リレー小説一発目
何もかもが燃えている。人々の断末魔と、地上を闊歩する死霊たちの呻き声が辺りを覆う。見渡す限りの死体、死体、死体。動かないか、死霊として生者を求めて彷徨歩くかの違い。
そんな炎の町の中央――崩れた城壁の向こう側にそびえる堅牢な城。人類最後の砦である、ダンフラット城。二百にも満たない人類の生き残りが立て籠る、最後の希望だ。
その大広間、入り口から近いその場所で、激しい戦闘が起きていた。
約五十名ほどの兵士たちが、次々と溢れ出す死霊たちを相手に奮戦している。だが、雑魚相手ならまだしも、時折まじる強大な死霊との交戦があり、その数はわずかに、それでも不気味に確実に減り続けていた。
また、二人の命が潰える。その死霊は、続いて三人目の命を刈り取ろうとその兵士の首を掴んだ。筋肉の制限が外れたあり得ない膂力で首の骨を折ろうとする。
兵士の声にならない悲鳴が漏れたその瞬間、死霊の力が緩んだ。兵士と死霊が視線を下ろすと、死霊の体を貫く白銀の刃が目に入る。
死霊を後ろから貫いた女性。怒りとも、悲しみともとれる声で呟く。
「これ以上……お前たちの好きにはさせないっ!」
感情そのままに剣を上方向へと切り上げる。腹の中央から左肩にかけて大きく裂かれた死霊は、再び物言わぬ死体へと戻った。
剣に付いた汚い血を振り払い、女性が残る死霊たちへと向き直る。
「人類は、まだ……負けていない!!」
かつて、世界は三人の勇者によって守護されていた。その最後の一人が、この女性なのだ。
勇者によって守られていた平和が崩れ去ったのが、ちょうど一週間前の話。天より堕ちてきた『天の魔王』により、人類はこうして絶滅寸前まで追い詰められている。
最初の日に、魔王が堕ちた帝国が滅ぼされた。
次の日に、帝国のすべての人が死霊として魔王の支配下に下った。
さらにその次の日に、周辺の小国が滅ぼされた。
そしてその次の日、勇者の代わりに出撃した『四聖』と呼ばれる者たちが殺された。
さらに次の日、勇者が二人殺された。
次の日、人々は最後の都市に逃げ込んだ。
そして今、最後の都市に死霊の軍勢がなだれ込む。
数千、数万の戦力差を抱えながら戦うのは、歴戦の猛者でも厳しい。不可能だ。事実、最後の勇者である彼女も、満身創痍に違いない。
左目の視界は赤く染まり、呪いを受けた右目は抉りとった。全身を自分と兵士、死霊たちの返り血で汚してもなお止まらない。自分が倒れたその時が、人類絶滅に繋がると理解している。
体力も限界、魔力も枯渇。執念だけでどうにか立っているようなその姿でも、人の誇りを体現するかのように美しい。
そして、それは突然にやって来た。
死霊たちが道を開ける。その動きにつられた女性が、死霊たちを掻き分けて歩いてくる人物を見つける。
全身から濃密なまでの闇の魔力を迸らせ、対峙する者に明確な死のイメージを植え付ける圧倒的なまでの存在。人類の仇敵。絶望と破壊の権化。口に出すことすらも憚られるその名前を、
「天の……魔王…!」
女性が震えながら口にした。魔王が不敵に微笑む。
『俺の名を恐れず呼ぶとは、見所のある女よ』
「はぁ……はぁ……くっ…!」
気を抜けば意識を闇に塗り潰されそうな威圧の中、呼吸と自分の存在を自問して耐え抜く。
『未来亡き人類に、何をそこまで執着する? 疾く諦め、死霊として俺の傘下に入るがいい』
「ふ、ふざけるな!」
『お前の友である勇者ども、親、兄弟姉妹、信じる者、助けたいと願う者。皆、俺が殺した。そして、俺の軍門へと下らせた』
「はぁ……はぁ……はぁ…!」
魔王が不気味な笑い声を発する。魂を震わせる地獄から響くような笑い声。女性の呼吸が早くなる。全身が自分の意思とは関係なく震え出す。嫌な汗が体を濡らす。涙を制御できず、朱色の涙が左頬を伝う。
魔王が天に向けて手を掲げた。莫大なまでの魔力が一点に収束していく。ダンフラット城を吹き飛ばしてなお余りあるその威力。最悪の展開が脳裏に浮かぶ。
『お前も……死ねぇぇぇぇっ!!』
「うっ! うわあぁぁぁぁっ!!」
絶望に呑まれまいと、女性が駆け出す。目指すは魔王。魂からの咆哮を引き連れて、魔王へと走る。
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