8回表 浜甲学園野球部が甲子園出場へ 6人の新たな戦士たち

473球目 お前はもう理事長夫人じゃない

 柳生やぎゅう理事長夫人はTVの前で真っ白になっていた。大嫌いな野球部を解散させるため、あれやこれやとやってきたことが、全てムダになってしまったのだ。



「ああああ……、甲子園……」



 野球グラウンドをラグビー用に変える計画はパーだ。彼女は園田そのだに声をかけようとするも、彼の姿が見当たらない。



「園田! 園田! どこ?」



 すると、ドアが開いて、柳生やぎゅう理事長と園田と校長と教頭とベテランの先生たちが、大名行列のようにぞろぞろ入ってきた。



柳生やぎゅうアンナ、お前とは離婚する!」



 久しぶりに理性が戻った目の柳生やぎゅう理事長が、はきはきと喋った。



「なっ、何ですってぇ!? ど、ど、どうして、あなたが、何のえー?」



 目の前の夫の変わりようが信じられぬ彼女は、体のあちこちを触って取り乱す。



「俺が理事長を病院に連れて、治療させたんですよ。アンナさん、もうこんなことはやめましょう」


「イヤ、嫌よ! 野球部なんて、この世から無くなればいい! 私はこの世の野球を駆逐してやる! アハハハハハ!」


「もう手遅れですな」


「どうしましょうか」



 アンナは机の上に乗って、政治家の街頭演説みたく高らかに宣言する。



「3年以内に野球を滅ぼしてやるわ! 今ここに約束します!」



 しかし、誰も彼女の声に耳をかたむけない。柳生やぎゅう理事長たちは声をひそめて相談している。



「彼女に劇物げきぶつを食べさせられたという理由で、離婚できますかね」


「彼女はいくつか法律を犯してますから。このままでは全国出場の汚点になりますよ」


「もう二度とここで戻れぬよう、飛ばしましょう」



 金髪の男が手を叩くと、柳生やぎゅうアンナの体が浮き、一瞬にして別の場所へ飛ばされた。



「おのれ、おのれぇ! この恨み、はらさでおくべきかぁ!」



 祖父戸そふどアンナは、いつの間に持たされた離婚届の紙をクシャクシャに丸め、山姥やまんばのように目を血走らせて叫ぶ。



 彼女の打倒・浜甲学園、野球殲滅せんめつ計画はまだまだ終わらない。



(続く)

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