何処にもない風景(2007.9)

  「翼」


ずっと 欲しかったのは翼

まっ白な大きな翼

その国へ飛んでいくための


寒い夜には翼にくるまり眠る

雨の日には翼を大きく広げ


わたしは旅を続ける



ずっと 欲しかったのは翼

夢見るようにただ願った

その国が何処にあるのか


知らなかったけれど

知らなくてもかまわなかった


わたしは旅立ちたかった


ただ


わたしは

わたしの翼で


空を飛びたかった


◆◆◆


  「街」


霧深い小雨の中を歩いていた

人を捜しながら


それは いつか逢った人

顔も名前も忘れてしまったけど


逢えばきっとわかる

魂の片割れ


どこか懐かしい街

薄暗い小雨の降り続く

その人と逢った街


その人に逢いたかったのか

その街に戻りたかったのか


今では わからなくなってしまったけど


わたしは捜し続けた

まるで それが当然のことのように


その人に逢った街

その人と過ごした街

小雨の降り止まない街

いつも泣いている街


捜してもその人のいるはずのない


想い出だけの

二度と行けるはずのない


あの



◆◆◆


  「天気予報」


天気予報は はずれてばかりだ



暗いところ苦手だったはずなのに

いつの間にか夜道を歩くのが好きになってた


ひとりになるのが怖かったはずなのに

ぼんやり夢想するひとりの時間に安らぐ


無くしたものと手に入れたもの


良いとか悪いとかじゃなくて

変わっていったもの


自分の行く先を

予想できなくなっていったのは

いつからだったろう



雨が降ってるよ

激しく


ねぇ 明日は晴れるんだろうか?


◆◆◆


  「どんぐり拾い」


昔 子供の頃

大好きで

何個も何個も拾った


あの家の前の大きなどんぐりの木


缶かんいっぱいになってもまだ

拾い集めて


つやつやの焦げ茶色

帽子の付いたのや

まあるいの

細めなの


ただ嬉しかった

ただ楽しかった

トテモシアワセナジカン


もうあの木は無い

あの場所も

あの季節も


ただ時間を止めたまま

心の此処にひっそりと


もうあの少女はいない

何処にもいない


わたしは


たったひとつのどんぐりが


今 、こんなに欲しい


(2007.9)

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