優しい手
病室の窓からは
並木道を黄金色に
美しく染めているのが見える
それを見つめている父の横顔が
とても柔らかな表情で
わたしは別れの予感に
頼りなく泣きたくなる
そっと父の手を握り
たわいない話や懐かしい昔話をする
うんうん、と聴きながら
握り返してくれる父の手は優しい
あんなに無骨だったのに
すっかり細く白くなった手は
不思議に美しくすらある
穏やかな時間が流れていく
この手を握っていたあの幼い頃に戻って
「おとうさん」
と呼んだら
父は照れたように笑った
いかないで
いかないで
いかないで
ちいさな女の子のわたしが泣いている
優しい手がわたしの頭を撫でながら
「泣くな」と言った
「ありがとう」と言ってくれた
ああ、涙が温かなものだと忘れていた
わたしは優しい手を濡らしてしまいながら
なかなか泣きやめずにいる
病室の窓からは
並木道を黄金色に
美しく染めているのが見える
黄金色の葉が風に舞っている
この静かな病室の午後を
わたしは忘れないだろう
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