第45話 情報を制すものは戦いを制す。

 気が付いたら2万PVを突破していました。

 伏して御礼申し上げます。

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「この『八郎を大内家督にする』という保険が崩れれば、陶は失脚するだろう」

 そういうと俺は一通の書状を出した。

 そこには陶が同じ大内家臣に反乱を呼びかける内容が書かれていた。


「いったいこれをどこで?」

 どこに出しても恥ずかしくない反乱の証拠を提出されてベッキーが豆鉄砲を食らった鳩のような目でこちらを見た。

「うん。ちょっと甲賀の忍者…ええと間者に潜入を依頼したんだ」


 戦国時代に来たらすべき事 その2。

 忍者のスカウトである。


 情報というのは大事である。どれくらい大事かと言うと1586年に『天下人の豊臣秀吉さんがバックについてくれたから、まさか敵は攻めてこないだろう』と思っていたら薩摩のモンスターたちは『猿なんぞに従えるか』と攻めてきて、何の準備もしてなかった宗麟はろくな食料も持たずに臼杵城に避難した。と宣教師に書かれてしまう位重要である(フロイス日本史8巻)

 ついでに入田という身内の売国奴が裏切ったのにも気が付かず、あっさり国内への侵入を許してしまう位重要であったりする。


 なので金次第で仕事を受けてくれる忍びに仕事を依頼して、隙あらば領地と侍としての身分をエサにスカウトしようと言う作戦である。

 当然、伊賀忍者にも粉をかけているが一匹狼の伊賀忍者よりも集団行動を主とし民主的多数決で物事を決める甲賀忍者の方が話が通じそうなので、そちらに近場の仕事を任せた。

 いくら腕がたっても「今日は別の現場に行く」とか制御不能な大工さんは扱いずらいし、変なプライドで施主の希望を無視されては困るのである(※本ry)

「余所者にそのような仕事を任せて大丈夫ですか?」

 とベッキーが渋い顔をする。

 大内さんの所にいた相良さんもこんな感じだったんだろうなぁ。

 まあ集落全体が情報収集に特化した集団がいるなんて普通信じられない気持は分かる。

 九州にも佐賀や肥後にそんな集団は存在したそうだけど機密中の機密だから存在自体詳しくは知られていない。特に佐賀の忍者が最近になって色々情報公開されているらしいがコロナで行けないので詳しい事が言えない。

 伊賀甲賀は江戸時代もお庭番として活動したからといえよう。

「それならば、この鎮西(九州の事)の間者を雇えばよいのではないですか?」

「九州の間者は他の大名が押さえているから、下手に登用したら人材を横取りしたと思われるじゃないか」

 建設会社同士でも人手が足りないときは下請け会社を紹介しあったりするが虎の子の職人や大工は隠しておく。

 仕事に支障がでるのは勿論だが、重要な仕事を任せている人間を余所には出せないからだ。

「なるほど、確かにそうですな」

 なお菊池討伐が完了した今、南は宮崎の伊東氏と熊本の相良氏、西は長崎の少弐氏、北は大内氏という比較的良好な関係を保っている勢力に囲まれており、敵対している勢力は今のところない。そんな状態で波風は立てたくないのである。

 領民も「自分の生活を守るだけで精一杯なのに、将軍を擁立して天下人になるなんて道楽につき合えるか」という状態だからSLGみたいに領土拡大はできない。

 戦国時代というと戦乱を治めるために誰か強いリーダーが天下を統一して欲しいと思っているイメージが強いが、豊後みたいに自分の領地での戦争が少ないと、領土侵略へのやる気はかなり少ない。

 敵対する勢力の土地を略奪して収入アップするなら良いけど自分たちの生活を脅かさない相手をわざわざ理由もなしに攻めるとか強盗とやっている事は変わらない。

 そこら変を悪とみなす感覚はあったらしい。


 まあヴァリニャーノに「日本人は礼儀正しいがささいな事でも人を殺す。刀の切れ味を試すためだけに人を殺す」とか書かれてたりもするらしいが。(日本巡察記より)


 とりあえず、この平和を守るためにも情報を先取りして防衛に努めたい。そのためにも強力な諜報機関の確率は急務なのである。

 こうした仕事が忙しいから大名なんてやってる暇はない。

 決して付き合いの宴会が苦痛だったり、やな奴と対面したりしたくないからという理由だけで言ってるわけではないのだ。

 だから大名やめさせておくれやす。

「冗談はさておき、間者を雇う費用はどこから出されたのですか?」

 冗談の一言で流された。

「あ、費用はすべてお館様の個人的資金です」とさねえもんが補足する。

「うむ。国のためとはいえ成果が出るかは不確実だったからな。とりあえずは俺個人の財産で雇った」

 そういうと、ベッキーは納得したようだ。


 こうした人間を雇うと「金がー」とか「無駄遣いがー」と言われるからな。

 ちょうど公家への支出で「金がー」とか「無駄遣いがー」と悪口を言われて反乱起こされそうなのが大内義隆さんだし。

 なので塩作りで稼いだ金を使用した。公金に手を着けないでおいて良かった。


「しかし、このような重要な書状を簡単に奪えるとは思えませぬ。金目当てで間者が偽造したものではないのですか?」と疑わしそうな目で謀反のお誘い書状を見る。

 確かに裏切り書状なんて盗めるとは思わないだろうなぁ。

 俺も盗めるとは思わなかった。

 セキュリティのガバガバさにびっくりしている。しかし

「いえ、この花押は陶殿の直筆に間違いございませぬ」と12年前に不戦の誓いを陶と互いに交わした臼杵鑑続が言う。さすが大友の外交官。

「まあ、屋敷に忍び込むのは無理だから使用人を買収してすり替えたらしい」

 領民みんなが貧しい戦国時代。先がどうなるか分からない戦国時代。

 領地に執着のある武士はともかく、土地を持たない非正規雇用みたいな使用人なら30年は遊べる金を積んだらまあ裏切るだろう。

 不景気の現代社会で時給900円なのに会社の経理から経営責任に関わらせられてるような経理のアルバイトに『1500万円渡すから、ちょっとデーターコピーして渡してくれる?』と頼んだら失敗するわけがないのである。

 まあ実を言えば賄賂や買収は結構効果があると思ったが、当主の秘密まで売ってもらえるとは思わなかった。

 きつい仕事を任せるなら十分な報酬を払わないと、こうした裏切りにだってあうのである。結果オーライ。

 私もブラック企業時代に機密とか売り飛ばして会社に嫌がらせをしたかった。無料でも良いから誰か情報欲しい人いないだろうか?悪の団体を滅ぼしてくれるスパイが。(※本)

「聞かなかった事にしますね」とさねえもんがいう。

 学生だと分からないけど、社会にでると敵よりも敵と思える味方なんていくらでもいるんだよ。


「しかし、それでも凄い事ですぞ」

 臼杵が感心したように言う。まあ、金の使い方としては間違ってないだろう。

 薄給でこき使われている人間は金に転ぶ。飢えた人間は一切れのパンのために人を殺すのである。

「そこらへんの裏切りそうな人間を見抜いたり、偽物ではないかを判断するのも彼らの技術なんだ。どうだ?ベッキー。彼らが部下になれば戦もやりやすくなるんじゃないか?」

 戦いとは事前の情報によって左右される。敵の構成や布陣場所、人間関係まで把握できれば対応だって変わるものだ。

「……そうですな。信頼できる家臣であるならば誠に重宝するでしょうな」

 と条件をつけながらも、しぶしぶと認めるベッキー。そこでもう一つ提案をする。

「だから将来的には彼らを当家の客将として召抱え、人材育成に当たってもらおうと考えている」

「人材育成…ですか?」

 これだけ凄い技術があっても忍者の待遇は良くなかったと言われているので、武士として認めれば協力してくれるのではないか?というのがさねえもんの推測だ。

 さらにいえば豊後は将来的に宣教師によって孤児院が立てられるほど子供を育てられない親が存在したという。そうした子供をなくすようにしたいが、現代社会でも一定数存在するのだから解決は難しいだろう。

「そうした子供たちを忍者に育成させ、行商ついでに情報収集を任せることで仕事を回せるようにできたらいいなと思うんだ」

「そう言われたら反対がしづらいですな」

 ベッキーが言う。鬼の様な顔をしているが意外と子供には優しいのである。

 まあ、将来的な話だし甲賀忍者が受けてくれるかも分からないので予定の一つとして考えてほしい。

「なるほど、殿の深慮はよくわかりました」

 とベッキーは言う。

 そして

「そのためにも殿は大友家の当主として見届ける必要がございますな」

 と言われた。

 ………………ごめん。やっぱりさっきの計画無かった事にしていい?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さて、アホみたいに長い前置きだったが甲賀忍者の持ち帰った情報と田原の証言をまとめると、大内家の『もうどうとでもなーれ』な状態がよく分かった。


「武断派と文治派が争っているとは聞いておりましたが、まさかここまで事態が切迫しておりましたとは…」

 と弟の臼杵鑑速も言う。


 大内家の譜代重臣は3人いるのだが豊前を治める杉氏に山口の内藤が陶の味方となっている。

 最後まで共にいた冷泉という人間は今回も裏切る様子は無いようだが兵士の動員力が圧倒的に少ない。

「もう一つ補足しますと、陶殿の叛意は5年前から指摘されていたようですが、今も放置しているようです」

 という衝撃的な事実まで飛び出してきた。


 ここまで、ヤバい状態なのに何の手も打ってなかったの?

 それヤバくない?


 まるで9月1日の『朝』に夏休みの宿題が終わってない小学生を見るような気分で俺は大内家のある北方をみたのであった。

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