504球目 センバツ優勝校はタダで転ばない

 5回表の攻撃前、埼玉さいたま翔出しょうで青郡あおごおりキャプテンは円陣を組んだ。



「俺達はセンバツ王者だ! ここで負けるワケにはいかない! 勝つためにはどうする?」

「ヒットを打つ!」

「何が何でも出塁する!」

「そうだ! この回、逆転するぞ!」

「オー!」



 選手の自主性を重んじてきた綾倉あやくら監督は、その様子を感慨深く見ていた。



「6番サード張川はるかわ君」



 張川はるかわは打席に入って、スパイクで土をならしながら考える。自分はパワーはないが、当てることに関しては自信がある。初球シングルヒットより、粘って四球の方がいいだろう。



 彼はヒットを捨て、ひたすら水宮みずみやのボールをカットした。水宮みずみやにはカーブやフォークのような変化が大きい空振りの取れる変化球がない。ストレートとチェンジアップの緩急に惑わされなければ、カットするのは容易だ。



 12球目のストレートが高めに外れて四球フォアボールになった。



「よっし! 春島はるじま、続いて!」


「任せろ」



 春島はるじまはバントの構えからバスターで打った。だが、ボテボテのファーストゴロになる。



「テイク・オン・ミー、あれ? あれ?」



 ボールが真池まいけの股下を抜けていく。ファーストのエラーで無死1・2塁に。



「かっとばせ、かっとばせ、三原みはら!」



 三原はフルカウントから、水宮みずみやのグローブ強襲ヒットを打った。ついに無死ノーアウト満塁フルベースの大チャンスを迎える。



「9番ピッチャー夜野よるの君」



 夜野よるのは不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと打席へ向かった。



(続く)

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