平凡な高校生がパワードスーツを装着し、正義のヒーロー的な存在に仕立てあげられてしまった件について

上田エリック

第1部

第0話 休日の朝は布団との戦い

(クソっ! 暑い! 体力の限界だ! 飛鳥あすか姉さんごめん! 俺にはやっぱりこんなこと勤まる訳なかったんだ!)


「がんばれ~!ジャスティスマーン!」

「まけるなジャスティスマーン!」


 4月の末から5月の初めまで続く大型連休のことを世間では GW《ゴールデンウィーク》と呼んでいた。

 5月5日、こどもの日。GW終盤に当たるその日は例年より厳しい暑さが日本全国を襲っていた。

 現在俺が立っているこの野外ステージも例に漏れることは無く、燦々さんさんと降り注ぐ太陽パワーの直撃を受けていた。

 ステージ上でパフォーマンスを繰り広げている俺達ヒーローを見つめる眼差しが太陽並みに眩しい。最前列の家族なんてあまりに凝視し過ぎて目が血走っちゃってるもん。


(どんなに辛くても弱音を吐けないのがヒーローの辛いところだな……!)


 そんな風に頭の中で余計なことを考えつつも、悪の戦闘員を決め台詞と共に必殺技で蹴散らしていき、ヒーローショーはクライマックスに差し掛かっていった。


「ジャスティスマン、今日も平和を守ってくれてありがとー! みんなも大きく手を振ってあげてねー! バイバーイ!」


 司会役の美羽みうちゃん(俺の高校で同じクラス)が笑顔で締めくくると、俺達ジャスティスマンはお客さんからの大歓声を浴びながら舞台袖へと戻って行った。


 因みに、『ジャスティスマン』とは俺の暮らしている町(東京都文京区)で何故か絶大な人気を誇っている所謂いわゆると呼ばれるものである。

 メンバーは全部で五人在籍しており、それぞれ『ジャスティス○○(○の中にはレッド・ブルー)』というように色に対応した名前が付けられている。ついでに言うと俺は一応ジャスティスレッド役を演じさせて貰っている。

 三週間前に結成したばかりにもかかわらず、SNS《ソーシャルネットワーキングサービス》上で知名度が一気に上昇して今の状況に至っている。SNSの影響力は恐ろしい。


(な、なんとか今日もこの仕事たたかいを乗り切ったぞ……!)


 出演者達の控え室で俺はヒーローのマスクだけを外し、息を切らしながら一人でガッツポーズを取っていた。隣に立っていたジャスティスイエローが俺の突然のアクションに驚いて体を一瞬ビクッ! とさせていたが、無視しておいた。


 俺は連日の出勤により精神も体力も疲弊ひへいし切っていたのだ。視界もぼやけてよく見えない状態。もはやジャスティスハラスメントである。


「こうなったらジャスティスレッドを引退してやる……!」


 俺が椅子に項垂うなだれるように座り休憩していると、


「さっきから1人で何か言ってるみたいだけど大丈夫、赤崎?」


 背後から声をかけられた。

 後ろを振り向くとジャスティスブルーこと、水瀬唯みなせゆいが俺から間合いを置くようにして立っていた。完全に引いている。

 水瀬は俺のクラスメイトであり、バイト仲間でもある。つり上がった目尻に、肩口のところで綺麗に切り揃えられた金髪のストレートボブヘアが印象的だ。


「心配してくれたのか、水瀬。なんでもない。疲労から出てきた独り言だから気にするな」


「そう。それならいいけど」


 そう言ってからアンダーシャツ姿の水瀬が腕を組む。特に意味は無いが俺はその両腕に乗せられ、強調された胸元に一度視線を落とし、水瀬の顔に視線を戻した。


「赤崎、これから少し時間ある?」


 ここで水瀬から質問をされる。

 ふと、周りを見回してみると俺と水瀬以外は皆帰宅したのか、周りに誰も居なくなっていた。

 つまり同じ部屋に同級生の男女が二人きりである。これはもうデートの誘いへと繋がると俺は確信していた。


「もし時間があるんだったら、今から私と一緒に事務所に来て。さっき田口さんが私達に話があるって言ってたから」


 全然違った!


 田口さんは俺達のバイト先の代表者取締役の男性である。


「分かった。時間空いてるし、一緒に行こうか」


 俺達は一旦ロッカー室で私服に着替えてから事務室へと向かった。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平凡な高校生がパワードスーツを装着し、正義のヒーロー的な存在に仕立てあげられてしまった件について 上田エリック @erik

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ