今日は少し雲が多い。

 今日は少し雲が多い。

 昨日みたいに晴れてたらもう一回布団を干そうと思っていたのだけど、やめておく事にした。

 今日は同居人が休みの日なので、キサラギも合わせて休む事にした。

 切羽詰まった仕事もないし。

 キサラギは昨日腕輪の重石に使った古本を読んでいた、同居人が何をしていたのかは気にしていなかったから知らない。

 ただ、静かだったから多分寝てたんだと思う。

 特に会話もなく午前が終わって、昼ご飯に冷凍ピラフでも食べようかと思ったら、急に出かける準備をしろって。

 何故かと聞くと、昼飯奢れって、昨日カレー食わせてやっただろうって。

 にやにや笑ってた、うん知ってたそんなこったろうって。

 でも昨日助かったのは事実なので奢る事にした、何を食べたいんだと聞いてみたら近所のうどん屋でいいって。

 近所のうどん屋といえば、美味しいけどちょっとお高いあのうどん屋である。

 それでも目が飛び出るほど高いというわけではないので首を縦に振った。

 その後は出かける準備をしてうどん屋に行った。

 うどん屋は少し混んでいたけど、タイミングが良かったのかすぐに席に通された。

 同居人はいろんな天ぷらが乗った一番高いうどんを、キサラギは月見うどんを注文した。

 キサラギのが先に来たから待ってようと思ってたけど、伸びる前に食えって言われたので食べる事にした。

 いつも通りコシのある麺と出汁のきいた汁が素晴らしいうどんだった、あと卵もいいやつ使ってるみたいで、シンプルだけど、だからこそ美味しさが引き立つというか……

 食べてる途中で同居人のうどんも来た、どういう風の吹き回しだったのか何故かいも天を押し付けられた。

 さっくりしていてお芋も甘くて美味しかった。

 うどんを食べ終わったあと、出掛けたついでに食材その他を買いに行くから先に帰っていてほしいと伝えたら、自分もそうするつもりだったと言われたので一緒に行く事になった。

 スーパーで色々買い込んだ帰り道でお隣さんに遭遇した。

 だけど何か様子がおかしい、と思ったら、なんかでっかい……犬なのか狼なのかよくわからない生物と対峙していた。

 真昼間の町中、道のど真ん中で、である。

 この辺りは確かに人通りはやや少ないとはいえ、近所に世界的な観光地があり、それなりに人が住んでいるというのに、なんだってあんなのがわいたんだろか?

 同居人の狩場も近いから、たまにそっちから変なのが町中に流れてくることもあるっちゃあるけど。

 わけがわかららないで困惑している間に同居人が戦闘態勢を取りつつお隣さんに話しかけた。

 事情を聞いてみると、帚星荘に帰る道中で唐突に現れて立ち塞がれてしまったらしい。

 リードどころか首輪もしていないので、同居人の狩場あたりから流れて来た野犬(というか狼?)かもしれないって言ってた。

 謎の犬科の生物は牙を剥き出しながが「ぐるるるる」とお隣さんを睨んでいた。

 その時、その犬科の生物の足から赤いものが流れている事に気付いた。

 同居人の袖を引っ張ってそのことを伝えようとしたら、その前に何かを考え込んでいた同居人が「そいつひょっとしたら人狼かもしんね」って。

 あとで聞いてみたら、野犬や狼、魔物の類にしては気配が大人しかったらしい。

 あとなんか昔の知り合いに少し似てたらしい。

 人狼かあ、そういう生物がいるのは知っていたけど実物を見るのは初めてだなあって思っていたら、お隣さんが二、三歩ふらりと後ろに引き下がってこう叫んだ。

 「じ、人狼!!? 人狼って人と狼を……つまりと犬科を掛け合わせたあのおぞましい生物ですか!? 嫌いと嫌いのコラボレーションじゃないですか!!」

 お隣さんが人間嫌いなのはなんとなく知ってたけど、犬科嫌いなのは知らなかった。

 キサラギも実は大きいのはちょっと怖い、小型犬は平気、ポメとかトイプーは可愛いと思う。

 ちなみにお隣さん、犬科でもポメと狸は平気なんだって。

 嫌悪を剥き出しにして人狼らしきものを睨むお隣さんに同居人が「おー? つまりめちゃくちゃ嫌いな生物ってこと?」って聞いた。

 お隣さんはこう答えた。

 「そういうことになりますね。見た目が犬科で人間みたいに話すとか、最悪です。この世に存在する生物の中でも一番嫌いかもしれません……ゴキブリの方がまだマシです」

 ゴキブリと比べるほど嫌いなのかとやや引いてしまった、その後もお隣さんは人狼という生物がどれだけ嫌いなのかを語った。

 なんか色々言ってた、人狼に触られるくらいなら喜んでムカデを素麺みたいに食べるとか言っていた、うっかり想像してしまって気持ち悪くなった。

 そんな感じのをいくつか言った後、お隣さんは改めるように咳払いをしたあとで「と、いうわけでさっさととっちめてしまいましょう。速攻でこの町から追い出すのです」と言った。

 確かにそうするのが正しいのだろう、たとえ悪い者ではなかったのだとしても、日中の町中を狼の姿でうろついている挙句、見た目はか弱き手弱女であるお隣さんに牙を向けているのだから。

 それにこの辺、そんなに多くはないけどちびっことかも普通にいるの、危ないよね。

 追っ払うのはキサラギも賛成だったので、左手の腕輪を開こうとしたら、妙なものに気付いた。

 お隣さんと同居人もほぼ同時に気付いたようだった。

 同居人と一度目を合わせてからもう一度人狼らしきものを見る。

 心なしか、というか絶対にしょんぼりしていた、滅茶苦茶に落ち込んでいるっぽかった。

 どういうことだ気のせいだろうかとキサラギとお隣さんが首を傾げていたら、同居人が「そりゃあ頭は人間並みだろうから、こうも全否定されると流石に落ち込むんじゃねーの?」って。

 そういえば人狼って一応人間にカテゴライズされるんだった。

 扱いとしては『狼に変身できるヒト』で、生まれさえちゃんとしてれば普通に人権がある『人間』なんだっけ?

 地元には亜人ってあんまりいなかったからそこんところは実はよく知らないんだけどね。

 でもまあ確かに人並みの知能があるのなら落ち込むかもしれない、お隣さんみたいな華奢な美女からあんなこと言われたら……ねえ?

 キサラギが同じことを言われたらさすがに落ち込む。

 キサラギは穢いからそう言われてもそれが普通なんだろうけど、面と向かって言われたらさすがに心が痛い。

 お隣さんは少しだけ考え込んだけど、それでも容赦なく錘をぶつけようとした。

 そしたら人狼らしきものは尻尾巻いて逃げてった。

 追いかけるかどうか迷ったけれど、面倒ごとになったら嫌だと全員で結論付けて、皆で帚星荘に帰った。

 なんとなく理性は残ってる(あるいはお隣さんの罵倒で戻った?)っぽいのでよほどのことがない限り人は襲わないと思うし、襲ったなら襲ったで駆除されればいいと思う。

 キサラギ達もだけど、帚星荘の住民は基本的に自分さえ良ければあとはどうでもいい、人としてどうかと思う人間が多いのである。

 多分あれ、追っかけてとっ捕まえて正しい機関に送りつけるのが人として正解なんだよなあ……

 でもまあどうでもいいや、あの後人狼らしきものに人が襲われたというニュースも流れてこなかったし、何事もなかったんだろう。

 帚星荘に帰った後はいつも通りだらだら過ごして、夕ご飯を食べた。

 キサラギはオムライスを作ったのだけど、盛大に失敗して卵がボロボロになってしまった、同居人に超笑われた。

 同居人は豚の生姜焼きを食べていた、普通に美味しそうだった。

 ……同居人、なんであんなに料理できるんだろ、そういうの滅茶苦茶に面倒臭がりそうなのに。

 味付けとかも普通にうまいんだよなあ、なんか適当に調味料ブチ込みそうな性格してるのに。

 まあ詮索はしない、あの性格だから趣味とかじゃなくて必要に迫られてああなったんだろうし。

 ご飯食べた後は後片付けして風呂に入って、今から寝る。

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