昨日日記を書けなかった、あんまり欠かしたことがないので地味にショック。

 昨日日記を書けなかった、あんまり欠かしたことがないので地味にショック。

 なんでかっていうと、キサラギなんと昨日丸一日寝てたっぽい。

 いつもの時間に目覚ましで目が覚めて、よく寝たなあと伸びをした。

 隣の布団で同様に目覚めた同居人が寝ぼけ眼で「お前やっと起きたのか」って言ってきやがったから、お前だって今起きたばっかりだろって言ったら、無言で同居人の端末見せられた。

 映し出された日付をぼんやり見て、やっと日付が1日飛んでいることに気付いた。

 一気に目が覚めた、何事かと思った。

 同居人に話を聞いてみると、昨日何しても起きなかったからそのまま放置してた、って。

 完全に疲労のせいなのでおそらく大丈夫だろうって思われてたっぽい、今日起きなかったら流石に診てもらうつもりだったらしいけど。

 身体の調子はどうだと聞かれたので、特に問題はないと答えた、丸一日寝てたお陰なのか疲労はほぼ消えてたっぽい。

 あれだけ使った魔力も5〜7割程度は戻ったげだったし。

 起きた後は朝ごはん食べてその他支度を済ませて、昨日……じゃなくて一昨日に関する日記を書き始めることにする。

 一昨日、日記を書き終えて少しした頃に大家さんが同居人を客室に連れてきたんだよね。

 同居人、なんかものすごく焦ってたしめちゃくちゃ心配してたっぽい、これはキサラギが全面的に悪いので本気で謝っておいた。

 これに関しては、キサラギが悪かったと思ってる、本当に心の底から。

 だってうっかり空間の穴に落ちるって……うまいこと転移できたからよかったものの、一歩間違えば死んでたし、あれ。

 同居人はキサラギの顔見てあからさまにホッとした、直後にフラフラ近づいてきて、両肩を掴んできたと思ったらめちゃくちゃ揺さぶられた。

 お前は、何をしている、って言われた、すっごく疲れた声だった。

 その後数秒抱きしめられてた。

 しばらくして離されて、帰るぞって言われたので頷いた。

 それで二人しておさわがせして申し訳ないと大家さんに頭下げて帰ろうとしたんだけど、その前に一回ちゃんと話しとけって二人まとめて火龍の部屋に押し込められた。

 檻の中の火龍が同居人の姿を確認して一瞬嬉しそうな顔したけど、すぐさま気まずそうな感じになった。

 同居人も火龍見て複雑そうな顔してた。

 大家さんが部屋の中になんか投げて寄越してきたからなんだろうと思って手に取ってみたら檻の鍵だった。

 鍵を開けて戸を開くと火龍がおずおずとした感じに出てきた。

 そろーって同居人の方に飛んでったんだけど、妙に覚悟決めたような顔を一瞬した同居人にしっしって追い払われた。

 火龍、ショックを受けたような顔で硬直、そりゃそうだ。

 可哀想だからやめたげてってキサラギが言ったら、ここに置いて行くつもりなのに甘やかす方がかえってダメだろうって。

 ……そりゃあそうなのかもしれないけど、多少は融通きかせてもいいんじゃないかってキサラギは思った。

 固まったまま動かない火龍に、キサラギがおいでおいでって手招きしたら無視された……と思ったらなんでか近寄ってきた。

 それでそのまま手に巻きついてきた……ちょっと嫌そうな顔してたけど。

 同居人にお前なんでそんな懐かれてんだって首傾げられた、キサラギだって意味不明だった。

 意味不明だったけど嬉しかったのでとりあえず頭を撫でてみた。

 そしたら嫌そうに顔背けられたから一旦やめた。

 一体なんなんだろって首傾げてたら、火龍がぴーぴー鳴きながら何かを訴えるようにキサラギの手の甲を尾の方でペシペシ叩いてきた。

 しばらくわかんなかったんだけど、少し考えてひょっとして契約のことなんじゃなかろうかって思い立った。

 ひょっとして契約のこと? キサラギとするの? って聞いたら火龍は元気よくとても嫌そうな顔で頭を縦に振った。

 ちょっと面食らった、決断早くない?

 けど同居人の方がキサラギよりもよほど面食らってた、どういうことだって摑みかかられた。

 なのでキサラギが火龍にした提案を軽く説明した。

 今すぐに決めなくていいから少し考えておいてほしいって言ったんだけど、なんかもう覚悟決めちゃったみたいだねって言ったらお前は馬鹿かって怒られた。

 そこまで怒らなくてもよくないって言ったら、感応現象起こったらどうするつもりだって言われてハッとした。

 そうだったすっかり忘れてた、キサラギが火龍の記憶見ても別になんもないけど、火龍がキサラギの記憶を見てしまったら大変だ。

 こんなちっちゃな子にあんなのを見せるわけにはいかない。

 火龍がよくわからなそうな顔してたので、人間と精霊が契約する時に、契約者の記憶を夢で目の当たりにしてしまう感応現象というものが起こることがあるということ、キサラギは昔やばい目にあったことがあるので、その時の記憶が火龍に流れ込んでしまう可能性が高いということを説明した。

 ついでにその夢を見ている時、契約している者達はどちらも同じ夢を見る、というのもあるんだけど、それは余計な情報だったので黙っておいた。

 けど多分同居人が危惧してたのはこっちの方だったんだろうな、今思うと。

 火龍がキサラギの過去を夢に見れば、キサラギも同じ夢を見る。

 悪夢を見てキサラギがまた泣くと思ったんだろう。

 キサラギが同居人と一部の生物以外の何者かがいるところで喋れないのはその辺りのトラウマが原因であるということも言っておいた。

 どれだけやばいかっていうと、口で説明するのもあれだしなあと……新川メイの妹でまだあの動画出てくるのかなって何気なく言ったら同居人に顔を思いっきりはたかれた。

 めちゃくちゃ痛かった。

 でもすぐに謝っておいた、流石に失言にもほどがある。

 よく考えなくても、あれは多分同居人の最大のトラウマだ。

 好きだとか惚れてるとかいう妄言を本気で言った後にあんなものを見せられたのだから、無理もない。

 すぐに謝りはしたんだけど、同居人はそれはもうひどい顔でキサラギを睨んだままだった。

 だから火龍に、こいつがこんな顔をするくらいのやばい目にあったことがあるんだ、って言っておいた。

 それで結局どうしようかと、話は振り出しに戻った。

 別に今すぐ決めなくたっていいけど、キサラギと契約するのはやめといた方がいいねって火龍に言うと、若干不満そうだった。

 やっぱ本当はこいつと契約したいよね、ってまだキサラギを睨んでる同居人を指差しながら言うと、火龍は大きくゆっくり首を縦に振った。

 そういうわけだけど、本当のところどう思ってるのって聞いたら、同居人はそいつと契約する気はないって。

 どうして、って聞いたら、お前に傷を負わせる原因をこれ以上背負いこみたくない、って。

 ……こういう時はキサラギと違って正直だよねえ、嘘でも火龍が嫌いだからって言えばいいのに。

 じゃあ、キサラギがいなけりゃ契約してもいいってわけだ、って言ったら、同居人はすごい力でキサラギの手首を掴んできた。

 大丈夫だよ、どこにもいかないし死なないよって言ったら少しだけ安心したような顔をした。

 絶対そうなると思ったから、キサラギは人質として狙われてるって知った時に同居人に気付かれないように隠したんだって続けて言った。

 お前がキサラギのせいで何かを躊躇いなく切り捨てようとするのなら、この先もそれを続ける気ならキサラギは何を言われてもお前側に何か原因がある厄介ごとが起こってもお前にはそれを隠す、今度こそ隠し通すって言ったら、同居人は一瞬変な顔して呆れたような表情になった。

 その後はうだうだといろんなことを言い合った、ぶっちゃけ堂々巡りだから割愛する。

 それで最終的にキサラギが喧嘩腰で、そんなにキサラギが頼りなく見えるんならいっそ今から物理的に喧嘩してお前をボッコボコに負かしてやろうか、今すぐ表に出ろ最後まで立ってた方が勝ちだ勝った方が負けた方のいうことを聞けばいいって言ったんだ。

 そしたらあの野郎……ああ今思い出しても腹が立ってきた。

 勝敗がわかりきっている勝負を受けるわけがないだろうって同居人は呆れ顔で言ってきた。

 おやまあ随分自信あるねえっていったら、あのクソ野郎。

 俺が絶対に勝てるわけねえだろうって言ってきやがった、俺がお前を傷付けられるわけがないだろうって。

 だいぶ馬鹿にされていると受け取った、ふざけてんのかこいつって思った。

 だから勝利条件を変えてやった、キサラギか同居人のうちどちらか一方でも自力で立っていられなくなったらキサラギの勝ち、その前にキサラギを同居人が止められたら同居人の勝ち。

 そう言いきった直後に杖を取り出す、さあさあさっさと止めないとキサラギが魔力切れでご臨終するかもよって脅し文句も言ってやった。

 結界その他を適度に調整して同居人を部屋の外に引っ張り出して(この時点で火龍は部屋に置き去りにした)、何事かと様子を見に来た大家さんに「今からこの馬鹿と喧嘩するので庭を貸してください」って言ったら、大家さんは何故か今まで見た事がないくらい驚いた顔でこちらを見て、無言で首を縦に振った。

 …………いや、何故かじゃねーよ、今更気付いたけどキサラギ喋ってんじゃん……そりゃ驚くわ、っていうかなんで今この瞬間まで気付かなかったんだろ。

 ……多分、次会った時は喋れないんだろうな、あれはもう感情が爆発してたからたまたま喋れただけなんだろう。

 ぎゃーぎゃー騒いでる同居人を庭まで引っ張りだして、放り出した直後に攻撃を仕掛けた。

 同居人は狼狽えつつも普通に避けた、体力瞬発力その他いろいろのスペックでキサラギが負けてるのは知ってたので特に気にはしないし当然の反応だと思った。

 でも当然こっちにも勝るものはあるわけで……魔力とか、術の精度とか、隠し持ってる霊装の数とか。

 それに奴は基本的に火属性に偏りがちだ、全体的に満遍なく色々習得しているキサラギなら奴の弱点もつきやすい。

 だからひとまずは奴の弱点である水で攻めて攻めて攻めまくった。

 同居人が攻撃する暇も与えなかった、与えていたところで奴はキサラギに攻撃しなかっただろうけど。

 でも奴がキサラギを止めるために何らかのアクションを起こす暇を奪ったのは結構いい策ではあったと思う。

 派手に水の術をぶちかましつつ、こっそりと茨姫初号機&2号機を同居人の背後に回らせて、イバラを模した電撃で奴を拘束させて動きを止めた。

 同居人はこの時はキサラギの猛攻に何とか耐えていた(というかなんとか無傷でいた)んだけど、流石に耐えきれずに膝をついた。

 捕らえた直後にトドメ用にこっそりと術式組み立ててたヤマタノオロチを発動させた。

 例の水と毒と闇の蛇型の攻撃術式、本当は人間相手に使うような術じゃないんだけど……同居人ならまあ大丈夫だろうと。

 毒と闇は弱めて気絶程度で済むようには調節しといたし。

 術を発動した瞬間に同居人の顔が思いっきり強張る、これは勝てると確信したその時だった。

 火龍がキサラギと同居人の間に割って入って来た。

 部屋に置いてきたのに、いつから庭まで出てきていたのやら。

 全力でそらした、何もしなければ直撃コースだったし、あんなちっこい身体であの一撃をまともに受けていたら……考えたくもない。

 全力でそらしたおかげで火龍は無事だった、若干余波食らってたみたいだけど、怪我はなかった。

 それにほっと息を吐きつつ、疲労でふらつく身体を杖で支えた。

 元々ヤマタノオロチは大掛かりな術なのに、全力でそらしたせいで魔力がごっそり持っていかれてたんだよね。

 それでもまだ持ち堪えた、気絶してもよかったけど、キサラギの勝利は同居人の戦闘不能という完膚なきまでの完璧なものにしたかったから。

 ……けどまあ、同居人がそんな隙を見逃すわけがなかった。

 火龍の無事を確認して、杖で身体を支えたところでいつの間にか背後に回られていて取り押さえられた。

 茨姫達の拘束もいつの間にか振り払われていた。

 これで終いだって後ろから聞こえて来た、キサラギはずるいって言った。

 だって、本当にずるいと思う。

 ずるいずるいずるい、今のは反則だ、無効試合だ、やり直しを要求する、もう一回だ今度はぶちのめすって言ったら往生際が悪いって頭はたかれた、理不尽。

 火龍にも頭をベチベチ尾で叩かれた。

 その後、大家さんからも勝負あったと言われてしまったので仕方なく諦めたけど……やっぱりあの終わり方はずるくない???

 その後水でぐっちゃぐちゃになってしまった庭をなんとか修復して(大家さんは別にいいって言ってたけど直した)、流石に倒れるかもなあって思ってたら同居人に横抱きにされた。

 下ろせ歩けるって言ったけど、倒れられて怪我される方が面倒だから大人しくしてろって。

 その時になって同居人の右手に赤い紋様が浮かんでいることに気付いた、契約印だった。

 それどうしたって聞いたら、俺が何かを切り捨てるたびにお前がここまで暴走するなら、一度くらいは切り捨てなかった例を作っておけば多少はおとなしくなるだろう、って。

 キサラギが庭を修復してる間に契約してたっぽい。

 そう、って答えた覚えはあるんだけど、そこから先は実はよく覚えてない。

 魔力切れで限界が近かったから意識が朦朧としてたんだよね。

 その後は記憶が飛んで、同居人に布団に寝かせられたのをなんとなく思い出せたんだけど……それ以外は何にも思い出せない。

 多分そのまま寝て、今日の朝まで目が覚めなかったんだと思う。

 ……随分長くなってしまった、一旦切り上げよう。


 夜になったので、今日1日の流れをざっと記す。

 一昨日分の日記を書きあげた頃には昼食の時間になっていたので、準備を始めることにした。

 今日は何を言われても卵かけご飯を食べるんだと冷凍庫からご飯を取り出してレンジでチンした。

 卵かけご飯は美味しかった、同居人も卵かけご飯を食べてた、火龍は一個だけ余ってた温泉卵を食べてた。

 その後はずっとダラダラしてた、ダラダラしつつ在庫の確認とかもしたけど、まだ大丈夫そうだったので放置した。

 あっという間に夕方になった、夕ご飯は何にしようかと考えて冷蔵庫を見てみたらカレーの材料があったのでカレーを作ろうとしたら同居人に台所から追い出された。

 仕方ないと部屋の隅で丸まって端末見てたら背中を蹴られたので起き上がると、白米と肉じゃがが二人と一匹分テーブルに並んでた。

 キサラギはカレー作ろうと思ってたのに、って言ったら、そんなの知るか大人しく食えって言われた。

 肉じゃがは憎らしいほど美味しかった。

 その後は後片付けを無理矢理手伝って、風呂に入って雑用して今に至る。

 もうそろそろ寝ようと思う。

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