あの夏の暑さが忘れられない
ひなた
第0話 孤独
7月17日、金曜日。
◯△高校2年3組のメンバーは夏休み前最後のホームルームを終え、色めき立っていた。
「今日で学校終わりー!明日からは勉強しなくて済むぞ!」
「バーカ、お前はいつも授業中寝てるし、提出物だっていつも俺のを写しているじゃねーか。どの口が勉強しなくても済むなんて言ってやがる。」
「明日プール行こうぜ、プール!」
「馬鹿野郎、夏といえば海だろう。俺、今年こそはボンキュッボンのお姉ちゃんを捕まえるんだ。」
「明日は●●駅の近くに新しくできたカフェでみんなでお茶しない?」
「いいねー!いいねー!私さんせーい。」
「私も私も!」
クラスメート達は皆楽しげな笑みを浮かべながら、これからの予定について口々に話し合っている。
夏休みを明日に控え、放課後の教室は賑やかな雰囲気に包まれていた。
そんな中に浮かない顔が1人。
実に好い気なものだ。
私こと日向沙耶華はそんな光景を冷めた目で見つめながら、机の横にぶら下がっている手提げ袋に教科書や筆記用具を乱暴に詰めていた。
私は思う。
本当に世の中は不公平だ。
私は心が擦り切れるような思いを抱えて生きているのに対して、あいつらは皆今が楽しくてしょうがないといった風貌だ。
あいつらの不幸が全部私に流れ込んできたのではないだろうか。
そうして私1人が苦しむことで、周りの幸福は保たれているように思える。
最大多数の最大幸福とかいう傍迷惑な考えを提唱した哲学者は地獄に落ちればいいと思う。
腹の底の方から喉元にかけて不快感がこみ上げて来る。そんな不快感を断ち切るように奥歯をぎりりと噛みしめた。鈍い痛みが頬を伝う。
私は遣る瀬無い怒りの感情のまま、乱雑に椅子を後ろに引いて、立ち上がる。
しかし運の悪いことに、手提げ袋の口が机の角に引っかかり、ガタッという音と共に、せっかく詰めた教科書や筆記用具が教室の床に四散する。
思わず舌打ちが溢れる。
教室が一瞬静寂に包まれ、何人かが私をちらと横目で見る。
だがすぐに何事もなかったかのように賑やかに話し始める。
私は散らばった荷物を手提げ袋に黙々と詰める。
誰1人として私を手伝うものなどいない。
それどころか、まるで私のいる所にだけぽっかりと穴が空いているかのように、半径2メートル以内に近づいてくる人間は誰もいない。
周りは騒がしいはずなのに、まるで太平洋の真ん中をぽつんと1人遭難している気分である。
唐突に肺に空気がなくなったかのような息苦しさを覚える。
そんな感情を外に排出するように、短く息を吐く。
大丈夫、今までずっとずっと独りだったじゃないか。
自分に強く言い聞かせた。
砕けた心はもう繋ぎ合わさることはない。
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