月の女神と暗黒の女神 最強のマジックナイト(魔法騎士)を目指す魂
雪月風
1章
1-1.魂の海~
いつからだろうか。
薄暗い空間の中をゆったりと漂っている。
靄の中を同じように漂っている淡く輝く玉が遠くに見えている。
俺は……あれ? 名前を思い出せない。
職業は……そう、警察官!悪党から庶民を守るためになった。
なのに配属先は交通。違反切符を切って庶民から恨まれたような……
いや、目指せ弁護士。司法試験に5回も落ちて、就職先も無くて……
いやいや、ゲームを作りたくて憧れのプログラマーになったのに、なぜか派遣……
そういえば地方の温泉地で整体師をしていたことも……
次から次へと記憶が蘇っては消えていく。
はぁ~なんだろう虚しくなってきた、というか俺は何回生きているんだ。
もしやこれは輪廻転生? いやどの記憶も時代が同じすぎる。
うーん…………チーン。
よし、ほかの事を考えるとしよう。
はぁ、美味しい物が食べたいな~
お腹は空いてないけれど……
あれ、何か引っ張られている感じがする。
強く光っている所へ向けどんどん加速していく。
どこからともなく少女の声が響いてくる。
『お願いします。神様。アルスお兄ちゃんを生き返らせて』
まばゆい光が迫る中へ飛び込んでいく。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
少女の泣き声がする。
ぼやけていた視界が徐々に鮮明になっていく。
ところどころに隙間やシミが見える木で出来た天井が見える。
どうやら横になっているようだ。
ゆっくりと声のする方へ顔が向くと……
膝を折り祈りながらも、今にも泣き崩れそうな、おかっぱ頭のかわいらしい少女と、その体に重なるように、ぼんやりとした非現実的なほど美しい女性が見えた。
その美しい女性と目が合うと、女性はほほ笑みとともに姿が薄れていった。
そのほほ笑みはとても温かく、どこか懐かしく感じられた。
女性の姿が消えると、空気が冷たくなり、まるで夢から覚めたように現実味がましてくる。
そこは粗末な作りの小屋の中だった。
しばらくすると上半身がゆっくりと静かに起き上がる。
床には食器などが散乱し、すぐ横には短めの両刃の剣、ショートソードだろうか、が転がっているのが見えた。
俺の視線に気が付いたのか、少女は一瞬固まった。
「アルスちゃん」
少女は顔をキラキラと輝かせて、胸に飛び込んできた。
小さな体はやわらかく、伝わってくる温もりが心地いい。
「ミヅキちゃん――どうしてここに」
聞きなれない少し高い少年の声が聞こえてきた。
『ふーん。この子はミヅキちゃんっていうのか』
なかなかの美少女なようだ。
「おじさんのお葬式の時にね、アルスちゃん元気がなかったら遊びに来たの。いくら呼んでも出てこないから……、そしたら……そしたらアルスちゃんに剣が刺さっていて血が……血が…………。でも良かった。いっぱい、いっぱい神様にお願いしたんだからね。ほんとうに……本当に良かった」
ミヅキは涙をこぼしながら、さらにきつく抱きしめてきた。
そこで俺は重大なことに気が付いてしまった。
俺は体を動かしたり声を出した覚えがないし、そもそも少女の名前を知しらない。
「アルスちゃんあるける?」
「うん、だい、じょうぶ」
俺が悩んでいる間にも、2人はよろよろと立上り、寄り添いながら隣の部屋に向けて歩き出す。
この体の名前はアルスと言うようだ。
起き上がった視線の高さから推測するに、十代前半の少年だろうか。
少女よりは背が高いようだ……って冷静に考えている場合か!
『おい、ちょっとまてよ。どうなっているんだ』
話しかけようとしても声は出ない。
目も見えているし、音も聞こえている。
少女の温もりも、漂う微かな甘い香りさえも感じることが出来る。
なのに声を出すことも、体を動かすこともできない。
まるで他人に体を操られている感じだ。
いや、もちろん今まで体が操られたことは無いんだが、うん、きっとこんな感じだろ。
少年は質素で小さなベットへ腰をかけようとするが、何かを思い出したように叫びだした。
「かーさん。かーさんを助けないと」
慌てて様に辺りを見渡すが、母親の姿は見当たらない。
代わりに隣にあるベットのシーツが荒らされ、床には女性の服が投げ捨てられたように落ちているのが目に入ってくる。
良く見るとベットのところどころが、濡れて汚れている。
これは嫌な予感しかしない。
少年はよたよたとドアへ向け歩き出すが、直ぐに倒れてしまう。
あわててミヅキが少年を助け起こす。
「無理しちゃだめだよ。……こんなにケガをしているのに」
ミヅキは少年の血がしみ込んで重くなった服を見つめている。
先ほど抱きついたせいだろう、ミヅキの服も血で汚れていた。
ただ、俺は少女の柔らかく温かい感触は感じるのに、痛みは感じていない。
体からは疲労による気だるさのようなものを感じるものの、むしろ俺にとっては若さにあふれ健康的で、快適なほどだった。
ミヅキは少年をベットに寝かしつけた後、おそるおそる血で濡れた少年の服をたくし上げていく。
胸は固まりだした血で汚れているが、不思議とキズは見当たらなかった。
「よかった~、神様が治してくたのね」
ほっとしたように、ミヅキは涙を拭いながら微笑んだ。
「…… あれ、アルスちゃんのおでこに、なにか模様が付いてる」
ミヅキはアルスのおでこを暖かな手で撫でてくるが、少年は疲れているせいか、視界に映るミヅキの笑顔がしだいにぼやけていき暗闇が訪れた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~
暗闇の中、俺は考えた。
おでこに模様っていうのも気になるが、とりあえず脇に置いておこう。
俺は転生したつもりでいたが、どうやら俺の魂は少年の体の中に閉じ込められているようんだ。
いや、ただ閉じ込められただけだったら、嗅覚や触覚までは無いのではないだろうか?
……たぶんだけど。
となるとあくまで仮説だが、1つの体に2つの魂があって今の主導権は少年、アルスだったか、アルスの魂が持っているから、俺は体を動かすことが出来ない。
というのはどうだろうか。
うん、なんとなく辻褄が合う気がする。
『といっても、このままアルスの人生を見ているだけって言うのもな~』
話すことが出来ないと解っていても、ついぼやいてしまう。
『うん?』
なにか左上に小さな絵が浮かんでいるのが見える。
3人の人影がまとまっていて、まるでアイコンのようだ。
『これって、まさかゲームによくあるパーティのアイコンかな?』
指でタップすればって…… はぁ、今の俺には動かすことが出来る指が無い……
『お、ツンって感じで意識したら下に字が出てきた』
[アルサス(※サイアス)]
これはキャラクター名かな。
『あー、アルスの本名はアルサスなのか』
で、隣のサイアスって何んなんだろう?
まぁいいか、[アルサス]をツン。
『おー、ステータスウィンドウきたー』
名前:アルサス(※サイアス)
LV:2
種族:人間
性別:男
クラス:村人
『はぁー、LV2で村人かー弱いなー。いや、これから強くなればいいんだ。うん、きっとそうだ』
次はステータスだな、筋力、知力、敏捷、器用の横には数字が並んでいる。
筋力が一番高く、他のステータスも二桁ある。
基準が判らないので、高いとも低いとも言えない。
あれ?HPは2桁だけど、MPは3桁もある。
これは将来有望そうだ。といっても魔法が使えればの話だけど……
よし気を取り直して
『お待たせしました~。次はいよいよスキルです~。ジャン』
ソード(剣):LV1
アックス(斧):LV1
ボウ(弓):LV2
精霊魔法(火):LV0
『おー、村人だから期待していなかったけど、思っていたよりやるようだ。しかも火の精霊魔法って!』
……
『LV0だけど……』
あ、これはもしかして憧れのマジックナイト(魔法騎士)になれるチャンスかもしれないな。
鎧に身を包み剣と魔法で戦うなんて考えただけでしびれるじゃないか。
俺はいつもMMOをやるときは、強くかっこいい魔法が使える騎士とか戦士を目指していた。
でも大抵のゲームではマジックナイトになれなかったり、なれたとしても中途半端で器用貧乏で使えないって言われる不遇職だった。
俺からすればSTR極フリとかINT極フリの方が、よっぽど人間としてどうかとも思うのだが……
まぁそれはさておき。
あとは謎のスキル、
※神眼:LV1
※霊体:LV1
神眼と霊体というのは、いかにも怪しい。
特別感はあるのだけれども、効果や使い方が不明すぎる。
頭に※が付いているけど、もしかしてこれは!
『あの巷で有名なユニークスキルってやつですか!?先生!!』
ふぅーー、少し熱くなりすぎてしまった。
先生って誰だよ。
それにしてもLV0っていうのが良くわからないが、魔法があるということは、この世界はファンタジーで確定のようだ。
なんか、やる気が出てきたぞ~~。
せっかくファンタジー世界に来たんだから、俺は念願のマジックナイトになることを心に誓った。
まぁ、まだ魂だけの存在なんだけどね……
お、なんだこれ。
ステータスウィンドウの下側に本のアイコンがある。
ツンと。
俺はためらうことなく、本のアイコンを選択した。
『うん?』
ずらずらっとリストが表示された。
もしかしてこれはストーリー回想かな?
まぁ、アルスが起きるまで暇そうだし、上から順に見ていくことにする。
ツンと。
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