499球目 ワンバウンドしたボールを打たない

「ねぇ。どのコースがスキかしら?」



 夜野よるのは二巡目から好きなコースを聞くようになった。



「高め、高め! バントしやすいゾーンだぜぇ!」

「そう……」



 夜野よるのはハイテンションな真池まいけさんが苦手のようだ。



 真池まいけさんは外角高めアウトハイのストレートをプッシュバントしたが、ピッチャー真正面のフライになってしまう。



「ねぇ。どのコースがスキかしら?」

「うーん、どれも好きかなぁ」



 この津灯つとうの回答の場合、どこへ投げるだろうか。



 初球は外に沈むパームを投げてきた。



「ボール!」



 甲子園でも津灯つとうの選球眼は冴えわたる。チームトップのアベレージを残す彼女なら、きっと夜野よるののボールをとらえられる。



 2球目は内角高めインハイのストレートだ。彼女は思いっきり引っ張る。



「うっ!」

「ああ」



 ファーストとセカンド両方動けない。鮮やかなライト前ヒット。さすがキャプテンだぜ。



「4番センター山科やましな君」



 いつもなら津灯つとうを走らせたいが、相手キャッチャーは盗塁阻止率100%なので、それは出来ない。普通にヒッティングだろう。



「ねぇ。どのコースがスキかしら?」

「打てる範囲のボール全てが好きさ。女性の好みと一緒やね」



 何というイケメン発言。山科やましなさんて、どんな顔の女子とも付き合うからなぁ。すごいわ。



「じゃあ、これも打てる?」



 夜野よるのはシンカーをワンバウンドさせてきた。山科やましなさんは打ちにいく。サードへの強いゴロ。



 あああ、5-4-3のダブルプレーで、一瞬にしてスリーアウトチェンジになってしまった。女性ファンのタメ息が甲子園球場を包んだ。



(続く)

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