第5話

家を出るつもりで貯めたお金で備蓄品を購入することになるとは思いもしなかった。学校も会社も通えなくなるとは予想していた。しかし、そのことが家族には伝わらなかったため、異様な行動に写っていたかもしれない。


政府から突然の休校要請があった。この休校要請は妥当な対策だが、ウイルスへの科学的危険も説明されずに対策を取っている格好を取りたいだけのものに思えてしかたなかった。


休校になり、暇を持て余した妹は案の定、友達とお花見に出かけて行った。この非常時に花見なんてしていたら注意されるかも知れない、そしたら帰るんだよと伝えたが、妹の言い分はこうだった。学校が休みになり卒業式もできるかわからない。暇で何もすることもないからだと。


止めることは出来ないが注意するようにだけ伝えたが、それも伝わらなかった。


今年は花見を自粛するよう要請があった。花見の開催地で有名な公園は人が入らないよう封鎖されたりした。しかし、小さな公園ではレジャーシートを敷いてお花見を楽しむ人の姿も見られた。


自粛とは強制ではないからそのこと自体は否定できないが、この非常時にお花見をして楽しめるのだろうかと疑問に思った。


街にも人が多く出ており、危機感を持って行動していた自分が滑稽に思えた。


思ったより大丈夫なのかも知れない。今度はそう思い始めた。その矢先、中国のトイレットペーパー工場が停止したとのデマが流れ、一気に買い占めが起こった。


オイルショックを経験した人がトイレットペーパーの買い占めを事前に警告していた。その通りになった。今まで店舗に山のように積まれていたトイレットペーパーが消えた。私は近所の世話になってるお年寄りにトイレットペーパーを譲った。そのための備蓄でもあったのだ。


買い物をするために人が密集すること自体が危険だったため、事前に買っておいたのは正解だった。買い占めが起こってから買い物をせずに済んだ。


しかし、次第に新型ウイルスよりもマスコミの傾向報道や政府の対策が我々国民の生活を危険に陥れようとしていたことに気づき始めた。


ウイルスは対策を取れば防げるが、政府の対策で経済破綻を起こせば誰もそれを防げない。明日の食を自分の手で作り出さなくてはならなくなる。お金で食材を購入できないくなる状況が訪れようとしていた。手元にある紙幣も通帳の預金もただの紙くずになってしまう。


そんな時に政府から送られてきたのは布製の怪しいマスクが二枚だ。一枚あたり製作費が200円かかり、総費用は466億円になるとの発表があった。どう考えても200円もかけて作られたマスクとは思えない。差額を計算しても半分以上の金額が役人のポケットに入れられているとしか考えられなかった。


総理は歳費を返上して仕事をしていると発表したが、彼らの収入などこのようにしていくらでも作り出せる。


許しがたい事態だった。


マスクは内閣府の住所と氏名、受取拒絶の理由を書いてポストに投函した。そして首相官邸へ抗議文を送った。


この事態に自粛を要請し、圧力を行使して強制力を持って店を閉めさせ、生活を奪い、マスク二枚とは何事だ!


怒りを抑える方法はなどと言われるが、権利を脅かされて怒りを覚えることはむしろ健康的だと思う。


今や自粛が人を攻撃するための手段として用いられている。それは政府がそのように行っているからだ。自粛を呼びかけする側は痛くも痒くもない。生活を保証されている。しかし、一般市民はそうではない。経営の自粛とは生活と引き換えにするものだ。そんなことも考えられない政府に怒りを覚えるのは当然だろう。


そんな苦しい状況から、私は自粛していて苦しんでいるのに、自粛しないお前は何様だと国民同士で叩き合っている始末。


この責任、政府はどう取るのだろうか。


国民はこのことを決して忘れてはいけない。決して許してはいけない。愚劣極まるこの邪悪な政府に対抗してできることをなんでも実際にするべきだと思い、呼びかけを始めた。


奇異な目で見られることはわかっていても、できることはやる。そう示すためにも自分から行動する。そのような人が増えていけばきっと世界は変わる。


決してちっぽけな存在などいない。誰の力も大きな影響力を持っている。その力の使い方を考えて選択しなくてはいけない。ウイルスは一気に訪れようとしている劇的な変化のまだまだ序の口だった。これからもっと大変な目に合うかも知れないということに気づいている人はこの時まだ少なかった。


何が起ころうとしているのか、自分の目で確かめて欲しい。

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