泡沫の恋

人鳥パンダ

遣らずの雨

「全部あげるよ」

 君がそう言うから、思わず全部貰ってしまったチョコレート。

 本当はクラスメイトの全員にあげるつもりだったらしい。けれど、その望みは叶わなかった。

 僕は家に帰って、チョコレートの個装を一つ開けてみた。中にはチョコレートともう一つ。

 "遺書"と書かれた紙が入っていた。

 僕は慌ててその紙を開き、読んだ。

「あなたのせいでは無いけれど、あなたしか居なかった。これは君への遺書。」

 と、最後に僕の名前が書かれていた。

 僕は気付いたら走り出していた。彼女のもとへ。

 彼女の家に行ったが、まだ帰っていないらしい。

 僕は学校へと向かった。階段を駆け上り、屋上に辿り着く。

「来てくれたんだ。」

 と、彼女は言った。

「君は死ぬの?」

「死のうと思ってるよ。」

 彼女は淡々と答える。

「どうして?君は僕に数学を教えてくれたじゃないか。僕は感謝しているんだよ。」

 何も思いつかなかった僕は、僕なりの説得をする。

「ふふふ。笑わせないでよ。笑っちゃうと、死にたくなくなるでしょ?」

 笑みを浮かべた彼女の目には、涙が浮かんでいた。

「私はもうこの人生に何も期待していないから。君にとって、私の何か一つでも残ってくれてたら。嬉しいよ。」

 彼女は消えた。

 僕に残っているものを、持っていってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泡沫の恋 人鳥パンダ @kazukaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ