海の向こうには

蒼狗

少年は釣り糸を垂らす

 少年が釣りを終えて帰ろうとしたときだった。朝方仕掛けた網に黒い何かが引っかかって見えたのだ。

 このままだとせっかくの仕掛けが台無しになってしまう。

 少年は急いで降りていく。すると黒い物の正体がわかった。

 黒い鞄だ。それもかなりの大荷物が入りそうな背負う鞄。小さな荷物入れしか持っていなかった少年は心が躍った。鞄もそうだがもしかしたら中身が入っているかもしれない。

 釣った魚が入ったぼろぼろのバケツをその場に置き、手にした釣り竿の針を投げた。鞄のしたに入ったのを見て、勢いよく釣り竿を上げた。

 途端に少年の顔から笑顔は消えた。明らかに手応えが軽かったのだ。

 釣り竿がしなる。だが釣り上げた鞄はぺちゃんこに潰れて水が滴るだけだ。

 試しに鞄を開いてみるが、案の定中身は空っぽだった。

 少年は落胆し、その場にへたり込んだ。

 だが、夕日に反射し、鞄の中に光る物があるのを見つけた。

 好奇心に駆られた少年はそれを手にとる。

 たった一枚の硬貨。

 少年はそれを手にとり物珍しげに見る。

 そして海に向かって投げた。

 硬貨は弧を描き、軽い音と共に海へ入った。

 すでに滅んでしまった国の硬貨はゆっくりと沈んでいく。




 視線のその向こう。海を越えた大陸には人はいない。

 少年は今日も一人きりのその島で、まだ見ぬ人間の姿を思い描きながら釣り糸を垂らす。

 空っぽのバックパックを背負いながら。

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海の向こうには 蒼狗 @terminarxxxx

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