10にゃす「道案内と思い出」
とても気持ちがいい天気の中、顔はできるだけ前に固定し、目を最大限きょろきょろさせながら実家に向かって歩き始めた。
さっきまで隣にいたにゃすの姿がまったく見えない。ぽてっとした体がどこかの影からはみ出てもよさそうなのに。
それにしても久しぶりに歩いて帰る。いつも面倒なのでバスに乗ってしまうため中学生ぶりかもしれない。
公園の西側の出口からまっすぐ続く道を歩くと、少し小高い丘が見えてきた。
丘を登り切り振り返ると、あそこで転けてたな、と思い出した。
小学生の時、この丘を自転車でよく駆け下りた。とある日、友達の一人がノーブレーキで丘を駆け下りてから、いつの間にか近所の小学生たちの中でスリリングでかっこいい遊びになった。とある日、三人で駆け下り、一人が盛大に転けた。その子はこの世の終わりぐらい泣き、大急ぎでその子の親に知らせに行って、そのまま病院に運ばれた。その後、三人で親にも学校の先生にも怒られた。
そんな思い出が蘇ったと同時に二人は元気かな、とふと思った。
今ならそんなバカなことはしないし、ノーブレーキでこの丘を駆け下りるなんて怖くて出来ない。二人にも当時の話を聞いて見たくなった。
体に染み付いた道のりを歩き、角を1回を曲がった。2回目を曲がった通りには、建て売りの似たような家が立ち並び、その中の一つに実家はあった。
住所を頼りにしないにゃすたちには見分けが難しいのがよくわかる。
長年雨に打たれ、塗装がはげた門には、中学生時代に技術の授業で作った‘welcome’と書かれた木製のドアプレートがかけられている。立体的に貼り付けられた文字のlとcとmは失われ、接着剤の後が残っているおかげで文字が読める。
特に道案内をしている感じはなくたどり着いたが、にゃすはどこに、や、そろそろ現れる気がする。
「ここ、たみこのいえ、にゃす?」
「そうみたいにゃす、おぼえたにゃす?」
「がんばる、にゃす」
右には先ほど会った茶色とクリーム色のにゃす、左には初めて会うにゃすがいた。
口の周りと目の間、お腹から前足にかけては白く、そのほかは薄いグレーに濃いグレーの縞が入っていた。ちょっと目が離れているのが特徴で、口が少し空いている。キョロリとわたしを見つめる顔に、鼓動が早まる。
気配が少し読めるスキルを習得したかもしれない。
「うん、インターフォン押すよ?」
と、実家なのにインターフォンを押す確認をした。普段なら、そのままキーケースに入れている実家の鍵を使って入っていくところだ。だが案内している手前、聞くことにしようと考えていたのだ。
「にゃー?にゃーにおさせて、ほしいにゃー」
右のにゃすがのんびりと返事をした。左のにゃすは荷物を大事に抱えてまたキョロリとわたしを見つめた。
トコトコと玄関扉の右側、わたしの胸元あたりの高さのインターフォンに近づいて、一生懸命ボタンを押した。
ボタンを押す手が、手が!、手が!!とニヤつく口元に急いで手を当てた。
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