義武がもう少し有能なら、押しつけたかったんだけどなぁ…」
「大内義隆さんも、あそこは難しいでしょうしねぇ」
どこかに、良い統治者でも落ちてないだろうか?
「いっその事、さねえもん行ってみるか?」
俺の補佐を離れられると困るのだが、冗談で言ってみる。
「その時は、織田家か武田家に出奔しますね」
と笑顔で言われた。さねえもんの義理パラメーターは0のようだ。
まあ、俺も立場が逆なら逃げ出すけど。
うーん。本当にどうするか?
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本当に、あの肥前を上手に統治できる領主っていたんでしょうかね?
来週までに思いつく事を願います。(他人事
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