講評
ひまわりになる/吉所敷 https://kakuyomu.jp/works/1177354054895927487
「植物×モンスターパニック小説大賞」の一番槍は吉所敷さんのこちらの作品になります。
一番槍がまさかのひまわりだとは思いませんでした。内容としてはひまわりが地球を覆い尽くさんばかりに大増殖していて、語り手である主人公は滅びの様子をただ静観しながらスケッチブックに筆を走らせる……といったものですが、異常繁殖したひまわりの不気味さが上手く描写されていて、背筋が寒くなるようなものを感じさせます。
ひまわりという植物は青空の下で大輪の花を咲かせる陽気で清々しい印象がありますが、一方で「ひまわり畑に連れ去られる……」というような何処か不気味はモチーフとして扱われることもあって、そういった意味で本作のひまわりは後者なのでしょう。
モンスターに人類が立ち向かうのも良いですが、ただ一方的に滅ぼされるのもまた一興……
水神の嫁還り/こむらさき https://kakuyomu.jp/works/1177354054895932937
二本目は和風オカルトホラー。怖い伝承とか妹いびりの姉たちとか主人公の後悔と妄執とか恐ろしい伝承等々が盛り盛りで重厚感のある作品です。
今回の怪異モチーフは椿なのですが、椿は花がそのまま落ちる様が「人の首が落ちるようだ」とされて不吉とされているんですよね……。あと椿以外に蛇も関わる二段構え。
主人公の愛ゆえの妄執もさることながら、改めて読むと犠牲になったヒロインが暗に復讐をそそのかしていることに気がついて冷え冷えしました。単なる悲劇のヒロインではなく「ただでは死なん!」とでも言うような江戸怪談の怨霊じみた執念を感じて好きです。
あと途中で出てくる蛇っぽい雰囲気の整った顔立ちの少年好き。「お兄さん、いいことを教えてあげる」の所が特に……(ショタ好き魂)
そして、僕らは花になった/あきかん https://kakuyomu.jp/works/1177354054896078090
奇怪な宇宙植物によって両性具有化が引き起こされる世界での幼馴染同士の色恋の話。所謂パニック映画文脈とは遠いのですがなるほどそういう使い方もありか……と思いました。私に両性具有を愛好する趣味はないのですが(男の体してる美少年が好き)、幼馴染に向ける劣情っていうのはいつの時代も美味しいですよね。私もよく書いちゃいます。長年一緒にいる相手にそうした感情を向けてしまうことへの葛藤とか向けられた側の戸惑いとかそういうのが本当に良いんですよね。
ただ、「植物が人類の脅威となる」という点においてはやや趣旨を外していた感があります。両性具有化によって法や社会制度の改革を強いられたりとか人類が騒然となる描写が少しでもあった方がよかったのかも知れません。
最後に。花の香りに発情効果もあるって所でその先の展開を察してしまいますね……これはもうアレでしょうアレ……
狂い桜/金糸雀 https://kakuyomu.jp/works/1177354054897162966
一言で言えば植物の毒花粉で引きこもりが大量死する死ぬ話です。冒頭から何となく先の展開は読めるのですが正直読んでいてなかなかキツいものがあるというか気が滅入るタイプの話だと思いました。
しょーもな人が因果応報的に命を落とす話としてはよくまとまっていて良かったと思います。ですが、欲を言えば主人公の受難に割く文量に対して終盤の厄災描写が駆け足だったのが少し物足りなかったです。もう少しこっちにも字数を多めに割いて植物の毒花粉による災害の描写(というかパニック描写)が詳しく書かれてたらよかったかなと思います(せっかく植物によって人が大量死する話なので)。そこの所が詳しく書かれてたら植物パニックホラーとしてはかなり完成度の高い作品になったんじゃないかなと思いました。
麦に支配された世界にて/dekai3 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896050075
「麦人」なる謎の新人類によって社会が麦のゴリ押しをしているという世界と、その流れに抵抗する主人公のお話。企画を考えた時はまさかこのような奇作が来るとは思っていませんでした。明かされませんでしたが麦人の行動を見ているとウ〇トラマンに出てくるような侵略宇宙人なのでは……なんてことを考えてしまいます(実際ウ〇トラマンにも知性を持った植物怪人が登場しましたし)。米人という対立種族(?)が登場する所もまさしく……な感じですね。パニック描写という点では物足りない所もありましたが、人間社会が大きな変化を強いられる所がグッドでした。
米と麦、確かにどちらもイネ科なんですよね(ついでに言うと粟とか稗とかも)。米と麦の食文化における重要性の高さを思うと、人類はイネ科に生かされていると言っても過言ではありませんね……
あとあらすじの文章の「道を極めた中国人はドイツ人をラーメンする」って何なんでしょう(滅茶苦茶気になる)
マッシュルームゴースト/レンga https://kakuyomu.jp/works/1177354054897608695
巨大なキノコの胞子を吸い込んだ女子高生から喋るキノコが生えてくるお話。マ〇ンゴかと思ったら寄〇獣っぽさも少し感じました。人がキノコ化したり街中にキノコが生えて家屋や道路を破壊するさまはパニック力高いです。ベリーベリーグッドです。光景を想像すると中々恐ろしさがあります。キノコってそれこそマ〇ンゴからそうなんですけど何処か人に恐ろしさを覚えさせるんですよね。特撮でも不気味で嫌らしい敵として扱われますし。それにしても、望みを失った主人公の最後の選択には百合を感じました。そういえば百合って植物ですね……(?)
けれども一つ、読み終わって思ったのですが、キノコは菌類であって植物ではないのでは……?
アルストロメリアの徒花/神崎 ひなた https://kakuyomu.jp/works/1177354054896496079
一言で言うと世界中で暴れ回る災害レベルの怪植物と人間との戦争のお話。ポストアポカリプスモノですね。シリアスな調子で突然の面白外国人(Youtube眼鏡とか持ってそう)の登場に草(植物だけに)生えました。あのユーロビート好きです。とはいえコメディな部分はその男との会話ぐらいで、全体通してシリアスかつ悲恋モノの結末を迎えます(タグにもある通りですね)。
これぞ植物×モンスターパニック!といった感じの茂り方と、それに逞しく立ち向かう人間側が生き生きと描写されていて良かったです。ラストも御都合主義的になりすぎず、しかし希望を持たせる終わり方で良い締め方だったんじゃないかなと思いました。
ところで、最後の「ショウガねぇから」のショウガは生姜とかけたギャグだったりしませんか……?
共生依存/宮古遠 https://kakuyomu.jp/works/1177354054897923853
色々と疲弊している男が少女の姿をした明らかにアカン感じの生物を匿い、自らの精神の拠り所としている話。冒頭から何となく顛末は読めるのですがやはりそうなりましたか……。東京タワーを見せるシーンが最後の展開の伏線になってるのを読み返して気づいた時には脱帽しました。ラストもまさにモンスターパニックな感じで良かったです(シン〇ジラとか平成ガ〇ラシリーズを想起させられました)。あと途中のイチジクとイチジクコバチの知識もためになりました。
アカン感じの生物も読んでる側にとっては可愛らしいというより不気味に思えてくるのですが、主人公の精神が弱ってしまっているせいでずるずると蟻地獄に落ちていくみたいに悲劇に向かって突き進んでいくのが見ていて遣る瀬無かったです。人の心の弱さにつけ込んでくるのは何とも嫌らしく恐ろしい……
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