第87話 ご国家の医学(ご家庭の医学と同じ語感で)

 コロナで大変な時期、余計な外出せずに防疫に励むのが模範的市民の務めとおもいましたが、日常生活で軽い運度とか病気予防とかも大事だよなあと思い、急きょ予定を変更して医療系の話にします


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 国東で狼藉を働いた人間は、南の種子島付近の離島に送り込むことにした。

 南蛮の作物を試験的に作る農場をつくっていたので、その労働力として働いてもらうのだ。


 新しい作物というのは未知の病原菌が着いている可能性がある。

 日本の主食である米に対して、アイルランドのジャガイモを全滅させた菌のようなものが感染したら日本は物理的に全滅する。

 そのような菌は今のところ発見されてはいないが、用心に越したことはない。

 なので余所に影響の少ない離島でタロイモとか作ってもらおうというわけだ。

 3食は保証するし昼寝つき。採れた作物は換金して生活必需品と交換するし建物は最新技術のものを用意した。

 戦争もないし、食うに困っていたのなら意外と楽園になるかもしれない。

 

 豊後を襲ってきた宇佐には『連射が出来て信じられない長距離から狙撃する仏罰が当たった』という噂を虚実交えて流したのでしばらくは攻めてこないと思うが、攻めてきたのなら新しい労働力の収穫チャンスだと思う事にしよう。

「ヤクザの人材スカウトみたいですねー」

 と後ろで人聞きの悪いレッテルを張る奴がいたが無視する。


 ちなみに種子島氏は九州の大勢力である大友家と国交を結んでいたのだが、南蛮貿易の中継点として本格的に開発を進める事となり、ハブ港としての経営方法や観光という概念も伝えており、外貨獲得の前線基地として整備を進めている。

 サトウキビが量産できればタピオカミルクティーの量産も夢では無い。


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 こうして『豊後に手を出すと神隠しにあう』という噂を流布して防衛力を高めつつ、次の課題に手を着けることにした。


 医療の発達である。


「先日、入浴が定着したし衛生状態は良くなったが、不治の病への対策はまだまだだからな」

 この時代の平均寿命は低い。

 戦死もそうだが乳幼児の死亡率が高く、病気での死者も多い。

 ウイルス知識もないのだから無抵抗のサンドバック状態だ。

 そのため漢方薬が買える大名でも、怪しい祈祷やまじないが一般的な治療となっている。これではいつ有能な人材が死ぬか分かったものではない。


 逆に言えば、寿命が伸びると言うことは生産人口が増えることを意味する。人が多くなり、その労働力を生かすことができる政治力があれば国は豊かになるのだ。医療の充実はその土台となるだろう。

 国家の医学はこのように病気を未然に防ぐため資金と時間と人材を惜しまず使う先行投資である。人命よりも金を惜しむバカは、国家医療に携わるべきでは無い。


「というわけで、まずはアルコールによる殺菌と顕微鏡の制作。ペニシリンなどの基本的な医療研究を進めよう」

 アルコールや熱湯による殺菌は出産の死亡リスクを減らす。

 また顕微鏡が完成して細菌を見ることができれば、重病患者の対処法も研究できる。

 たとえば唾液や卵白に含まれた殺菌酵素 リゾチームや、ブドウ球菌を溶かす現代薬品のチート兵器、ペニシリン(抗生物質)の抽出を目指す。

 もともと第一次大戦(1914年)で戦傷兵の治療は傷の洗浄と石炭酸での消毒だったので戦傷兵が感染症にり患した。

 この経験から戦後、フレミングと言う研究者が感染症治療を改善する薬剤を探索した。

 そして細菌を塗ったペトリ皿にフレミングがクシャミをし、 数日後、唾液が付いた場所の細菌が破壊されているのを発見したことで殺菌酵素 リゾチームが見つかった。らしい。

 その後、数多くの試行錯誤中、ばい禁の一種であるブドウ球菌を培養中にカビの胞子がペトリ皿に落ち、カビの周囲のブドウ球菌が溶解しているのに気づいた。

 何か殺菌作用があると推測した彼は、アオカビを培養し、その培養液をろ過したろ液に、抗菌物質が含まれていることを実験で確認。

 アオカビの属名であるペニシリウムにちなんで1929年にペニシリンと名付けた。

 まあ実際に使い物になるのは10年の動物実験を経てなのだが、ゴールが分かっていれば完成も早いだろう。というか早くないと困る。


 抗生物質は対外から入ってきた雑菌に対抗する薬品だが、特に戦国時代だとアメリカから来た梅毒の唯一の治療薬となるからだ。


 性的な接触で感染するこの細菌は1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到達してから20年。「シナ潰瘍」という命名のもとで1512年の医学概論書に登場しており欧州人よりも先に感染を通じて日本に到達したと言われる。

 感染すると数週間の潜伏期間を経てから、全身症状を引き起こし、早期に治療を行わないと症状が悪化し、大動脈瘤、髄膜炎や神経障害(神経梅毒)などが生じて命にかかわる重篤な状態になる。血管に異常が生じるため末端から体が腐り、脳の障害や鼻が腐り落ち死に至る病にもなる。


 これを直すために本来の歴史と同じく、数百回の動物実験を行い早期に治療薬を完成させなければならない。

「あと天然痘も撲滅しないといけませんね」

「それに麻疹とか風疹、結核も防がないといけないんだよなぁ」

 コレラ、赤痢とか数え上げればきりがない。大名なんて本当にやっている暇がないな、これ。誰か代わってくれ。(切実) 


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「と、ここまでが先行投資の裏方医療だ」

 それとは別に、生活習慣で起こる病気、これの治療法を町医者に説明して治していこう。

「肥満になるほど食料はありませんけど?」

 とさねえもんが言う。

 そーだね。米だけの偏食は止めさせたから改善はされているけど、他にも日常生活を破壊する病気はあるんだよ。

「何ですか?それは」


「うん。まずは手軽に治せる腰痛と痔だな」


「それ、本当に治せるんですか?」

 さねえもんが疑い深そうな目で見る。

 うん。両方とも自分の体で治療したから、多分大丈夫。

 個人差はあるかもしれないけど、原因を押さえれば治せる…はず。

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