第3話 異国の地で
今日も無事に勝つことが出来た。
今頃日本では瞳子は何してるかな?
今日は休みだからゆっくり寝てるかな?
土日はバイト休みにしているって言ってたから。
僕もシャワーを浴びて寝るとするか。
すると僕のスマホが鳴る。
誠司からのメッセージだった。
「ちょっと話がある」
何だろう?
PCをつけて通話チャットを立ち上げる。
誠司はオンラインになっていた。
「今なら大丈夫だけど?」
「試合後にすまないな」
「ああ、大丈夫?それよりどうしたの?」
「あ、冴の事なんだけど」
冴?
それは僕に聞くより冴に聞いた方が早いんじゃないのか?
「冴がどうかしたの?」
「最近、なんか態度が素っ気ないんだよな。俺なんかへまやったかな?何か瞳子から聞いてないか?」
「……いつ頃からそう感じてるの?」
「今月に入ってから。向こうじゃ大学始まってすぐくらいじゃないかな?」
誠司の話を聞いて思い浮かんだのは、ちょうど瞳子が合コンに誘われた辺りか。
瞳子は男に言い寄られて断ったって言ってたけど冴はどうだったのか聞いてなかったな。
誠司もイタリアだし遠距離で色々不安もあるだろう?
確証がとれるまでは悪戯に不安を煽る様な真似はしない方がいいだろう。
試合に影響が出るとまずいだろうし。
僕達はレギュラーに慣れたとはいえまだ1年目という大事な時期なのだから。
「何も聞いてないけど、今度瞳子に聞いてみるよ」
誠司が冴に聞くより良いかもしれない。
そんな予感がしたから。
「すまないな。それはそうと冬吾。今日も得点したんだって?絶好調じゃないか?」
「ニュース見てるよ。誠司も大活躍じゃないか?」
「チャンピオンズリーグでは手加減してくれよ」
「それは無理な相談だよ」
「……一度冬吾とガチで勝負してみたかったんだよな」
「僕も」
そんな他愛もない話をして、話は終わった。
明日瞳子に聞いてみよう。
そう思って寝た。
翌日。
練習が終わった後に瞳子と通話をする。
瞳子もバイトが終わって丁度休んでいる頃だろう。
僕からかける事はあまりない。
瞳子も一人暮らしで色々大変だろうから。
でも待っていても必ずかけてくれる。
時間もだいたい決まっていた。
向こうでは大体22時ごろになるとスマホが鳴る。
すぐにでた。
「テレビでやってた。冬吾君すごいね」
「周りの選手も超一流だから気を抜けないんだ」
世界一の資産価値のあるチームなんだから。
「それより瞳子に聞きたい事があるんだけど」
「どうしたの?」
「実は冴の事で」
「え?……」
瞳子の様子が変わったのが分かった。
「何かあった?」
「実は誠司から相談を受けていて……」
昨日誠司から聞いたことを話すと、段々瞳子の表情が曇っていくのが分かった。
やっぱり何かあったんだ。
何かあったとすればあの合コンだろうか?
「前に言ってた合コンで冴の事聞いてなかったけど、冴はどうしてたの?」
「……冬吾君には隠し事しないって決めてるから、正直に話すけど、まだ誠司君には伏せておいてほしいけどいいかな?」
やっぱり。
「わかった。で、どうしたの?」
「実は……」
一緒に来てた男性を気に入っていつも一緒に遊んでるらしい。
沖縄から来た青年で、冴と同じ大学の学生だそうだ。
同じ高校の生徒は東京に行くか、地元大学に行くかがほとんどで冴の大学には友達がいない。
だから、それもしかたないと瞳子は自由にさせていたそうだ。
「ただの遊び友達だよ」
冴もそう言っていたけど、週末になると泊りがけで遊んでるそうだ。
遊ぶと言っても朝までファミレスやカラオケ、居酒屋で仲間と盛り上がっているだけ。
瞳子は毎週別府に通うほど余裕がないからたまにしか参加していないらしい。
泊りがけってやばくないか?
「それは誠司には秘密にしておいて方がいいかもしれないね」
「ごめんね。私からも冴に、誠司君の事ちゃんと構ってあげないとって言っておくよ」
「本当にそうなのかな?」
「え?」
僕が言うと瞳子が聞き返してきた。
本当にただの遊びなら問題ない、誠司にも連絡してるはず。
瞳子は言っていた。
冴は沖縄に憧れていると。
それに遊びとはいえ、男の家に泊まりこむってどうなんだ?
そんな近況を語れないほど実は冴の心は揺らいでいるんじゃないか?
だけど、単に冴の現状を冴の口から言えば良いというわけじゃない。
それを冴が誠司に話した時は、もう時すでに遅しなんじゃないだろうか?
今でも冴の心はその沖縄の男性に傾いているんじゃないか?
「私、今度冴に聞いてみる。曖昧な状況は誠司君にもよくないだろうし」
「そうだね」
「ごめんね。でも私の事は信用して欲しい」
「分かってるよ」
「……うん」
その後話題を変えて、今日本ではどうなっているかとか聞いていた。
流行の曲やドラマなど、色々興味はあった。
尽きる事のない話題だけど時間に限りはある。
冴だって明日は学校だ。
「じゃ、今日はこの辺で。あまり根をつめないで」
「冬吾君も怪我には気を付けて」
そう言って通話を切る。
誠司になんて答えよう。
合コンとかで遊んでる。
それだけでも不安になるかもしれない。
やはり入学したばかりで忙しいみたいだと、言っておくのが無難だろう。
「それもそうか、俺の思い過ごしだよな」
誠司はそう言って笑っていた。
僕はとてもうろ締めたい気分になった。
でも冴の事は瞳子に任せるしかない。
「おーい、トーゴ。飯の時間だぞ」
チームメイトが言っている。
僕は食堂に向かった。
誠司の事は気にかかるけど、今は試合の事を考えなくちゃいけない。
10番を取れたとはいえ、周りはA代表の常連のようなメンバーだ。
常に自分をアピールしないといけない。
それはきっと誠司も同じだろう。
だから余計な不安は与えたくなかった。
その時冴の心はすでに大きく傾いていることなど知る由もなかった。
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